『サウンド・オブ・ノイズ』 ~陳腐な世にテロを仕掛ける! 前代未聞のロマンチック・ヘンテコ映画~

  • 2013年07月26日更新

突如現れた6人組。彼らは、あらゆるものをパーカッションに見立て、リズムを刻み音楽を作り上げる、ミステリアスなテロリスト。この事件を追う警察官は、破格の音楽嫌いアマデウス。要求を明かすことなく見事な「音楽テロ」を繰り広げる、謎の6人組の目的とは……? カンヌ国際映画祭をはじめ、各国の映画祭の短編部門で賞レースを賑わせた短編映画『アパートの一室、6人のドラマー』。本作はそのコンセプトを活かし、キャストもそのままに、バージョンアップさせた長編意欲作。本年2月にユーロスペースで開催された「トーキョーノーザンライツフェスティバル」でプレミア上映されるも、満席で観逃したという声も多い。スウェーデン発の新感覚エンターテインメント、いよいよ期待の全国上映スタート!
7月27日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開。
© 2010 BLISS/DFM FIKTION/NORDISK FILM/WILD BUNCH/KOSTR-FILM/DFM/FILM I SKÅNE/FILM I VÄST/EUROPA SOUND


筋金入りの音楽嫌いvs情熱あふれるテロリスト
音楽の名門である家柄に生まれながら超音痴で、今や極度の音楽アレルギーである警察官・アマデウス(ベングト・ニルソン)。爆弾事件を疑われる現場で、カチカチという異音が、爆弾ではなくメトロノームであることを聴き分けたアマデウスは、このメトロノームを手がかりに捜査を開始。その頃、ニセ爆弾事件の犯人であるサナ(サナ・パーション)とマグナス(マグナス・ボイエソン)は、壮大なテロ計画のため、腕利きのドラマーたちを集めていた。サナたちの計画とは、あらゆるものを楽器に見立て、とんでもない場所で音楽を作り出す、前代未聞の音楽テロだった! 彼らが街中に貼り出したのは、4つのテロ予告。~「4楽章のテロ予告」(街と6人のドラマーのための音楽)  1:DOCTOR,DOCTOR,GIMME GAS(IN MY ASS)(手術室) 2:MONEY 4 U HONEY(銀行) 3:FUCK THE MUSIC KILL! KILL!(クラシックコンサート会場) 4:ELECTRIC LOVE(高圧電線による本物の電子音)~ 彼らのテロ活動は、破壊や冒涜を伴うものの、要求もない謎の行為。そして情熱をもって、見事な音楽テロを成功させていく。一方、彼らを追うアマデウスには、ささやかならぬ変化と「気づき」が起こり始める……。


音楽シーンだけじゃない、新感覚のエンターテイメント。
本作の最大の見どころは、もちろん「4つの音楽テロ」シーン。6人のドラマーによる骨太サウンド&強烈なビジュアルだ。前身となった短編映画のように、このパフォーマンス部分だけを切り取ってもみても素晴らしく面白い。しかし今回はこの「4つの音楽テロ」をひとつの要素として組み込んだ、豊かな長編作品として生まれ変わっている。まるで甘美な楽曲さながらに、大きなうねりをなめらかに描きながら、さまざまな「映画のオイシさ」を巻きこんで可能性を広げていく。まさに「シンフォニー」といった味わいだ。音楽嫌いの警察官・アマデウスは、幼少時代に、名門音楽家一族に身を置きピアノを弾いていた。謎の音楽テロリストたちとの出会いは、アマデウスにとって人生の必然ともいえる。紅一点のサナにそれと知らず接触し、手引きされるかのようにアマデウスは捜査にのめりこんでゆく。ロマンス、コメディ、クライム、そしてやはり、音楽! 「表現とは何なのか?」という疑問や、コンプレックスと背中合わせの心理など、あらゆる人に寄り添うテーマがありながらも、奇想天外なアイディアがぎっしり詰まっている。これはジャンル分け不可能で、秀逸な作品だ。


ファンタジーとリアルが混在する、ありそうでなさそうな世界。
作品中には、ときおりファンタジックな現象があらわれる。警察官・アマデウスの音楽嫌いはアレルギーレベルで、旋律を伴った音を聴くだけで耳から流血したり、一度音楽を通した媒体から音が失われたり……。象徴的だが前置きもつじつま合わせの説明もなく、そこはかとなくヘンテコな匂いが漂う。こういった現象を含め、舞台となるのは少し現実離れしつつも、どこかにありそうな街。また、キャストについては、ドラマー役は全員が本人名のまま出演。6人中、女優のサナ以外はプロのミュージシャンであり、本人のプロフィールがそのまま役のプロフィールだという。このあたりは、なんだかリアルすぎる妙なバランスなのだ。難解ではないが独創的、シンプルでありながらてんこ盛りの面白さ、ピュアでありながらクール、飾っていないけれどオシャレ……言葉を尽くそうとも、いろんな角度から観られる作品だから説明しきれない。むしろ説明するのが野暮かもしれない。本作は、とにかく体験していただくしかないのである。映画を楽しむ感覚は人それぞれ、みなさまお持ちだと思う。しかし願わくば、頭を柔らかくし、この世界観に身を投じて、型破りな愛すべき作品を楽しんでいただけますように。



▼『サウンド・オブ・ノイズ』作品・公開情報
スウェーデン・フランス/2010年/102分
監督 オラ・シモンソン、ヨハネス・シェルネ・ニルソン
出演:ベングト・ニルソン、サナ・パーション、マグナス・ボイエソン、ヨハネス・ビョーク、マルクス・ハラルドソン・ボイエ、フレデリック・ミア、アンダース・ベステガルド ほか
配給:アット エンタテイメント
●『サウンド・オブ・ノイズ』公式サイト
ツイッターアカウント:@sonmovie727 Facebook:http://www.facebook.com/sonmovie
7月27日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開
© 2010 BLISS/DFM FIKTION/NORDISK FILM/WILD BUNCH/KOSTR-FILM/DFM/FILM I SKÅNE/FILM I VÄST/EUROPA SOUND

文:市川はるひ

  • 2013年07月26日更新

トラックバックURL:https://mini-theater.com/2013/07/26/27854/trackback/