『何かが壁を越えてくる』 ― 『見えないほどの遠くの空を』の榎本憲男監督による待望の新作が、第25回 東京国際映画祭で上映。

  • 2012年10月21日更新
「あの映画祭では、どの作品を観よう? あ、この映画祭のチケットも、そろそろ買わなくちゃ!」 ― 映画祭開催ラッシュの秋、映画ファンは毎週のように忙しい。2012年の今年、「第25回 東京国際映画祭」も幕をあけた。10月20日(土)~28日(日)、東京のTOHOシネマズ六本木ヒルズをメイン会場に開催される。

『見えないほどの遠くの空を』の榎本憲男監督が手がけた待望の新作は、「一見」、青春ロードムービーの短編映画。

 今年の東京国際映画祭では、昨年、インターネットを中心に「『見え空』中毒者」を続出させた青春映画『見えないほどの遠くの空を』を手がけた榎本憲男監督の新作に逢える。35分の短編映画『何かが壁を越えてくる』 ― 「日本映画・ある視点」部門にて、10月21日(日)と24日(水)に、TOHOシネマズ六本木ヒルズで上映されるのだ。

 コンビで活動するお笑い芸人のレイラとエイミ(今村沙緒里・佐々木ちあき)。ふたりはこれから、マネージャーで芸人の大崎(上村龍之介)が運転する車に乗って、地方の営業先へ向かうことになっている。3人だけの、夜通しのドライブ。「自分たちのネタは、地方では受けが悪い」と考えているレイラは、営業に気乗りがしない。一方、エイミは、「これから行くところには幽霊が出る」という噂を信じこんで怯えていて、車中の空気は重さを増すばかり。道中、休憩を挟みつつも、車は目的地にたどりつくが……。

「コンビの仲は、それほどうまくいっているわけではなさそうだ」と、レイラとエイミの態度を見ながら想像する。彼女たちと大崎 ― 3人の会話や雰囲気に、ときにくすりと笑いながら、単なる仕事仲間であるという以外にも、いろいろあったようだ、と野次馬的な好奇心を刺激されもする。仕事や生活に満足感を覚えきれない若者たちが織りなす、ほろ苦くて瑞々しい青春ロードムービーに、「一見」、映る。エイミの言う幽霊が3人を恐怖に陥れるホラー映画に変わるのだろうか、という予感も湧いてくる。

 しかし、本作は、そのいずれでもない。

壁を越えてきた圧倒的な「何か」に、視界も心も呑みこまれる。

 3人の登場人物たちが直面している、毎日や将来に対する不安や葛藤の気配は、青春映画やドラマ映画の要素として、強く伝わってくる。暗闇が絶妙に使われている映像に、ホラーやスリラーで味わう嬉しい悪寒もそそられる。だが、「壁を越えてきた『何か』」を3人がまのあたりにした瞬間 ― この作品のジャンル分けやカテゴライズといった些末なことは消し飛んで、その圧倒的な「何か」だけに、視界も全身も心も呑みこまれる。

『何かが壁を越えてくる』の「何か」 ― それは3人の登場人物だけではなく、この映画を観た人間にも等しく迫ってくる。まずは唖然とし、次に、頭をめぐらし、映画を観終えてからは、焦るかもしれない。さらには、嘆くかもしれない。いや、焦ることも嘆くこともできず、頭が真っ白になったままであるかもしれない。

「何か」の正体を知った衝撃に心身が震えて動揺しつつも、レイラとエイミ、大崎の表情や会話が蘇ってくる。3人の「傍目(はため)にはときに滑稽な、ごく普通の日常」もまた、そこには確かにあったのだ。「何か」に圧されて、言葉を失っていたはずなのに、レイラたちのコミカルで他愛のないやりとりを思いだすと、おのずと顔がほころんでくる。「あたりまえすぎる『日常』」と、「大きすぎる『何か』」 ― 本作の登場人物やこの映画を観た者のみならず、人々は今、この両者の狭間や渦中で生きている。

▼『何かが壁を越えてくる』作品情報
Something Wicked Comes Over the Wall (double feature with Since Then)
35分/日本語/Color/2012年/日本
監督・脚本・プロデューサー:榎本憲男
出演:今村沙緒里 佐々木ちあき 上村龍之介
配給:ドゥールー
コピーライト:©ドゥールー

▼『何かが壁を越えてくる』
「第25回 東京国際映画祭」での上映情報

上映日時:
●2012年10月21日(日) 18:20~21:28
●2012年10月24日(水) 13:50~16:58
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ
※「日本映画・ある視点」部門にて、『あれから』(篠崎誠監督・2012)との2本立て上映。いずれもワールド・プレミア。
※いずれの日程も、榎本憲男監督ご登壇による舞台挨拶とQ&Aが開催予定。舞台挨拶には、出演者の今村沙緒里さん、佐々木ちあきさん、上村龍之介さんもご登壇予定。
※チケットの購入方法等、詳細は、「第25回 東京国際映画祭」の公式サイトをご参照ください。
▼「第25回 東京国際映画祭」開催概要
期間:2012年10月20日(土)~28日(日)
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ(メイン会場)
主催:公益財団法人ユニジャパン
「第25回 東京国際映画祭」公式サイト
※チケットの購入方法等、詳細は、上記の公式サイトをご参照ください。

文:香ん乃

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  • 2012年10月21日更新

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