『心と体と』〜東欧発、鹿の化身になって深まる恋! 変わり者2人のロマンチックでおかしな日々〜

  • 2018年04月14日更新

ハンガリーの鬼才監督・イルディコー・エニェディが18年ぶりに撮った、ファンタジーとリアルが交錯する不可思議なラブストーリー。毎夜、同じ夢を見ることを知り、急速に惹かれあう、中年男と若い女の不器用な恋。ブラック風味のラブコメ要素が魅力。リアルな可愛らしさを見せる鹿たちのシーンも、動物好きにはたまらない映像だ。2017年ベルリン国際映画祭・金熊賞受賞、本年度アカデミー外国語映画賞にもノミネートされた。
2018年4月14日(土)より新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
© 2017 INFORG – M&M FILM

孤独な2人は、毎夜「寄り添う2頭の鹿」という同じ夢を見る

【あらすじ】プダペストの、ある食肉処理場。代理職員としてやってきた、若い女性のマーリア(アレクサンドラ・ボルベーイ)は、真面目な仕事ぶりだが、融通がきかず、コミュニケーションが極端に苦手で、職場の仲間に馴染めない。片手が不自由になった偏屈な上司、エンドレ(ゲーザ・モルチャーニ)は、マーリアに声をかけてみるものの、あきれるほど話が噛み合わなかった。ある日、食肉処理場で、牛の交尾薬が盗まれる事件が発生。「関係者の中に犯人がいる可能性」が浮上すると、犯人割り出しのため、すべての従業員が精神科医クラーラ(レーカ・テンキ)と面談することに。すると面談を機に、マーリアとエンドレは、全く同じ「鹿になって2頭で行動する夢」を見ていることを知る。2人は、夢の共有という不思議な現象に心惹かれ、相手に興味をもって少しずつ距離を縮めていく。しかし現実は、夢の鹿たちのようには、うまくいかない。それでも2人は少しずつ、それぞれ自分の殻を破りはじめて……。

不器用で変わり者という、魅力的な主人公を演じきった、2人の意外な経歴

美しくも不器用なヒロインを演じたのは、主に舞台で活躍してきたハンガリー女優・ アレクサンドラ・ボルベーイ。透明感のある美貌を生かし、固い殻に覆われた孤独感も見事に体現。本作により、数々のベテラン女優たちをおさえ、ヨーロッパ映画賞最優秀女優賞を獲得。ヨーロッパ映画界の、期待の新星として注目を浴びている。もう一人の主人公、中年男の上司エンドレを演じたのは、なんと演技未経験の編集者だという、ゲーザ・モルチャーニ。存在感があり、ナイーブさも兼ね備え、片手が不自由だという設定も自然に演じている。熟練した俳優のようにも見えるが、実は本作で俳優デビュー。もともと地方劇場付きのドラマトゥルク(戯曲のリサーチなど、作品制作に関わる役職)だったこともあり、制作側として演技に関わってきた人物だ。2人の役者としての相性も素晴らしく、それぞれのキャラクターが、揺らぐことなくストレートに伝わってきて、作品に説得力を与えている。しかも、本作中での2人の表情を見ていると、どちらも「鹿っぽい」顔立ちにみえてくるのが、たまらなくいい。まるで鹿の化身のようだ。その他、周りのキャストも、セクシーな精神科医や、チャラ男の新入社員、世話好きの清掃員など、それぞれキャラクターをしっかり立たせ、人物の個性を楽しませてくれる。

親近感が湧く、美しく愛らしい鹿の映像は必見

さらに本作のみどころは、鹿たちのシーンにもある。夢の中だから、という幻想的な類の映像ではなく、手触りを感じられるようなリアルな鹿の魅力が伝わってくるのだ。豊かな毛並みのアップ、つぶらな瞳の視線。まるで猫を愛でているかのような感覚で、キャストの鹿たちに親しみが湧いてくる。一方、現実世界側では、舞台となる職食肉処理場で、牛が極めて効率的に解体されているのがわかる描写もある。ふだん肉を食べて生活している人たちは、こういう現実があると知るべきなのだろう。そして解体の描写について「実際に行っているが、それが日常風景なのである」という旨のテロップも流れる。本作を決しておとぎ話にはしない、という意図があるのかもしれない。

偏屈な2人のやりとりはほとんどラブコメ!そしてヒロインに見られる「ある傾向」

主人公2人の恋愛こじらせ感は、波乱含みという以上に ハード。ときにはかなりブラックな展開を見せていく。しかし、そこに悲壮感はなく、不器用な愛らしさに、ついクスクス笑ってしまう。気まずさ、妙な間、照れのないひたむきなアプローチ、謎の受け流し、すれ違い……。「ラブコメ」とはうたっていないのだが、本作には、秀逸なコメディ要素が多分に含まれている。切ないシーンを観ていても、彼女たちの孤独に共感させられて、じわじわと心が温まってくる。また、ヒロインのマーリアには、変わり者である先に「ある傾向」が見て取れるのだが、それは作品を観ながら、気付いていただければと思う。孤独だからこそ出会える人たち。そんなストーリーをじっくりと味わえる作品だ。

▼『心と体と』作品・公開情報
(2017年/ハンガリー/ハンガリー語/116分/カラー/スコープサイズ/5.1ch)
原題『Testről és lélekről』(英題『On Body and Soul』)
監督・脚本:イルディコー・エニェディ
出演:アレクサンドラ・ボルベーイ、ゲーザ・モルチャーニ、レーカ・テンキ、エルヴィン・ナジ ほか
配給:サンリス
© 2017 INFORG – M&M FILM

●『心と体と』公式サイト

※2018年4月14日(土)より新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

文:市川はるひ

  • 2018年04月14日更新

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