『ウインド・リバー』〜荒れ果て雪に閉ざされた”保留地”で繰り返される、事実に基づく惨劇〜

  • 2018年07月26日更新

映画『ウインド・リバー』メイン画像わずか全米4館の限定公開から話題を呼び、2,095館へと拡大したクライム・サスペンス。現実に米国内に点在するネイティブアメリカンの”保留地”強制移住という社会問題を突きつけながら、クオリティの高いストーリー性と、迫力ある人間ドラマで観るものをグイグイと引きつける。孤高の猛獣ハンターと、新人FBI捜査官の女性が、心を通わせながら事件を解明していく「バディもの」としても楽しめ、見ごたえたっぷりの作品になっている。7月27日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー。

雪に閉ざされたネイティブアメリカンの保留地で、謎の死を遂げる少女たち

映画『ウインド・リバー』画像2【あらすじ】アメリカ中西部・ワイオミング州の、過酷な自然環境にあるネイティブアメリカンの保留地”ウインド・リバー”。一面の雪景色の中、血を吐いた状態で凍った少女の遺体が発見される。第一発見者となったのは、野生生物局のハンターであるコリー(ジェレミー・レナー)だった。コリーは、この亡くなった少女が、娘の親友であるナタリー(ケルシー・アスビル)だと知り、衝撃を受ける。コリーは、部族警察長ベン(グラハム・グリーン)とともにFBIの到着を待つが、猛吹雪のせいで大幅に遅れ、ようやくやってきたのは、新人の女性捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)1人だけだった。やがて検死により、ナタリーの死因は、極寒の雪原を走り続け、肺が凍って破裂したものと判断される。さらにナタリーは生前、レイプされていたことが判明。どんな状況だったのか? 周りに民家もないのに、ナタリーはなぜ裸足だったのか? ナタリーの死にはあまりに謎が多いうえに、ウインド・リバーは特殊な環境・特殊な事情だらけ。心もとないジェーンは、コリーに捜査への協力を求める。2人で捜査を進める中、ジェーンは、コリーの娘もまた、3年前に不審な死を遂げていた事を知る。なぜこの土地では少女ばかりが殺されているのか……?

通常よりも予測し難い、極上のクライムサスペンス

映画『ウインド・リバー』画像3ストーリーが進むにつれ、少しずつ”ウインド・リバー”の環境や事情が理解できていく。深い雪、猛吹雪。その中には猛獣たちが潜む。広大な土地には、民家も少なく、歓楽街もない。生活するにはあまりに過酷な環境だが、そこに住むことを強要されてきたのが、ネイティブアメリカンの人々だ。仕事も選べず住民の生活は荒れ、地域内には警官が少ないため、犯罪がはびこっている。本作で描くのは、こうした特殊な環境下で起こる事件なだけに、通常よりも展開や真相が予想し難く、サスペンスとして至極楽しめる。また、両極端なキャラクターであるジェーンとコリーが、少しずつお互いを認め、距離を縮めていく中には、血の通った人間ドラマがある。そしてメインキャラクターのコリーの抱えた過去も、少しずつ明らかになり、物語はより深いものになっていく。事件の真相へジリジリと近づいていきながら、2人が危険にさらされたり、謎が深まる新たな事件が起こったり、ドキドキハラハラの連続だ。大胆なガンアクションや厳しくも美しい自然の風景が広がり、インパクトある画が続く。あらゆる方面から見ごたえを感じる、力強い作品だ。

実在する、氷雪に閉ざされたネイティブアメリカンの保留地の物語

映画『ウインド・リバー』画像4事実に基づいている作品というのは、根源的なエネルギーで、私たちの心を揺さぶるものだ。本作も、多くの部分が事実に基づいた物語となっている。実在するインディアンの保留地”ウインド・リバー”は、作品に描かれた通り、過酷すぎる環境だ。ならば、人の住むべき土地ではないのは明らかだろう。そんな土地に、差別的に閉じ込められた人々の事実と日常がここにある。山積みの問題の中でも、ことのほか恐ろしいのが、女性への暴力だ。作中で「数ある失踪者の統計に、ネイティブアメリカンの女性のデータは存在しない。実際の失踪者の人数は不明である」というテロップが差し込まれる。保留地の中で起きた事件について、国は統計をとっていないのだという。監督のテイラー・シェリダンは本作について、「これは作らなければならなかった映画だ」と語る。脚本の段階から、実際にウインド・リバーに住む、ネイティブアメリカンの信頼と協力を得ながら、リサーチを行ったそうだ。本物の部族の旗・紋章などを借りることもできて「作品にリアリティを与えられた」と彼らへの感謝も述べている。

苦い思いを噛みしめるような重い題材ではあるが、カタルシスも準備されている。こんなにも過酷な環境であっても愛が存在すること、そして勇敢に戦う人への敬意もこめられている。クライム・サスペンスを愛する人、アメリカで起こっている驚くべき現実に触れたい方に、特におすすめしたい作品だ。

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▼『ウインド・リバー』作品・公開情報
映画『ウインド・リバー』画像5(2017年/アメリカ/107分)
原題:Wind River
監督・脚本:テイラー・シェリダン
出演:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、ジョン・バーンサル、ギル・バーミンガム、グラハム・グリーン、ケルシー・アスビル ほか
配給:KADOKAWA
© 2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVE

●『ウインド・リバー』公式サイト

※2018年7月27日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国公開

文:市川はるひ

  • 2018年07月26日更新

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