『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』
- 2010年10月19日更新
極上のヴィンテージワイン造りに魅了されたひとりの男を巡る、ファンタジーとリアリティーが融合した美しい物語。一面に広がる葡萄(ぶどう)畑の土の匂いと、グラスの中で揺れる芳醇なワインの香りが漂ってくるような錯覚にとらわれる。視覚だけではなく、五感が刺激される本作品。秋の夜長にじっくりと楽しむというのはどうだろう。
19世紀初頭、フランス・ブルゴーニュ地方。自分の理想のワインを作りたいと望む葡萄園の農夫、ソブランはある夜、天使ザスと出会う。自分の思いを打ち明けた彼はザスから助言をもらい、その1年後、ザスの庭の葡萄樹を譲り受ける。毎年、同じ夜、同じ場所で会う約束と引き換えに。
翌日、ソブランは家の近くの痩せた土地を開墾し、葡萄樹を植え始めた。ワイン造りにかける彼の情熱は、自分自身、そして周囲の人間の人生にも大きな影響を与えていく。美しく情熱的な妻のセレストの献身的な愛情と嫉妬、大切な家族との悲しい別れ、ワイナリー所有者となる誇り高く知的な男爵夫人オーロラとの愛、ソブランの運命を決定づける謎めいた天使の存在。壮大な自然を舞台に、そのすべてが交錯しながら、“愛、痛み、喜び、情熱、渇望、忍耐、そして再生”を包含する濃密な愛のドラマが紡がれていく。
『クジラの島の少女』『スタンドアップ』でその実力を示したニキ・カーロ監督が、同じニュージーランド出身のエリザベス・ノックスの原作を映画化し、魂に響く作品に仕上げている。キャストは、ベルギー、フランス、オーストラリア、アメリカと国際色豊かで、『クジラの島の少女』に主演したケイシャ・キャッスル=ヒューズが大人の雰囲気を漂わせ、主人公ソブランの妻役を演じているのにも注目したい。
幻想的なシーンで重要な役割を果たすのは、ギャスパー・ウリエル演じる天使ザス。中性的でなまめかしく、夜の闇の中で妖しい輝きを放つ。CGではなく、あえて触れることのできるものを作ったという天使の羽根には、優しい温もりが感じられ、ソブランでなくとも包まれてみたいという欲望にかられてしまう。
一方、天候や病害、心の揺れにまで左右され、一筋縄ではいかないワイン造りの現実は、生活に根差したシビアなもの。ワイン造りとソブランの人生が重なり合うように描かれた30年にわたる物語は、骨太かつ繊細だ。老いとともに経験を重ね、深みを増す彼の生きざまを見ていると、自分の人生はどうなのか問いたくなる。こうした現実と夢物語の絶妙なバランスも、この作品に魅かれる理由のひとつだろう。
昔も今も、自然を相手に人間が何かを作り上げるということは容易ではない。これからワインを口にする度に、そこに凝縮されている様々なドラマに思いを馳せることになりそうだ。
▼『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』作品・公開情報
ニュージーランド・フランス合作/2009年/126分 PG12
原題:“THE VINTNER’S LUCK”
原作:エリザベス・ノックス“THE VINTNER’S LUCK”
監督:ニキ・カーロ(『クジラの島の少女』『スタンドアップ』)
脚本:ニキ・カーロ ジョーン・シェッケル(『クジラの島の少女』)
出演:ジェレミー・レニエ ギャスパー・ウリエル ヴェラ・ファミーガ ケイシャ・キャッスル=ヒューズ
配給:東北新社
コピーライト:(c)2009Ascension Film Kortex Acajou Films
『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』 公式サイト
※10月23日(土)、Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー。
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●『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』 ニキ・カーロ監督 インタビュー
文:吉永くま
- 2010年10月19日更新
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