『黙ってピアノを弾いてくれ』〜愛すべき”狂気の天才”ミュージシャン、チリー・ゴンザレスのすべて〜

  • 2018年09月28日更新

映画『黙ってピアノを弾いてくれ』メイン画像優れた音楽性を内包しつつ、破天荒なキャラクターとラップのパフォーマンスで、90年代のアンダーグラウンドシーンから頭角を現した、カナダ出身のミュージシャン、チリー・ゴンザレス。世界中に熱狂的なファンをもつ彼は、過激なおしゃべりを聞かせ、奇抜なパフォーマンスを見せたかと思えば一変してピアノで美しい旋律を紡ぎ、人々を感動させる。ダフト・パンク、ビョーク、ジェーン・バーキンなど多くのアーティストが心酔する、異端の音楽家”ゴンゾ”の全貌に迫る傑作ドキュメント。その名を知らない人でも、作品を観ればファンになってしまうほど、チリー・ゴンザレスの魅力に溢れている。第68回ベルリン国際映画祭正式出品作品。2018年9月29日(土)より渋谷・シネクイントほか全国順次公開。

チリー・ゴンザレスの貴重なライブ映像を通し、その半生を綴る

映画『黙ってピアノを弾いてくれ』画像2【あらすじ】クラシックとジャズでつちかったピアノ演奏技術と、独自のラップスタイルで、”異端の天才”としてアンダーグラウンドシーンの注目を集め、時代の寵児となった”ゴンゾ”ことチリー・ゴンザレス。現在では、グラミー賞受賞歴もある成功した作曲家、かつ現役の名ピアニスト&エンターテイナーだ。生まれ故郷のカナダ・モントリオールからドイツ・ベルリンに渡った1人の無名な青年が、様々な音楽実験や表現方法を模索し続け、やがてチリー・ゴンザレス という名で、幅広いシーンに影響を及ぼす「唯一無二の存在」として認知されるまでの半生がわかるドキュメント作品。

過激な表現者・ピーチズとの若き日のパフォーマンス、トーマ・バンガルテル(ダフト・パンク)やファイストとの共演シーン、ウィーン放送交響楽団との迫力のコンサートなど、貴重な映像アーカイブを多数収録し、概ね時代順で綴られている。また、共演歴のあるミュージシャンたちへのインタビューもあり、ゴンゾの素顔が客観的な視点からも語られている。

監督は、あらゆる媒体で活躍中のフィリップ・ジェディック。音楽とカルチャーを得意とするジャーナリスト、オンラインエディター、リサーチャー、ポスプロマネージャーなどさまざまな顔を持つ。映画監督としては、本作がデビュー作だ。

どの時代も目が離せない、ゴンゾの魅力

映画『黙ってピアノを弾いてくれ』画像3メロディやハーモニーを自在に紡ぐ音楽性、人々を煙に巻く発言、尊大に振舞ったかと思うと、それが計算であることを瞬時に悟らせるフレンドリーなキャラクター。すべてがチリー・ゴンザレスの持ち味だ。彼の長い音楽活動の中で、数々の実験的なコラボレーションやセッションが行われてきた。そこから生まれたのは、斬新でフレッシュなサウンド、そして茶目っ気たっぷりのグルーブに、わくわくせずにはいられない高揚感。彼が乗る全てのステージには「失敗」「捨てゴマ」「意味がないもの」など存在しない。いつでも、ゴンゾのパフォーマンスは、独創的で刺激的だ。

「なかなか評価を得られない時代が続いた」という彼の人生が綴られる中『ソロ・ピアノ』制作のくだりにさしかかると「ホラご覧!」と声をあげたくなるような爽快な気分になる。このシンプルで美しい旋律のアルバムで、ゴンゾは一気に多くの人を振り向かせ、グローバルな評価を得たからだ。このエピソードに差し掛かった時点で、彼についてほとんど知らなかった人・敬遠していた人も、多くが彼のことを愛し始めているだろう。

「プライベートは撮らない」という約束のもと完成した、輝きに満ちたドキュメンタリー

映画『黙ってピアノを弾いてくれ』画像4フィリップ・ジェディック監督が、本作を撮るにあたり、ゴンゾ本人から出された条件は「プライベートに関することはナシ」。ドキュメンタリーを撮るにあたり、悪夢のようにも聞こえるこの条件は、結果的に作品の方向性を定めるカギへと姿を変えていった。なぜなら、ゴンゾの人間性はステージの上にあり、振り幅の広い彼のパフォーマンスを、数多く観続けることこそ、結果的に彼自身を濃厚に見つめることになるからなのだ。本作を観れば、彼の魅力が率直に、的確に、高い純度で伝わってくる。”ゴンゾ”を徹底的に演じる彼の姿が、実にテンポよく効果的に示されており、そこに監督の手腕を感じ取ることができる。

また、本作はニンマリしてしまうような、ちょっとした小ネタにもあふれている。見た目にもアグレッシブな若き日のゴンゾが、何気なく片手にしているのが、小学校教材のような鍵盤ハーモニカだったり、リップシンクパフォーマンスを演出するシーンでは、ミュージシャン以外の人々と創作を楽しむ表情が映っている。小さな宝探しをすれば何度でも観たくなるような、愉快なゴンゾの魅力が広がる作品だ。

近年では演奏家・作曲家にとどまらず、音楽をあらゆる角度から捉える”音楽科学者”や音楽学校を設立する”起業家”としての顔も持つ、チリー・ゴンザレス。幅広く活躍し続ける彼の人生は、これからも続いていく。ちなみに最新アルバム「ソロ・ピアノⅢ」は、先日9月7日に発売されたばかりだ。本作と合わせて楽しんでみてはいかがだろう。

>>『黙ってピアノを弾いてくれ』予告編映像<<

『黙ってピアノを弾いてくれ』作品・公開情報
映画『黙ってピアノを弾いてくれ』画像5(2018年/ドイツ・フランス・イギリス/85分 )
原題:SHUT UP AND PLAY THE PIANO
監督:フィリップ・ジェディック
出演:チリー・ゴンザレス、ジャーヴィス・コッカー、ピーチズ 、ファイスト、シビル・バーグ、トーマ・バンガルテル(ダフト・パンク)、ジョー・フローリー、アダム・トレイナー、ラズ・オハラ、ルノー・ルタン、クレバー・バリアム、ケーナ・ブール、コーネリアス・マイスター、ウィーン放送交響楽団 ほか
配給:トランスフォーマー
© RAPID EYE MOVIES / GENTLE THREAT

●『黙ってピアノを弾いてくれ』公式サイト

※2018年9月29日(土)より渋谷・シネクイントほか全国順次公開

文:市川はるひ

  • 2018年09月28日更新

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