『ラッキー』〜愛しき名優スタントン最後の主演作。「死とは何か?」 現実主義者ラッキーがたどり着いたある「考え」とは〜

  • 2018年03月17日更新

そろそろ人生の終わりが近づいていると気付かされた男・ラッキー。小さな街で人々と交流し「死」のさまざまな側面に触れる中で、ある概念にたどり着くまでを、独自のテンポで描く。惜しくも2017年9月に亡くなった、名優ハリー・ディーン・スタントン最後の主演映画。名脇役として知られるジョン・キャロル・リンチが、映画初監督をつとめ、シンプルかつ粋に演出。また監督業で著名なデヴィッド・リンチが、俳優として重要な役柄を好演している。ユーモアと愛に満ちた人間ドラマ。2018年3月17日(土)より、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開 (c) 2016 FILM TROOPE, LLC All Rights Reserved

誰にでもやってくる「死」とは何かを、考え始める90歳のラッキー

【あらすじ】一人暮らしをしている現実主義者のラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)は、毎朝目覚めると、タバコを吸いながら、ヨガのポーズで鍛錬し、身なりを整え、行きつけのダイナーへと出かける。クロスワードを解いたり、おしゃべりをしたり、毒づいたりしたあとは、ミルクを買いに「ビビの店」に立寄り、帰ってテレビでクイズ番組を楽しむ。夜は常連となっているバー「エレインの店」でブラッディ・メアリを飲む。変化はなくとも、充実したマイペースな暮らしぶりに見えるラッキーだったが、ある朝、突然倒れてしまう。病院で検査を受けるも、原因は不明。医師には「年齢の割に健康」「原因があるとすれば老化だ」と言われ、困惑しながらも、死が近づいている年齢であることを意識する。それからもラッキーの暮らしは、変化のないように見えたが、ダイナーの親切なウエイトレス、ロレッタ(イヴォンヌ・ハフ・リー)は、ラッキーを心配し、家に様子を見に来る。2人はたわいないおしゃべりや思い出話をして過ごすが、ロレッタの去り際に、ラッキーは思い切って「怖いんだ」と告白する。そしてラッキーは、日々、少しずつ「死」について考えを深めるようになり…。

デビッド・リンチも出演。名優スタントンへのラブレター的作品

死生観に目を向けるようになるラッキーは、90歳という設定で、スタントンの実年齢に近い。ただ、実際のスタントンは、もはや死への不安を抱えておらず、頑固な現実主義者でもなかったそうだ 。本作は、監督ジョン・キャロル・リンチはじめ、スタッフや出演者から、名優スタントンに宛てたラブレターのような作品なのだという。劇中のセリフの一部は 、スタントンがふだん使っている会話を引用しているそうだ。そう聞くと、スタントンのユーモアや人柄が、じんわり滲み出ているように思え、何気ないやり取りが、いくつも心に残る。そして、実際にスタントンの長い友人だという、映像監督のデヴィッド・リンチが、のびのびと友人役を好演しているのも見どころだ。ところで、この作品では音楽もとても印象的で、重要な役割を担っている。劇中、何度も流れるハーモニカの曲「Red River Valley」は、スタントン本人が実際に演奏しているものだ。パーティで歌われるマリアッチや、エンドロールに流れる、スタントンに捧げられた(フォスター・ティムズによる)楽曲も素晴らしい。音楽を通し、スタントンの魅力、そしてスタントンへの愛情が溢れてくる。

人生は示唆に満ちている。求めればヒントは向こうからやってくる

神を信じず、あまり感情を表に出さない現実主義のラッキー。小さな街で暮らす、90歳になった彼の心を、強く揺さぶることなど、もはや起こりはしなかったろう。そして、ようやくやってきたドラマティックな出来事が「死が自分に近づいてきている」という事実。人は死を意識することをきっかけに、情感豊かになるものだろうか。その答えが、この作品にある。ほとんど仏頂面で通しているラッキーが、ふとその心の内をのぞかせる瞬間、多くの人が、スクリーンにグッと心を引き寄せられるだろう。一方で「死とは何なのか」という、ラッキーがたどり着いた概念は、人によっては、完璧なものではないかもしれない。それでも、たとえば、身近な人の死に困惑する人、死への恐怖を少しでも感じている人には、ぜひ本作をおすすめしたい。もちろん、名優ハリー・ディーン・スタントンを愛してきた人にも。人生は示唆に満ちている。求めれば、必要なヒントは、ありがたいことに向こうからやってくる。そんな人生の秘密を明かしてくれている作品だ。本作を観て、もしかしたら、温かい気持ちで「死」に向き合えるようになるかもしれない。そしておそらくこの作品は、多くの人の心の中に、長く残ることになるだろう。

▼『ラッキー』作品・公開情報
(2017/アメリカ/88分/英語/シネスコ/5.1ch/DCP)
監督:ジョン・キャロル・リンチ
脚本:ローガン・スパークス
出演:ハリー・ディーン・スタントン、デヴィッド・リンチ、ロン・リビングストン、エド・ペグリー・ジュニア、トム・スケリット、ベス・グラント、ジェイムズ・ダレン、バリー・シャバカ・ヘンリー、イヴォンヌ・ハフ・リー ほか
配給:アップリンク
(c) 2016 FILM TROOPE, LLC All Rights Reserved
●『ラッキー』公式サイト 

2018年3月17日(土)より新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開

文:市川はるひ

  • 2018年03月17日更新

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