『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』〜 ダニエル・レイム監督がハロルド&リリアンと過ごした日々〜

  • 2017年05月27日更新

ハリウッドで映画制作に貢献してきた、絵コンテ作家・ハロルドと映画リサーチャー・リリアン夫妻の偉大な仕事、そして夫妻の人生を綴った『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』が2017年5月27日から日本で公開となります。先立って4月下旬に来日したダニエル・レイム監督にインタビューを行い、古き良きハリウッドのスタジオでの光景が眼に浮かぶような興味深いお話をたっぷりとうかがうことができました。作品を観る前にも、ぜひお楽しみください。

「この映画のこの有名なシーンを彼が描いていていたんだ!」パッと目が覚めました
−本作は、2人の仕事だけでなく夫婦の人生も描いていますね。最初は5時間にもなったそうですが…。
ダニエル・レイム監督(以下、ダニエル):そうです。最初のラフ編集は5時間ですが、撮ったもの全部繋げたら25時間もありました。今回、90分に編集しましたが、去年のカンヌ国際映画祭で上映したときは96分。それを今回、さらに6分削ったんです。この6分はメル・ブルックスが『スタートレック』の魅力を長いこと語っていたところかな。
−監督は、映画の学校でハロルドの授業を受けていらしたとか。
ダニエル:はい、アメリカン・フィルム・インスティチュードという映画学校で。最初は「ああ、世界一退屈な授業だな」と思いました。ハロルドは絵コンテの職人なので、しゃべるのは得意じゃなくて、技術的な説明を淡々とするんです。しかし実際に彼が描いた絵コンテと映画のシーンを見比べて見せたとき「ああ、この映画のこの有名なシーンを彼が描いていていたんだ!」ということがわかって、パッと目が覚めました。ハロルドに絵コンテ描いてくださいと頼んだら、目の前でサラサラと描いてみせてくれましたよ。
−監督が一番最初に見たハロルドの絵コンテはどれですか?
ダニエル:ヒッチコック監督の『鳥』ですね。すごく有名な絵コンテで映画史の本にも出てきます。そこにはハロルドの名前も書いてあります。でも、彼は自分の作品のことを授業で話さなかったんです。ハロルドの絵コンテがすごいんだと気づいて、こっちからどんどん質問して、ランチに招待してもらって、いろいろ知ることができたんです。
−友人のようなお付き合いになっていったんですか?
ダニエル:ええ。その頃彼らはドリームワークスというスタジオにいました。ハロルドはそこで働いていて、リリアンはその中に図書館をもっていました。そこでのランチに何度も招待されました。何時間もいろんな話を聞かせてくれて、これから映画界に入ろうというヒヨッ子に対して、すごく温かく接してくれて。37年前にヒッチコックの『鳥』を撮ったロケ地のボデガ湾にも一緒に行って、いろいろ話を聞かせてもらったりもしました。私が最初に撮った『The Man on Lincoln’s Nose』という短編ドキュメンタリー作品に、ハロルドとリリアン、プロダクションデザイナーのロバート・F・ボイルが出演してくれてるんですが、この作品がオスカーにノミネートされたとき(2000年 米国アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞ノミネート)に、すごく喜んでくれて。そんなふうに、家族のように付き合わせてもらいました。

2人一緒だったからこそ生き延びて、すごい仕事をしてこられた

ダニエル:ハリウッドは人間関係がすごく大事で、ファミリーのような関係を築くことは非常に重要です。特に昔のハリウッドには「スタジオシステム」というのがあったんで、チームとしてたくさんの人たちが長期間一緒に働くわけです。そうすると本当に家族みたいになって、独特の言葉ができたりして、それが晩年まで続くんです。彼らが80歳90歳になっても兄弟姉妹、家族みたいな親密さをチラチラと垣間見せるというか、自然に見えてくるのがすごく面白くて。この作品を撮るときにも、そういう面が出せればと思いましたね。

−ハリウッドは仕事仲間の結びつきが強いんですね

ダニエル:一方、スタジオに入ってずっと仕事をしててロケをしていると、家に半年、長いと2年くらい帰れないこともあって…それで離婚したりすることが非常に多いんです。そういう中で、ハロルドとリリアンが苦労しながらも、60年間家族として苦難を乗り越え続け、ずっと愛し合ってきたというのも、この映画で描きたかったことです。それはすごいなって思ったんです。

−もしかしてリリアンがリサーチャーになったのはそのためでもあるんでしょうか?

ダニエル:そうですね。ハロルドとリリアンが働くところは、廊下一つが隔てるだけなんです。リリアンは「仕事でもハロルドを助けて、プロフェッショナルな意味でも結びついて、結婚生活をより持続させたいと思った」と。冗談めかして言ってましたが、ある程度本気だったのかもしれないです。でもリリアンは、この仕事をすごく好きになっていったんですね。なんでも調べてしまう。そして「ハリウッド一の凄腕リサーチャー」と呼ばれるようになっていったんです。すごく評価されながらも、常にハロルドのやっている映画に関わって、彼を手伝っていた。そうやってお互い助け合った。反対に、リリアンが働いていたライブラリーが存続できなくなったときに、ハロルドの生命保険のお金で買い取ったり…。

−作品中にも出てきたエピソードですね。

ダニエル:はい。ハロルドが大ケガをして、アル中になりかけたときも「お酒をやめないと別れるわよ!」と叱咤激励して。一人ずつが非常のに才能ある人たちですが、2人一緒だったからこそ生き延びて、すごい仕事をしてきたんです。

−「生き延びる」ということだったんでしょうか。

ダニエル:そうです。破産しそうになったり…足を折ったハロルドは、仕事がなくなってアル中になりかかったりもして…。

−監督が知り合ったとき、ハロルドはもう危機を脱していましたか?

ダニエル:まったくアルコールの問題はありませんでした。ただ、高齢になって血圧や糖尿などの問題は抱えていました。それに対しリリアンは、医学だけでなく、民間療法的なものや新しい食事、ハーブ、高圧で血液を整える高圧治療とか、あらゆるいい療法を探していました。

 

「あれ、全然クレジットされていない!それはダメだ。世間に知らせなくちゃ」と思った

−監督は何歳のころ、ハロルド知り合ったのですか?

ダニエル:22歳ぐらいですね。23歳かもしれない…アメリカン・フィルム・インスティチュードという映画学校で出会いました。

−ハロルドとの出会いが、こうした作品を撮るきっかけになったのでしょうか?

ダニエル:そうですね。確かに私が撮った3本は三部作になっています。でも、それぞれの作品が生まれた背景には、それぞれの動機があるんですよ。

−入学時から、ドキュメンタリーの監督を目指していたのですか?

ダニエル:いいえ。もともとフィクションの映画がすごく好きなんです。プロダクションデザイナーのロバート・F・ボイルにも学校で教えてもらっていたんですが、彼らと話しているうちに「すごい仕事をしてきたんだな、面白いな」と思うようになった。でもかれらがやってきた仕事は、世の中に全然知られてない。ロバートはプロダクションデザイナーとしてクレジットされていましたが、あまり有名ではありません。そういう人たちがいるんだと世界に知ってもらいたいと思ってこういうドキュメンタリーを撮ったんです。でも先々、長編フィクションも撮りたいと思っています。これらの三部作はある意味ニッチな作品なんですけど、撮れてとても楽しかったです。

−今は絵コンテ作家もクレジットされますよね、昔はなぜノークレジットだったんでしょうか。

ダニエル:昔の映画は最後のクレジットは1分くらいしか流れないでしょう。今は7〜8分かけて3段組とかで長い時間エンドロールが流れます。90年代くらいからは、ほぼ働いた全員がクレジットされますね。

−ハロルドの絵コンテが世間に知られてこなかったという事実を知ったとき、どう思いました?

ダニエル:最初は、ハロルドたちがクレジットされてないことに気づかなかったんです。2013年、この映画を作ろうと決意したとき「あれ、全然クレジットされていない!それはダメだ。世間に知らせなくちゃ」と思ったんです。写真と絵コンテを比べてるとほぼ同じです。それを見たら「描いた人がクレジットされていないのはおかしい!」と思いました。でもハロルド本人はまるで気にしていないんです。シャイで、スポットライトを浴びたいなんて思っていない人なんです。

−ハロルドのすばらしい絵コンテの原画を私たちが観る機会はあるでしょうか。

ダニエル:ロサンゼルスに「マーガレット・ヘリック 図書館(Margaret Herrick Library)」というのがあって、そこに行くと『鳥』や『十戒』の資料があって、この絵コンテも観ることができます。でも『卒業』などの絵コンテは、ハロルドとリリアンの家族が所有していて、公開されていない。もし公開する機会があれば、私もサポートしたいと思います。

−最後に、これから作品を観ようかな?と迷っている人に一言、メッセージをお願いします。

ダニエル:これは映画に関する話ですが、それだけでなく、心を揺さぶられるラブストーリーがあります。映画好きの人には「映画の裏の歴史」という部分も楽しめるし、夫婦の素晴らしい愛に感動すること間違いなしです。好きな人を映画に誘うのにも、ロマンチックでおすすめです。デートにぴったりな作品ですよ!

 

▼『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』作品・公開情報

(2015年/アメリカ/94分/カラー・モノクロ/16:9/5.1ch/英語/日本語字幕)

原題:Harold and Lillian :A Hollywood Love story

監督・脚本:ダニエル・レイム

エグゼクティブ・プロデューサー:ダニー・デヴィート

出演:ハロルド&リリアン・マイケルソン、フランシス・フォード・コッポラ、メル・ブルックス、ダニー・デヴィート、アルフレッド・ヒッチコック、スティーブン・スピルバーグ ほか

配給:ココロヲ・動かす・映画社〇

●『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』公式Facebook 

2017年5月27日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA ほか全国劇場ロードショー!

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取材・編集・文・撮影:市川はるひ

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  • 2017年05月27日更新
カテゴリ:インタビュー

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