【スクリーンの女神たち】『夕陽のあと』貫地谷しほりさんンタビュー

  • 2019年11月05日更新
映画『夕陽のあと』ポスタービジュアル

スクリーンで女神のごとく輝く女優にスポットを当て、出演作品とその素顔の魅力に迫る本コラム。今回は、11月8日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開となる越川道夫監督の最新作、『夕陽のあと』で主演を務める、貫地谷しほりさんにご登場いただきました!

豊かな自然に囲まれた鹿児島県長島町で、“生みの母”と“育ての母”の願いが交錯するさまを描く本作。母親であることを手放してしまった壮絶な過去を持つ女性、佐藤茜を演じた貫地谷さんに、作品への思いや撮影の舞台裏、そして気になるプライベートについても伺いました。

【取材・編集・文:min 撮影:ハルプードル スタイリスト:番場直美 ヘアメイク:北一騎】


「わからない」で済ませてしまってはダメだと思った

— 最初に脚本を読んだときは、どんなことを思いましたか?

貫地谷しほりさん(以下、貫地谷):辛い役だと思いました。私自身は母親になった経験もなく、頼れる家族のいる恵まれた環境で育ち、茜の気持ちは到底想像しえません。でも、誰にも助けを求められず、悲しい選択をせざるを得なかった茜のことを「わからない」で済ませてしまってはダメだと思ったんです。

おそらく、この映画をご覧になる方の多くは、苦しい不妊治療を乗り越えてようやく母になろうとしていた五月さんに感情移入されると思います。でも、その裏側で茜のような思いを抱えている女性もいるということを伝えられたら、と思いました。

— 深い母性とともに、さまざまな社会問題やメッセージを描いた作品でもありますね。

貫地谷:実を言えば、最初はこの作品をやるかどうか悩みもしました。わからないがゆえに勝手に判断をしてしまうことがあってはいけないと思ったんです。茜がどう感じて、その場に立っていたのか、フラットな気持ちで演じなければと思いました。

想像もしないような事件が起きたときでも、そこには必ず根本的な理由があると思うんです。自分の意見と違うことや、わからないことを“悪”だと決めつけがちですが、その背景を察することが、優しい社会になる一歩だと思うんです。

二人の母が出した答えが正しいかどうかは、まだわからない

— 貫地谷さんの熱演から、茜の抱えていた孤独や苦しみが、痛いほど伝わってきました。撮影の過程で、脚本が変わっていったというお話も伺ったのですが。

貫地谷:最初に渡された脚本では、私が前の夫に暴力を振るわれるシーンや、辛いシーンもありました。そういう部分がなくなって、かなりマイルドになった感じはあります。撮影中も、私自身の感情が高ぶってわーっとなったシーンがいくつかあるんですけど、そこも全てカットになりましたし。物事や感情の背景を察するという話にも繋がりますが、監督はそういった部分を削って、敢えて観客に想像させたんだと思います。

— 茜と五月のどちらにも共感を覚えましたし、どうすべきなのかを私自身も模索しながら観ていました。正解と呼べるものはないと思うし、だからこそ、二人の母親がどういった結論を出していくのかを、ハラハラしながら見守りました。貫地谷さんご自身は、二人が出した答えをどう感じましたか?

貫地谷:私自身は、「越川監督はこう捉えたんだな」という風に完成した作品を観ました。映画の2時間という枠のなかでシーンが積み重なって、この作品ができたんですけど、撮影の時点では感情を高ぶらせるシーンもいくつかあって、私の中では、紆余曲折の気持ちの波をくぐっての結末なので、自分が思っていた茜の道筋ともまた少し違っているんです。観客の皆さんにどんな風に伝わるのかは、私自身も気になりますね。

— 結末に、納得はされたんですか?

貫地谷:自分が出ている作品を冷静に観られないというのもありますし、わからないんです。これから私が母親になることがあるとして、いろいろな出来事を積み重ねていくなかで、その答えが見つかっていくのかもしれません。

撮影中の楽しみは自炊。ひたすら台本に向き合う日々

— 共演した山田真歩さんや、松原豊和くんの印象を教えてください。

貫地谷:役柄的にも、心の余裕的にも、共演者の方とお話する機会はあまりなかったのですが、 ある日、現場に行くときに台本を読みながら歩いている山田さんを見かけて。すごいなぁって。いざ、お芝居で向き合ってみると、熱くてとても素敵な方でした。

豊和くんとは、撮影初日が一緒だったんですが、初めてのお芝居で緊張して泣き出してしまって。1時間以上待ったのかな。でも、待たれるのってプレッシャーがかかるじゃないですか。どうなるのかなと思いましたが、最後にはそれもはねのけて堂々と演技をしていました。「人はこうやって初めてのことを乗り越えていくんだ」と、勉強になりました。

— 長島町の美しい景色や人々の温かさが印象的な作品でしたが、撮影中はどう過ごしていましたか? 先ほど、共演者ともあまりコミュニケーションを取らなかったとお話をされていましたが。

貫地谷:撮影中は、コテージを借りてマネージャーとメイクさんと3人で住んでいたんですけど、撮影が終わったらスーパーに寄って、ご飯を作るのだけが楽しみという毎日でした。敢えてそうしようと思ったわけではなく、台本を読んでいたら、やはりそうしかできなかったんです。それぞれ個室もあったので、ご飯を食べたら部屋に戻ってずっと台本を見ていました。でも、長島町は海がとてもキラキラしていて、自然も食べ物も豊かで、本当にすてきなところでした。スーパーのお刺身と地元の焼酎で、十分贅沢な気分になれました。

美と健康のヒミツは、テニスとお鍋で炊く美味しいご飯!

— 最後にプライベートについても少し伺いたいのですが、最近凝っていることや興味を持っていることなどはありますか?

貫地谷:お米を炊くのに凝っています。シャスールというフランス製のホーローのお鍋で炊いているんですけど、すごく美味しいんです。

— お鍋で! 炊くのが難しいんじゃないですか?

貫地谷:それがすごく簡単で、冷めても美味しいんですよ。撮影中は太らないように気を付けていましたし、マネージャーにも見張られていたので、食べたいものを作る感じではなかったのですが、最近はお米をいっぱい食べてしまって(笑)。

— 本当に美味しそうですね! どうやって、その美貌とスタイルをキープしているんでしょうか?

貫地谷:美容法ですか? 私が聞きたい(笑)。でも、さまざまなダイエットをやってきたものの、やはり運動するのがいいらしいってことに、最近気付きました。まだまだ初心者ですが、テニスを始めたんです。これが結構楽しくて。美味しいお米を食べるためにも、またテニスに行かなくてはと思っています(笑)。

【貫地谷しほり(かんじや・しほり)】
1985年生まれ、東京都出身。2002年に映画デビュー。映画『スウィングガールズ』(2004)で注目を集め、NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」(2007)でヒロインを務めた後、映画、ドラマ、舞台、ナレーションなど幅広く活躍中。初主演映画『くちづけ』(2013)でブルーリボン賞主演女優賞受賞。そのほか、主な出演映画に『夜のピクニック』(2006)、『ジェネラル・ルージュの凱旋』(2009)、『パレード』(2009)、『白ゆき姫殺人事件』(2014)、『悼む人』(2015)、『望郷』(2o17)、『この道』(2019)『アイネクライネナハトムジーク』(2019)などがある。

 

『夕陽のあと』作品・公開情報

映画『夕陽のあと』メイン画像(2019年/日本/133分)
監督:越川道夫
出演:貫地谷しほり、山田真歩、永井大、川口覚、松原豊和、木内みどり ほか
脚本:嶋田うれ葉 音楽:宇波拓
企画・原案:舩橋淳
プロデューサー:橋本佳子
長島町プロデュース:小楠雄士
撮影監督:戸田義久 同時録音:森英司
音響:菊池信之 編集:菊井貴繁 助監督:近藤有希
製作:長島大陸映画実行委員会 制作:ドキュメンタリージャパン
配給:コピアポア・フィルム

『夕陽のあと』公式サイト

【STORY】豊かな自然に囲まれた鹿児島県長島町。1年前に島にやってきた茜(貫地谷しほり)は、食堂で溌剌と働きながら地域の子どもたちの成長を見守り続けている。一方、夫とともに島の名産物であるブリの養殖業を営む五月(山田真歩)は、赤ん坊の頃から育ててきた7歳の里子・豊和(とわ)との特別養子縁組申請を控え、“本当の母親”になれる期待に胸を膨らませていた。そんななか、行方不明だった豊和の生みの親の所在が判明し、その背後に7年前の東京のネットカフェで起きた乳児置き去り事件が浮かび上がる……。

※2019年11月8日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

  • 2019年11月05日更新

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