“今この一瞬を生きる”ことの大切さ—『子どもが教えてくれたこと』アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督インタビュー

  • 2018年07月09日更新

映画『子どもが教えてくれたこと』アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督インタビュー_メイン画像病気を患いながらも日々を精一杯に生きる5人の子ども、アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル。彼らをカメラ越しに優しく静かに見つめ、フランスで23万人を動員する大ヒットを記録したドキュメンタリー映画、『子どもが教えてくれたこと』のアンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督にインタビューしました。自身の娘を病気で亡くした経験を基に、子どもたちの生きる力とポジティブなエネルギーをスクリーンいっぱいに映し出した本作。本業はジャーナリストであるジュリアン監督が、「映画」という表現方法を使って描きたかったことや、本作の製作を通して感じたことなどを語っていただきました。


子どもたちの病気について語るのではなく、「生きる」ことについて描いた

— 5人の子どもたちとの出会いと、彼らの出演が決まるまでのプロセスをお聞かせください。

アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督(以下、ジュリアン監督):はじめに、病気の子どもたちの世話をするヘルスケアの専門家のネットワークを介して、候補となる子どもたちを何人か探してもらいました。そのなかで、出演交渉の了承を得られた子どもの親御さんに、私から電話などで直接お話をしました。それがこの5人の子どもたちだったんです。驚くことに、どの親御さんもすぐに出演を快諾してくださったんですよ。

— 監督が実際に子どもたちに会ったのは、その後ということですか?

ジュリアン監督:そうです。病気を抱えた子どもたちの日常を撮影するためには、慎重にならざるを得ませんでした。医師やヘルスケアの専門家、心理学者、介護の方などさまざまな方にリサーチをして、アドバイスをいただき、確信を得てから彼らに出演オファーをするために会いに行きました。実際に会ってみて「あなたは出演できません」と言ってガッカリさせるようなことも絶対にしたくありませんでしたから。出演してほしいという確信をもって、一人ひとりの子どもたちと会い、実際に撮影ができるかどうかを見極めながら話を進めていきました。

— 親御さんたちは、本作の企画のどういったところに賛同してくださったと思いますか。

ジュリアン監督:この映画が、子どもたちの病気について語るのではなく、「生きる」ということについて描く映画だということだと思います。

— ジャーナリストである監督が、なぜ今作は書籍などではなく映画にしたいと思われたのでしょうか。

ジュリアン監督:病気の子どもたちに発言権を与えたかったんです。彼ら自身の口で、自分のことを語ってほしかった。そのためには、本よりも映画のほうがふさわしいと思いました。文章では描ききれない“映像の力”というものは確かにありますよね。

— 映画の本筋とは一見関係のない、自然の風景や小粋なカットなども入っていて、子どもたちの日常がより生き生きと見えたんです。そういった映画的な表現はどこかで勉強をされたのでしょうか?

ジュリアン監督:いいえ。映画作りの勉強はしたことがありません。ただ、病気の子どもたちの日常にもさまざまな風景がありますし、一見意味のないようなカットを入れることで、ほっとさせる部分も作りたかったんです。また、今作では男女問わず複数人の撮影監督を起用していますが、彼らが自分の才能をすべて発揮して撮影に臨んでくれたことも、映像表現を豊かにしてくれたのだと思います。

— 5人の子どもたちは、年齢も住む場所もバックグラウンドも違っていますが、それぞれに別の撮影監督が付いて撮影をされたそうですね。子どもたちと撮影監督の組み合わせなどは考慮されましたか?

ジュリアン監督:「この子には、この撮影者」というようなキャスティングはしていませんが、大切にしたのは、子どもたちに対してデリカシーを持つことです。一人の子どもに一人の撮影監督というようなルールも設けていませんでしたし、撮影の途中でそれぞれの事情で担当者が変わることもありました。そういった意味で安定感はなかったのですが、偶然もうまく働いて良い作品が撮れたと思います。例えば、シャルルはすごく速く走り回るんですけど、撮影監督もかなりのスポーツマンで一緒になって走り回っていました(笑)。

子どもたちが教えてくれた、“今この一瞬を生きる”ことの大切さ

— 撮影素材は110時間分もあったそうですが、80分の作品に編集していくという作業はどのようなものだったのですか?

ジュリアン監督:110時間分の映像をすべて本編に使うつもりで撮っていたわけではなく、映画の核となる要素を踏まえたうえで、補足となりうる場面も押さえておいたんですね。私自身は、すべての撮影を見ていますから、編集の際に取捨選択ですごく悩むということはなかったです。

— 編集途中で作品自体の方向性を微調整したり、修正したりということもありませんでしたか?

ジュリアン監督:ドキュメンタリーに筋書きはありませんから、脚本が編集作業によって描かれるのは当然のことです。しかし、5人の子どもたちとシェアした時間や、彼らとの出会いそのものの大切さを描くのに、そんなに多くのパターンがあるとも思いません。バランスよく描くために編集を工夫したことはあっても、本質的なものは一切ブレていないですね。映画製作に不慣れという意味では、ささいな部分で戸惑うことはありましたけど。

— 目の前の時間を精一杯生きている子どもたちに勇気づけられると同時に、日々どうしようもない心配事やささいな悩みに多くの時間を費やしている自分を恥ずかしくも思いました。大人になるにつれ、今を純粋に楽しみ、輝いた時間を過ごすことの大切さを見失っていた気がします。

ジュリアン監督:きっと、誰もがそうですよ。子どものころは、本能で瞬間瞬間を生きることができたけれど、大人になるにつれ意識的に行わないとできなくなる。ですが、意識的に生きることで、信条や哲学みたいなものができると思うんです。子どもたちは今一瞬を生きて、ありのままを受け入れる。大人だって起こりうる事実は受け入れる努力をしなければならない。子どもから大人になるなかで、今を生きることに対しての対処法は変化していくけれど、それはある意味では進化でもあり、美しいことでもあると思うんです。

— なるほど! この作品を観れば、大人はもともと自分の中にあった純粋さを思い出すでしょうし、子どもたちは、自分と年齢も変わらない子たちが病気と闘いながら生きている姿に、きっと励まされると思います。たとえ、病気の子どもたちというテーマ自体に関心が薄かったとしても、多くの人の心を揺さぶる普遍的なものが描かれていますよね。

ジュリアン監督:100パーセント同感です! この作品は、病気の子どもたちやその周囲の人々だけに向けて作った作品ではありません。どんな年代の人でも、どんな境遇にいても、すべての人に語りかける作品であると思っています。

— 監督ご自身が、この作品を撮ることであらためて気付いたことや感情的に得たことは何ですか?

ジュリアン監督:私は“子どもの自分”にもう一度会いました。自転車に乗ったり、皆と走り回ったりする、子どものころの感覚に戻れたんです。それは、「人生を愛することのできる子ども」に返れたという意味です。

— 最後に、監督ご自身が「日々をこのように生きよう」と心に決めていることがあれば教えてください。

ジュリアン監督:過去の経験は糧にすることができるし、未来を夢見ることもできる。けれど、一番大切なのは、「今を生きる」ことですよね。だって、人生とは、今この一瞬のことなのですから。この一瞬をあきらめてしまえば、人生はない。私の亡くなった娘たちや、この作品を通して子どもたちが教えてくれたこのことを、これからも強く心に刻んで生きていこうと思います。

<PROFILE/アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン>
1973年、パリ生まれ。女性ジャーナリストとして活躍するなか、2000年に結婚し02年に長男を出産。04年には長女も誕生するが、2歳で異染性白質ジストロフィーを発病。3人目を妊娠しながら、家族一丸となっての闘病生活が始まる。07年、長女が短い生涯を終える。さらに、生まれたばかりの次女も同じ病であることが判明。08年に次男が誕生。11年、長女との日々を綴った著書「濡れた砂の上の小さな足跡」(講談社刊)を発表。フランスで35万部を超えるベストセラーとなり、20ヵ国で翻訳・出版される。17年2月、監督作『子どもが教えてくれたこと』がフランスで公開されると大きな話題に。世界最大規模の子ども映画祭「ジッフォーニ映画祭」のGEx部門では作品賞を受賞。同年、次女が短い生涯を終える。現在は夫と2人の息子たちとパリで暮らし、苦痛緩和ケア財団の科学委員会のメンバーとしての講演活動なども行っている。

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▼『子どもが教えてくれたこと』作品・公開情報
映画『子どもが教えてくれたこと』メイン画像(2016年/フランス/80分)
原題:Et Les Mistrals Gagnants
監督・脚本:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
出演:アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル
日本語字幕:横井和子/字幕監修:内藤俊夫
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
配給:ドマ
厚生労働省社会保障審議会特別推薦児童福祉文化財
文部科学省特別選定(青年、成人、家庭向き)文部科学省選定(少年向き)
東京都推奨映画

©Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

子どもが教えてくれたこと』公式サイト

※2018年7月14日(土)よりシネスイッチ銀座 ほか全国順次公開

取材・編集・インタビュー撮影:min

  • 2018年07月09日更新

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