『はじまりの島』―自分が生きている地に「誇り」を持ってこそ、美しい
- 2012年06月19日更新
沖縄県に、島民がありのままの自然とともに生きている、小さな島がある
沖縄県南城市の久高島は、全長約4km、周囲約8km、人口およそ200人の、小さな島である。琉球神話の聖地と考えられているこの島は、女司祭の「祝女(ノロ)」制度を古来から継承し、「女性」を守護神としている。また、自然 ——天、地、海—— を尊んで、「自然とともに生きる暮らし」を体現している島でもある。
後藤サヤカ監督は、2009年に仕事で訪れた久高島と島民たちの生活に深い感銘を受けて、この島のドキュメンタリー映画を制作することを決める。それが、後藤氏の監督デビューとなる本作『はじまりの島』だ。
久高島には、名高い秘祭の「イザイホー」をはじめ、琉球の発祥や自然への謝意にまつわる、数多くの祭祀や年中行事がある。イザイホーは1978年以降おこなわれていないが、数ある祭祀の中で、旧正月も重要な行事だ。本作は旧正月の準備をする人々に密着して、「久高島への思い」をインタビューする。取材に応える人々は、島で生まれ育った人、移住してきた人、旅で訪れている人と、さまざまだ。久高島の美しい海や緑を背景に、この島で生きること・この島を訪れることに、確かな誇りと意味をいだいている人々の声が、率直かつ鮮やかに伝わってくる。
自分が暮らす地を尊重して、誇りを持って生きることの本質
インタビューを受ける島民の中には、子どもや若者の姿もある。いわゆる利便性や華美な娯楽が島にないと理解して実感している上で、年若い彼らは、久高島で生きる意義を見いだし、この島を心から愛して、誇り高くカメラの前で笑顔になる。本作はもちろん、久高島の伝統や魅力、島民たちの暮らしをありのままに映しだしているから、「この島を訪れてみたい」、「このような生活を送る人々がいると知って興味深い」等と思う人も多いだろうし、そう感じることができるのも本作を観る喜びのひとつだ。
ただ、本作を観て、1点、深く考えてみたくなることがある。
久高島で暮らしている人たちが活力と歓びにあふれて映るのは、人々が自身の生きている地に敬意を払って誇りをいだいているからである。故郷や居住地を尊び、状況や現実を把握してその地を守ることは、そこに生きる自分自身や周囲の人々を大切にする自覚とおこないにつながる。それを実践している久高島の人々を見ていると、「自分が住んでいる地を愛して尊重し、そこで生きることに誇りを持っているかどうか」を、自身に問いただしたくなる。どこの地に住んで生きていても、多くの人々がその問いに「はい」と答えることができるようになれば、現代の日本が抱えている数々の闇に、少しずつ光が射してくるようになるのかもしれない。
◆ドキュメンタリー映画『はじまりの島』上映会
日時:
2012年6月19日(火) 【1回目】18:00開場/18:15開演 【2回目】20:05開場/20:15開演
2012年6月30日(土) 13:30開場/13:45開演
トークゲスト:
6月19日(火):高野要一郎氏(「saro」共同オーナー),松原広美氏(サーフライダーファウンデーションジャパン事務局長・J-WAVE LOHAS SUNDAY ナビゲーター)
※松原氏のご出演は18:15の回のみ。
6月30日(土):長野ヒデ子氏(絵本作家),渡辺裕子氏(映画監督)
会場:アップリンク・ファクトリー
料金:一律1,500円
※6月30日(土)は予約にて満席、6月19日(火)はお席に若干の余裕がございます。予約や当日券の有無等、詳細につきましては、アップリンク・ファクトリーの公式インフォメーションをご参照の上、劇場にお問い合わせください。
◆後藤サヤカ監督 プロフィール 1984年生まれ。兵庫県出身。女優、ミュージシャンを経て、映像制作に着手。合同会社メイジュ設立。2012年、ドキュメンタリー映画『はじまりの島』にて監督デビュー。 ●「合同会社 メイジュ」公式サイト |
▼『はじまりの島』作品情報
2012/HD/日本/カラー/68min
企画・制作:meijyu.llc
監督・撮影・編集:後藤サヤカ
撮影監督:佐々木友紀(映画『ちょちょぎれ』)
編集補助:山口ヒロキ(映画『グシャノビンヅメ』)
ナレーション:日向みつか(BS Green TV)
エンディングテーマ:「light dance」小瀬村晶
デザイン:市角壮玄
製作・著作:後藤サヤカ・meijyu.llc
コピーライト:(C)2012 meijyu.llc All Rights Reserved
文:香ん乃
- 2012年06月19日更新
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