『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』 ニキ・カーロ監督 インタビュー

  • 2010年10月20日更新

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『クジラの島の少女』『スタンドアップ』でその手腕が高く評価されている、ニュージーランド出身のニキ・カーロ監督が来日。10月23日(土)に日本公開の新作『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』について、お話を伺いました。

本作は、究極のワイン造りに魅了されたひとりの男と、彼を巡る女たち、そして美しい天使が紡ぐ30年にわたる愛の物語です。

― 女性問題をテーマにした過去の2作品と異なり、本作ではワイン醸造家の男性を主人公に据えています。

ニキ・カーロ監督(以下、カーロ) 前の2作では、女性が主役で「女性だからこそ闘い、葛藤しなくてはいけない」という設定でしたが、今回は対象を広げ、「人間であること」を語ることができる物語を選びました。この作品は主人公ソブランの人生における愛の映画でもあります。まずは妻セレストとの非常に肉体的で動物的な愛情、また男爵夫人オーロラとの知的で同志的な愛情、そしてもう一つは天使ザスと分かち合うスピリチュアルな愛情を描いています。ただ、ソブランはとても人間的なキャラクターなので、女性としても描けるような役どころでしたね。

― 19世紀という時代を背景にした撮影はいかがでしたか。

カーロ 80年代を舞台にした『スタンドアップ』もある意味時代劇といえるかもしれませんが(笑)、本格的な時代劇は今回が初めてです。通常、時代物だと衣装やお城など絵画のようなカットが多いのですが、もっと観客が物語を体感できるような映像を撮りたいと思い、手持ちのカメラを駆使してみました。これは時代物ではかなり珍しく、果敢な試みだったと思います。そのため、観客が映像の中の世界に自分の身を置くことができるようになったのではないかと自負しています。

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― 壮大な葡萄(ぶどう)畑や美しい自然が印象的です。自然を相手にした撮影で苦労した点を教えてください。

カーロ 一番大変だったのは、畑の葡萄樹が成長し、それが収穫されワインになっていく過程を撮影することでした。本当は四季を通じて夏から1年間撮るのが理想ですが、撮影時期が7週間しかなかったため、ニュージーランドで夏の部分、フランスで冬の部分を撮影しました。実は、フランスの撮影現場で初日にとても不思議で幸運な経験をしたんです。そのロケ地ではもう何年も雪が降らなかったのに、現地に行ったら何と雪が降っていてびっくりしました! 自然というのは、時にとても親切なんですね。

― 30年にもわたるストーリーの中、主役を演じるジェレミー・レニエの歳のとり方が実に自然で違和感がありませんでした。

カーロ 彼は本当に素晴らしい俳優です。年齢を重ねていく役柄を演じましたが、特殊メークなどで外観を変えることよりも、ほぼ彼自身の内側から出てくるものによって加齢を表現しているのです。感情の持って行き方であったり、肉体の使い方であったり。ジェレミーには本当に感謝しています。

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― 本作では、『クジラの島の少女』の主役を演じたケイシャ・キャッスル=ヒューズが成長した姿を見せてくれました。彼女への演出に関するエピソードを教えてください。

カーロ ケイシャはとても謙虚でアメージングな俳優で、ジェレミーと同じぐらいの才能を彼女に感じます。『クジラの島の少女』の時はまさに都会の子だったので、彼女に「田舎のマオリ族の子供」らしさを身につけてもらうために靴を隠しておきました。素足で大地を踏みしめて歩くことを実感してもらいたかったので。そんな風に役作りをしていったのです。
本作でケイシャが演じたソブランの妻セレストは、非常に原始的で本能的、セクシーでクレイジーなところのある役です。大人になったケイシャを演出することで最初は少しナーバスになっていましたが、彼女は以前と変わらず、この作品でも私が求めることに対して自分の内側から見つけて必ず返してくれました。彼女と私の間にはすごく強いつながりがあるんです。少女時代と大人になった彼女の両方を演出できたことは、本当に素晴らしい体験でした。

― ソブランと天使ザスの関係はどのようなものなのでしょうか。

カーロ 手短に言うと、一人の男と彼の魂という関係です。ソブランにとって天使はインスピレーションであり良心です。天使の存在はより素晴らしいワインを作る原動力であり、ザスが自分の守護天使であれば自分はだれも味わったことのないワインを造ることができるというソブランの自信の源となっているのです。天使がいるからこそソブランは生きることができ、反対に天使はソブランの生を通して生きているのです。

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― ソブランの人生には苦しいことやつらいことが起こり、彼が天使を非難するシーンもあります。監督ご自身は、望まないことが起こった時、どのように対処していますか。

カーロ それはこの映画の本質に関わる部分ですね。人生というのは素晴らしい時もあればそうでない時もある。だから私は、悪いことが起こっても希望を持てるし、逆に常にいい時ばかりではないということも知っています。自分が成長するためには悲しみと喜びの両方を経験することが必要です。この考えは映画作家としても重要なことなので、常に意識をしています。

― ジェレミー・レニエとギャスパー・ウリエルは、女性が夢中になりそうな格好良く美しい男性です。監督から見た2人の魅力は?

カーロ ギャスパーはシャネルの新しい顔*で、メンズラインで起用されるのは初めてなんです。本当に素敵な男の子でユーモアのセンスも抜群! 天使の翼をつけたまま男性用トイレの前に立って後ろから写真を撮影してもらったり…。男の子ならではのジョークで笑わせてくれました(笑)。そして、ジェレミーはソブランと同様、どこを切っても「男」です。子供をかわいがる素晴らしい父親で、官能的で繊細、強さも持ち合わせているパーフェクトな男性だと思います。
* ギャスパー・ウリエルは、シャネルの男性用香水「BLEU DE CHANEL」のコマーシャルフィルムに出演している。

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― 今回のような人生や運命といったテーマを取り扱うにあたり、インスピレーションを受けた過去の作品はありますか。

カーロ どの映画を作る時も、自分がまっさらな状態から自分自身で作り上げて行きたい、有機的に自然に作りたいという思いが強いので、あまり他の作品を観ることはありません。映画を観る時は映画監督としてではなく、純粋な気持ちで観ることが多いですね。

― 今後はどのようなテーマの作品を撮ろうと考えていますか。

カーロ 私は計画をあまり立てない本能的なタイプなので、送られてきた企画で反応するものがあればトライしたいですね。自分の作品は、人間について何か考えさせられることがあったり、普遍的なテーマを持っていたりするものであればいいなと思います。

― 最後に、日本ではミニシアター系の映画館がいくつかありますが、監督のご出身のニュージーランドにはミニシアター系(アート系)映画の劇場はありますか。

カーロ ありますよ。面白いことに、ニュージーランドではマーケット的にもアート系の映画の成績が良く、人気が高いですね。

笑顔がチャーミングでとても気さくなカーロ監督。ギャスパー・ウリエルの素顔を嬉しそうに語っていた姿が印象的でした。言葉を選びながらひとつひとつの質問に丁寧に答えてくださり、その誠実な人柄が作品にも現れているような気がします。『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』の日本での公開は10月23日。どうぞお楽しみに。

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▼ニキ・カーロ監督
プロフィール

1966年、ニュージーランド・ウェリントン生まれ。イーラム・スクール・オブ・ファインアーツ、スウィンバーン映画・テレビ専門学校で学んだあと、短編やテレビドラマの監督・脚本を手がけるようになる。2002年、祖父の理解を得られないまま運命を切り開こうとするマオリ族の少女の物語を描いた『クジラの島の少女』を発表。アカデミー賞主演女優賞にノミネートをもたらしたほか、数々の映画賞を受賞し、彼女の名を決定的なものにした。2005年製作のシャーリーズ・セロン主演の『スタンドアップ』で、アカデミー賞主演・助演女優賞ノミネートとゴールデングローブ賞主演女優賞ノミネート。『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』は長編第4作となり、その演出力が存分に発揮されている。

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▼『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』
作品・公開情報

ニュージーランド・フランス合作/2009年/126分 PG12
原題:“THE VINTNER’S LUCK”
原作:エリザベス・ノックス“THE VINTNER’S LUCK”
監督:ニキ・カーロ(『クジラの島の少女』『スタンドアップ』)
脚本:ニキ・カーロ ジョーン・シェッケル(『クジラの島の少女』)
出演:ジェレミー・レニエ ギャスパー・ウリエル ヴェラ・ファーミガ ケイシャ・キャッスル=ヒューズ
配給:東北新社
コピーライト:(c)2009Ascension Film Kortex Acajou Films
『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』公式サイト
※10月23日(土)、Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー。

《ニキ・カーロ監督 来日記念レセプションパーティ》

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2010年8月10日(火)、ニュージーランド大使館大使公邸で『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』のニキ・カーロ監督来日記念レセプションパーティが開催されました。

パーティにはワイン好きで知られるタレント辰巳琢郎さんをはじめ、ワイン関係者、女性誌編集者や業界人など約100名が出席。イアン・ケネディ駐日ニュージーランド大使の紹介に続いて、本作のニキ・カーロ監督が挨拶。建築家の夫、2人の娘と共に来日した美人のカーロ監督はまず「大好きな日本に家族で来られて、とても嬉しいです。」とコメント。映画について、「究極のヴィンテージワインを追求する醸造家について描いた原作に感銘を受け、映画化しました。観終わった後にワインを飲みたくなる作品になっています。10月に公開されましたら劇場で映画を観て、その後ぜひワインを味わってください。」と話しました。パーティでは、世界のワインランキング10位内に入賞したこともあるニュージーランドの有名女性醸造家が本作をイメージして造った赤ワイン「WAITAKI BRAIDS(ワイタキ・ブレイズ)」が、特別にふるまわれました。現在、日本では販売されておらず、試飲できるタイミングはこのレセプションのみという貴重なワインを口にした出席者たちからは「おいしい!」「エレガントで瑞々しい」など好評の声が上がっていました。

苦手な日本料理はない、というくらい、大の日本好きのニキ・カーロ監督。オフの日はハローキティが好きな2人の娘の希望もあって、キディランドやサンリオピューロランドに出かけたり、お寿司を食べたり、と久々の日本を満喫していました。

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『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』 作品紹介

取材・編集・文・スチール撮影(冒頭画像):吉永くま
改行

  • 2010年10月20日更新

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