「よかったよ」の言葉を糧に―『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』主演の瀬戸かほインタビュー

  • 2019年10月19日更新


女優を続けていけるかどうか、すべてを懸けてみたい。それくらい重要な作品だったと打ち明ける。2019年10月19日(土)公開の『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』(越川道夫監督)で主人公のユリを演じるのは、モデルとしても活躍する瀬戸かほ。深い悲しみを抱えて生きつつ2人の男に愛されるという複雑な役どころを、体当たりの表現で演じ切っている。「やってよかったなと今、すごく思います」と晴れやかな笑顔を見せる彼女の魅力に迫った。

【取材:藤井克郎 撮影:ハルプードル ヘアメイク:荻野由か】


泣くための時間をたっぷり用意

— 瀬戸さん演じるユリは、年の離れた夫のトモさんに愛されながら、彼の幼なじみであるリュウタにも惹かれていきます。この女心は理解できましたか。

瀬戸かほ(以下、瀬戸):理解できる部分とできない部分があって、まず私は結婚していないので、誰かほかの人を好きになっても、結婚しているからその人の元には行きづらい、というのは、そのときは理解できない部分でした。でも2人の間で揺れてどうしよう、という気持ちはすごくわかるし、いつ死んでもいい、というユリさんのせりふは理解できるときがありましたね。

— 突然、泣きじゃくる場面もありますし、相当複雑な気持ちですよね。

瀬戸:鼻水垂らして、ですよね(笑)。あのシーンは越川監督が「瀬戸が泣きたい気持ちになったらいつでも回すから」と、時間をたっぷり用意してくださったからできたことなのかなと思います。トモさんが今でも亡くなった奥さんのことを忘れられないというのが前提としてあるので、ユリは自分のことをいるけどいないように感じている。そういうときにリュウタさんが現れたので、そうですね、やっぱり複雑ですよね。

雑草を見続けて植物の気持ちに

— 役づくりで苦労したことなどはありますか。

瀬戸:撮影に入る1か月前、2か月前から、ユリはこういうときどうするだろうと考えながら生活するようにしていました。それにユリは植物が好きな人なので、公園まで散歩して木の実を拾って集めたり、あと雑草を1時間見続けたりとか。植物の気持ちになれたらいいなと思っていました。

— 雑草を1時間も見続けるってすごいですね。

瀬戸:以前、越川監督のワークショップに参加したとき、言われたことがあったんです。監督自身が植物好きというのもあるのかもしれませんね。

— 越川監督の作品は以前にも『黄色い花 一束 二時頃』(2017)に出ていますね。

瀬戸:ワークショップは、その前にお試しの回があって、『黄色い花 一束 二時頃』の後、足かけ2年くらいのワークショップに参加しました。雑草を見続ける、というのは、その中の宿題で出されたもので、実際に見ていると、風で揺れたり、虫が寄ってきたりと、いろいろな発見がありました。

— そのワークショップが今回の主演につながったのでしょうか。

瀬戸:今後、女優としてどうやっていけばいいのか悩んでいたことがあって、越川監督に相談いたしました。ありがたいことに、その際、こういう企画があるんだけど、どうですか、と言っていただきまして。監督のことは信じていたので、自分が今できることをすべてやれたらいいなと思って……。

女の人をきれいに見せる

— 悩みとは?

瀬戸:オーディションを受けてもやっぱり落ちたりするし、そうすると自分が否定されたような気持ちになってしまう。これからどうしたらいいんだろうと思うことがそのころ多くて、すごく不安だったんです。

— 映画に出演して不安は軽減されましたか。

瀬戸:語弊がないようにとは思いますが、越川監督が撮影中に言っていて印象的だったのが、映画って女の人がきれいに見えたらそれでいいと僕は思っている、という言葉です。「瀬戸をきれいに見せるために僕は撮りたい」と言ってくださって、それだけ大事に思ってくださっているということがすごくありがたかった。厳しい監督だとは思いますが、その要求を超えるものができたらいいなと思うし、常に挑戦したいと思える監督ですね。

— トモ役の宇野祥平さん、リュウタ役の深水元基さん相手に激しいベッドシーンもありますね。

瀬戸:それぞれ演出の仕方が違っていて、宇野さんのときはこういう順番で、ここでせりふが入って、と確認しながらやっていくものでしたが、深水さんとのシーンに関しては、2人で考えてくださいと15分くらい時間をくださいました。ユリが自分の好きになった人と初めてそういうことになる、というシーンであることもあって。そういう時間を用意してくださったことが、すごくありがたかったです。

非日常からの心のおみやげ

— モデルの仕事もしていますが、もともと女優志望だったのですか?

瀬戸:フリーでモデルをやっていたのですが、私の中ではショーのモデルがモデルだという意識がありました。身長も180センチくらいあって、骨格そのものがやせていて、という方がモデルだから、自分はそうではないなとなったときに、俳優というのは技術職だなと思って。長い間、向き合っていけるものだし、向いているか向いていないかわからないけど、そこに挑戦していきたいと思ったんです。

— 初めて映画に出たのが2015年で、それから4年が経ちました。

瀬戸:両親、特に母親が「芸能活動って大丈夫なの」って心配していて、「全然、大丈夫だよ」と言いながら悩んだりする部分もあったわけですが、今回の映画で本当に女優をやろうってきっかけになりました。越川監督に応えたいという気持ちが強かったので、撮影が終わったとき、「瀬戸、よかったよ」と言ってくださったのが一番うれしかったです。間違ってなかったんだと思えました。

— 特に観てほしいところはありますか。

瀬戸:やっぱり泣いている場面ですかね。私は普段、あんなに泣いたりしないんです。自分というか、ユリですけど、本気で泣いたらああいうふうになるんだ、鼻水ってしたたるんだ、って思います(笑)。それに植物がとてもいい演技をしている。ユリが花を触るシーンがあるんですが、その花がすごくすてきなんです。

— これからの目標などはありますか。

瀬戸:いろんな役をやってみたいし、あと海外に行ってみたいです。海外の映画にも出てみたいし、もし海外の映画祭で受賞できたらうれしいですね。映画って非日常だけど、心に響くものが絶対にあるし、その気持ちは日常では得られないものかもしれないですね。物ではない心のおみやげがあるっていうのは、映画の一番の醍醐味かなと思います。

 

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【瀬戸かほ(せと・かほ)】
神奈川県出身。1993年生まれ。2015年、映画『orange-オレンジ-』(橋本光二郎監督)で女優デビュー。映画はほかに、越川道夫監督が仙台短篇映画祭2017のために制作した『黄色い花 一束 二時頃』のほか、『にとっての世界』(2017年、吉川諒監督)、『Birds』(同年、永岡俊幸監督)、『あの群青の向こうへ』(2018年、廣賢一郎監督)、『神様のいるところ』(2019年、鈴木冴監督)などに出演。モデルとしても数多くのCM、雑誌、ミュージックビデオで活躍している。

 

『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』作品情報

映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』ポスタービジュアル(2019年/日本/106分/R-18+)
撮影・編集・脚本・監督:越川道夫
出演:瀬戸かほ、深水元基、山田キヌヲ、縄田かのん、宇野祥平
製作:村上潔 プロデューサー:山口幸彦 音楽:斉藤友秋
配給:コピアポア・フィルム
©2019キングレコード株式会社

【ストーリー】ユリ(瀬戸かほ)は、一回り年上の夫、トモさん(宇野祥平)が営む古本屋を手伝っているが、トモさんへの恋心はなかった。ある日、トモさんの元へ、幼なじみのリュウタ(深水元基)から、一人暮らしの父親が亡くなり、大量の本を引き取ってほしいと依頼がくる。夫とともに父親の部屋を訪ねたユリは、死ぬ直前に読んでいたという文庫本を見つける。

『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』公式サイト

※2019年10月19日(土)より新宿K’s cinema ほか全国順次公開

 

◎ゲストライター
藤井克郎(ふじい・かつろう) 1960年、福井県生まれ。85年、東京外国語大学卒業後、フジ新聞社に入社。夕刊フジ報道部から産経新聞に異動し、文化部記者として映画を担当する。社会部次長、札幌支局長などを経て、2013年から文化部編集委員を務め、19年に退職。文化部時代の1997年から1年半、映画ジャーナリズムを学びに米ロサンゼルスに留学する。共著に「戦後史開封」(扶桑社)、「新ライバル物語」(柏書房)など。
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