【インタビュー】『スリープレス・ナイト』 — フレデリック・ジャルダン監督&トメル・シスレーさん(主演)&ニコラ・サーダさん(脚本家)

  • 2012年09月09日更新

ドラッグを強奪した刑事と、刑事の息子を強奪したマフィア。巨大ナイトクラブを舞台にそれぞれの思惑が交錯し、眠れない一夜が幕を開ける—。スリリングな展開で観るものを混沌と興奮のるつぼへ誘う、フランス発ノンストップ・ノワールアクション『スリープレス・ナイト』。

ハリウッドリメイクも決定した本作を携え、プロモーションのために来日したフレデリック・ジャルダン監督と主演のトメル・シスレーさん、そして急遽インタビューに加わった脚本家のニコラ・サーダさんの3人に作品の見どころと撮影の裏側などをうかがいました。
(写真は左からトメル・シスレーさん、フレデリック・ジャルダン監督、ニコラ・サーダさん)


「東京はとても魅力的な街!」

― 来日されたご感想と、東京の印象をお聞かせください。

フレデリック・ジャルダン監督(以下、ジャルダン監督) 今回、映画『スリープレス・ナイト』と共に来日できたことを、とても光栄に思っています。日本の皆さんが、この映画を観てどんな反応をするのかが、とても楽しみです。日本に到着してからはまだホテルでの取材や移動ばかりで、あまり外に出ていないですが、部屋や車の窓から観る東京の街はとてもエキサイティングで、ポジティブな意味でとても衝撃を受けています。

トメル・シスレーさん(以下、トメル) 日本に来るのは今回が初めてですが、これが最後にならなければいいですね(笑)。まだ、ゆっくり観光などはできていないけど、少し見た限りでも日本はとても魅力的です。できれば街をブラブラ歩きながら、知らない場所に来たという感覚をゆっくり味わいたいですね。

ニコラ・サーダさん(以下、ニコラ) ジャルダン監督やトメルと一緒に来日することができて嬉しいです。これまで日本の風景は、小津(安二郎)監督や黒澤明監督、北野武監督の作品を通して部分的に見たことがあるけれども、実際に自分の目で見ることができてとても嬉しい。東京という都市はひとつの場所に、さまざまな雰囲気のものが集まっていて、いろいろな色彩を感じさせてくれる。ほかの大都市には無い魅力だと思うし、映画的な視点から見ても、凄くエキサイティングだと思います。

「ヴァンサンは、自己犠牲の精神をもって状況を捉えることができる人物。トメル自身もその要素を持っている」(ジャルダン監督)

― 監督にとっては初のアクション映画だそうですが、以前からこういったジャンルの作品を撮ってみたいというお気持ちはあったのでしょうか。

ジャルダン監督 アクション映画を撮ってみたいという考えは、昔から頭の中にありました。前作を撮ってから約7年間経っているのですが、その間も構想としてはずっとありましたね。だから実際に今回のような映画を撮ることができて嬉しいし、次回作も同じ色合いの作品を撮る予定です。

― トメルさんを主演に選んだ理由についてお聞かせください。

ジャルダン監督 演技力が無いから……というのは、嘘で(笑)。トメルは肉体的な表現も、繊細な感情表現もできる俳優です。この2つの要素は、本作の主人公であるヴァンサンを演じるうえで最も重要なことですし、フランス映画界においてその両方を表現できる俳優は希有だと思っていましたから、彼が出演オファーを受けてくれて本当に良かったと思っています。また、これまで映画ではあまり見たことの無い顔ぶれでキャスティングをしたいとも思っていました。ヴァンサンは、内面にヒーロー性を持っていて、自己犠牲の精神をもって状況を捉えることができる人物ですが、トメル自身もその要素を持っていると感じました。だからヴァンサンには、トメルの素の部分が多分に出ていると思います。

「シナリオがとても緻密。読んだ時点でどんな映画になるのかが容易に想像できた」(トメルさん)

― 続いてトメルさんにお伺いします。本作に出演を決めた理由についてお聞かせください。

トメル シナリオがとても良かったんです。とても緻密に書かれていて、初めて読んだ時点でどんな映画になるのかが容易に想像できたし、描かれているストーリー自体もとてもおもしろいと思いました。

― トメルさんはアクションシーンをすべてご自分で演じることにこだわっているそうですが、その理由を教えてください。

トメル 単純に、そのほうが作品にとって良いと思うから。監督にとっても、スタントマンを使って背中からのカットしか撮れないよりも、一人の役者がすべてを演じるほうが撮影もしやすいし、作品に真実味が出る。自分が役に成りきるうえでも、肉体的に可能なことであれば自ら演じたほうがいいと思っています。

「すべては “限られた空間の中の混乱” を描くための設定」(ジャルダン監督)

「観ている人には手加減をしている印象を与えたくない」(トメルさん)

― 本作の見どころの一つとして、スピード感あふれるカメラワークがあると思うのですが、時には真下から撮ったり、真上から撮ったりという独特のシーンがありました。具体的にどういった効果を狙っているのでしょうか。

ジャルダン監督 ヴァンサンの行動に合わせてカメラが動くことで、映画全体に流れるカオティックな雰囲気を増幅させる効果を狙いました。今回の撮影で重要視していたところは、より躍動的でリアルに見せるということです。ヴァンサンがケガをしたり、コカインをトイレの天井裏に隠す動きも、観客が本当にそれを近くで見ているかのようなカメラの使い方を考えました。真上から撮ったり、真下から撮ったりすることでヴァンサンが今どのような状態になっているのか、リアルに感じて貰えると思ったし、より混乱する感じを狙ったのです。彼があの作品の中で求めていたものは、“出口”と“光”ですが、それをより際立たせるための効果があったと思います。

― ナイトクラブを舞台にしたことや大勢のエキストラを配した意図を教えてください。

ジャルダン監督 すべては “限られた空間の中の混乱” を描くための設定です。そのためにナイトクラブのシーンでは約600人のエキストラを使った日もありました。彼らにはちゃんとした役割があって、ある時は逃げるヴァンサンをかくまい、ある時はヴァンサンをさえぎる障害物として敵対関係にもなるわけです。ただ、それだけの数のエキストラを動かす撮影は本当に大変でした。カメラワークも重要ですし、アシスタントや役者など、いろいろな人たちが一体となって一つひとつの場面を細かく作らなければなりませんでした。そして撮影だけではなく、編集作業においても、よりカオティックな雰囲気を作り込みました。例えば音楽は、ナイトクラブが流している音楽と、映画の物語として流している音楽をわざと重ね、無造作な感じを表現するなど、さまざまな要素をミルフィーユのように何層にも重ねて本作を作り上げました。

― トメルさんご自身が、撮影時に苦労した点を教えてください。

トメル 撮影は、必ずしも物語の順番どおりに進行するわけではないので、時にはストーリーが前後することもあります。ヴァンサンは傷を負っていて、その痛みが物語の進行と共に深くひどくなっていくわけですが、それを踏まえながら演技をしなくてはなりませんでした。もちろん、スクリプター(記録係)が「この前はここまで撮ったから、ここからの感じで」ということは説明してくれますが、痛みや焦燥感を継続的に映し出すように意識を常に持っていました。一番大変だったのは冷蔵室で女性捜査官と格闘するシーンですね。実際の撮影も本物の冷蔵室で行ったので、凄く寒かったし、だいたいのシーンはいくつかのカットに分けて撮影するのですが、あのシーンだけはワンカットで撮影していて、テイクを重ねる度にはじめから撮り直すんです。観ている人には手加減をしている印象を与えたくないですし、そういう意味ではわりと本気で格闘したのですが、相手の女優にケガをさせてしまうんじゃないかという心配もあって、難しいシーンでした。彼女に「どこか、痛めたところは無い?」と聞いたら「大丈夫」とは言っていましたけど、おそらくはあったと思います。

「父と息子の関係性を描くというのが本作の目的でもあった」(ジャルダン監督)

「ハリウッドリメイクは、作品が認められたことの証」(ニコラさん)

― 映画の終盤で、息子のトマが自ら車を運転し、ケガをしたヴァンサンを病院に運ぶシーンがあります。一夜の出来事を通してトマが精神的に成長したことが感じられて、とても印象的でした。アクションだけでなく、こういった父と息子の物語も、本作の中で監督が描きたかったテーマだと思うのですが。

ジャルダン監督 おっしゃるように、父と息子の関係性を描くというのが本作の目的でもありました。そして、トマだけでなくヴァンサンの父親としての成長も描いていているんです。映画の序盤では未熟な父親だったヴァンサンも、少なくとも最後にはトマにとってヒーローだったと思うし、トマが最後に父親を助けることで、ヴァンサンは父親として再生することができると思うんです。
全編を通して派手なアクションシーンやカオティックなシーンがあって、でも最終的には登場人物の感情的な面がくっきりと見えてくるというのが、この作品の中で描きたかった一連の流れなんです。

― 本作のハリウッドリメイクが決定していますが、リメイク版に望んでいることはありますか?

ジャルダン監督 リメイクに関しては、お金以外は何も望んでいないです(笑)。もちろん車を買うためじゃなく、次回作の資金にするためですが。自分たちが作品を作る時にこだわったカオティックな雰囲気などは期待していないですね。今回は最終的にワーナー・ブラザースがリメイク権を買ったんだけど、実は韓国のパク・チャヌク監督の事務所からもリメイクをしたいというオファーがあったんです。個人的には、むしろ韓国ヴァージョンができたほうが興味はありました。

トメル でも、リメイクをするということは、作品そのものに価値を見出してくれているからだと思うので、単純に嬉しいですよね。

ニコラ 自分もトメルと同じように、作品が認められたことの証だと思います。しかもワーナー・ブラザースが認めたということは世界的に売ることができる作品として価値があるということですから、嬉しいですね。この映画のシナリオを書いている時にプロデューサーから「良く書けたらアメリカでリメイクされるかもよ」と冗談めかしに言われていたのですが、実際にそうなって驚いています。

「好きなタイプ? 髪の毛のある女性だよ(笑)」(トメルさん)

― トメルさんにお聞きしますが、ご自分の役はどなたに演じてもらいたいですか?

トメル うーん……ダニー・デヴィートかジャック・ブラックかな。

― えっ!? またトメルさんとは対局なタイプをもってきましたね。

トメル いや、実はだいたい分かっているので言えないんだよ。

― なるほど。あのー。ではトメルさん……最後にぜひ! 好きなタイプの女性を教えてくださいっ!

トメル あっははは(爆笑)! 好きなタイプ? 髪の毛のある女性だよ。(※禿げている女性はいないことから、すべての女性という意味)

ジャルダン監督ニコラ ははははは(笑)!

《ミニシア恒例の靴チェック》

「お足元失礼いたしま~す♪」ということで今回もまた靴を撮らせていただきました。

左からトメルさん、ジャルダン監督、ニコラさんの靴。
トメルさんの邪魔をするジャルダン監督。
お茶目さんです(笑)。

▼『スリープレス・ナイト』作品・上映情報
“NUIT BLANCHE”
“SLEEPLESS NIGHT”
(2011年/フランス・ルクセンブルク・ベルギー/フランス語/102分/ビスタサイズ/ドルビーSR)
監督:フレデリック・ジャルダン
脚本:フレデリック・ジャルダン、ニコラ・サーダ
出演:トメル・シスレー、ジョーイ・スタール、ジュリアン・ボワッスリエ、ローラン・ストーケルほか
配給:トランスフォーマー
コピーライト:© Chic Films – PTD – Saga Film
『スリープレス・ナイト』公式ホームページ

※9月15日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

取材・編集・文:min スチール撮影:hal

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