【スクリーンの女神たち】『夕陽のあと』山田真歩さんインタビュー

  • 2019年11月07日更新


スクリーンで女神のごとく輝く女優にスポットを当て、出演作品とその素顔の魅力に迫る本コラム。今回は、2019年11月8日(金)より全国順次公開となる『夕陽のあと』(越川道夫監督)に出演する山田真歩さんにご登場いただきました!

美しい海と温暖な気候に恵まれた鹿児島県長島町を舞台に、7歳の少年・豊和(とわ)の、“生みの母”と“育ての母”の葛藤と深い愛情を描く本作。赤ん坊のころから愛情を注いできた息子との特別養子縁組申請を目前に、“本当の母親”になれる歓びに期待を膨らませるなか、生みの母親である茜(貫地谷しほり)の存在を知り、複雑な感情にとらわれていく女性・五月を見事に演じきった山田さんに、作品に込めた思いや、役作りについて伺いました。

【取材・編集・文:min 撮影:ハルプードル ヘアメイク:藤垣結圭 】


― 山田さんが演じた五月は、長島町の風土やそこに暮らす人々との関係がとても密で、生まれ育った土地に根ざして生きている女性ですよね。

山田真歩さん(以下、山田):そうですね。監督からも、五月は島を代表するような女性だと言われました。長島は自給率120パーセントの豊かな島で活気があります。そこで暮す女性たちは、エネルギーに溢れてすごくイキイキしているように思えました。悩みごとがあっても一人で抱え込まずに、翌日には笑顔で動きだすような逞しさと明るさがありました。

― どのように役作りをされたのでしょうか。

山田:撮影が始まる前に、島で漁業を営んでいる方の家にお願いして泊まらせていただき、早朝の仕事について行ったり、一緒に魚をさばいたりもしました。撮影がない時は、一人で島中を歩き回ってそこで暮す人々の雰囲気を肌で感じていました。

― 方言のセリフに苦労されたりはしましたか?

山田:方言を話すことは、その土地のことを深く知ることだと思うんです。セリフは地元の方にレコーダーで吹き込んでもらったものを毎日聞いて練習しました。現地に入ってからは、なるべく土地の言葉で話してみようと心がけていました。

― 親子役を演じるにあたって、豊和くんとはどのように距離を縮められたのでしょうか。

山田:子どもって動物と近いというか、強引に仲良くなろうとしてもダメで。ただ一緒にいて、自然と心が打ち解け合うのを待ちました。

― 豊和くんは実際に島で育った子で、演技も初挑戦だったとか。撮影で印象に残っていることはありますか?

山田:豊和が追加の長いセリフを言わなきゃならない日があったんです。でも、本人は追加の台詞のことを聞いていなかったようで、直前に泣き出してしまって……。そのときは、豊和の近くに行って、「セリフなんてなくて大丈夫だよ。豊和の目に見えたことを、豊和の言葉で言えばいいんだよ」って話して。それで彼が自分の言葉でセリフを紡いだのが、「ぼく、お母さんのお腹の中にいるときのこと覚えてるよ」と、記憶を語るシーンなんです。

― そうだったんですか。すごく、印象的なシーンでしたよね。豊和くんの言葉を聞きながら、五月の表情が変わって、胸が痛む音が聞こえたような気がしました。

身体の感覚をイメージして感情を表現

― 前述のシーンだけでなく、五月のふとした表情が何度も胸に刺さりました。特に、茜と豊和の関係を知った瞬間の五月の顔が忘れられません。不安と茜への不信感が広がっていく感じが、言葉に出さずとも痛いほどリアルに伝わってきて。どのように演じられたのでしょうか。

山田:一瞬にして猜疑心が広がっていく瞬間ですよね。どうやっていたかなぁ。

― 五月の感情に共感しながら観ていたのですが、撮影は順撮り*だったのですか?
*順撮り=シナリオの冒頭から順を追って撮影を進める方法

山田:撮影の順番はバラバラでした。その瞬間瞬間の感情を演じていたのですが……あっ! 一つ思い出した。茜と豊和の関係を知った瞬間の気持ちを想像していたとき、心臓が石みたいに固くなって、その周りにびっしりとフジツボが張り付いたようなイメージが浮んだんです。部屋の中にいて、自分の周りをひたひたと黒い海水が満たしていって息苦しくなっていく……そんな感覚を思い浮かべて演じていたんですよね。

― なるほど。言葉にするとすごくユニークなイメージですが、身体的な感覚と感情がすごく伝わってきました。

ずっとコミュニティを作ろうとしていた


― 五月に共感しながらも、もし自分が茜の立場だったら……と考えずにはいられませんでした。

山田:そうですよね。どんな出来事も、視点を変えてみることは必要ですよね。

― はい。茜自身もまた、視点を変えていれば解決の糸口を見出せたのかもしれません。でも、孤独と貧困に追いつめられて、助けを求めるという発想もできなくしてしまったのかなと、胸が痛みます。都会で暮らしていると、人との距離が近いことに息苦しさを感じることもありますが、人と人が手を差し伸べ合うようなコミュニティは、どんな社会でも必要だと思うんです。山田さんご自身は、そういったコミュニティのような場所はありますか?

山田:自分が帰る場所というか、家族や志を同じくする仲間ってことですよね? それは私もずっと欲しいと思ってきましたし、そういう場所を作ろうと試みたこともあります。でも、特定の誰かとコミュニティを形成するのって、すごく難しいですね。なぜなら、自分も変わるし、人も変わるから。コミュニティとして固まった瞬間に、何かがダメになっていくというのも、何度となく経験していて……。

― 必然性のないところにイチから作るのは難しいですよね。長島町も、食料自給率120%という豊かな土壌や伝統文化があるからこそ、地域全体で子育てをするようなおおらかな環境が生まれのかもしれないですし。

山田:その長島町だって入って来る人もいれば、出て行く人もいて流動的です。確かに、“場所“があるというのは大事ですよね。大学で演劇サークルをやっていたときに、皆が集まれる“場所“があったんですが、そこには自然と人が集まってきて、そこで出会った人たちが結びついていろいろな面白いものを生み出していって……という雰囲気がありました。そのような流動的で深い結びつきが可能だったのは、その場所の持っていた特別な雰囲気だったと思います。

― これまでも何度かコミュニティを作ろうと試みたというのは、人と深く繋がっていたいという思いがあるからでしょうか。

山田:やっぱりどこかで、自分の居場所を持って誰かと深く結ばれたいと求める自分がいます。でも理想は、特定のグループや集団を作らなくても、人と人の壁がなくなって深く結ばれることができたら最高ですね。最終的には、人種や国という分け隔てすらなくなったら……。これはもう極論ですけど(笑)。

― 分け隔てなく誰もが繋がれる世界! 理想ですね。越川監督と山田さんは主演作の『アレノ』(2015)をはじめ、映画や舞台でも幾度となくタッグを組んでいらっしゃいます。映画の現場自体は限定的で流動的なものかもしれませんが、同じ仲間と作品を作るのも、ある意味でコミュニティと呼べるのかな、とも思います。越川監督とはどんな結びつきを感じていらっしゃいますか?

山田:そうですね。確かに越川さんの作品に出ると「またこの場所に戻ってきた」という感じがします。終ったときにも「またいつか」と思いますし。越川さんの周りには常に文学があるんですが、ご自身は「僕は言葉と仲良しじゃない」っておっしゃることもあるくらいで、言葉が苦手のようです。そのせいか、『楽隊のうさぎ』(2013)のうさぎ役のときも、『アレノ』のときも、私に託される役はいつも言葉がほとんどない役で(笑)……。だんだんと作品を重ねるうちに、越川さんは“行動や言葉になる前の感覚”を大切にしているんだと分かってきて。言葉にならないものを大切にしている感じがします。

― 感覚的に分かり合えるのは、作品を作るうえでは、とても貴重なことですよね。個人的にも二人のタッグが大好きなので、これからの作品も期待しています。本日は興味深いお話をありがとうございました!

 

『夕陽のあと』作品・公開情報

映画『夕陽のあと』ポスタービジュアル(2019年/日本/133分)
監督:越川道夫
出演:貫地谷しほり、山田真歩、永井大、川口覚、松原豊和、木内みどり ほか
脚本:嶋田うれ葉 音楽:宇波拓
企画・原案:舩橋淳
プロデューサー:橋本佳子
長島町プロデュース:小楠雄士
撮影監督:戸田義久 同時録音:森英司
音響:菊池信之 編集:菊井貴繁 助監督:近藤有希
製作:長島大陸映画実行委員会 制作:ドキュメンタリージャパン
配給:コピアポア・フィルム

『夕陽のあと』公式サイト

【STORY】豊かな自然に囲まれた鹿児島県長島町。1年前に島にやってきた茜(貫地谷しほり)は、食堂で溌剌と働きながら地域の子どもたちの成長を見守り続けている。一方、夫とともに島の名産物であるブリの養殖業を営む五月(山田真歩)は、赤ん坊の頃から育ててきた7歳の里子・豊和(とわ)との特別養子縁組申請を控え、“本当の母親”になれる期待に胸を膨らませていた。そんななか、行方不明だった豊和の生みの親の所在が判明し、その背後に7年前の東京のネットカフェで起きた乳児置き去り事件が浮かび上がる……。

※2019年11月8日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

  • 2019年11月07日更新

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