『アムール、愛の法廷』-熟年の恋愛劇と法廷劇を通して見えてくるものは……

  • 2017年05月14日更新

熟年同士の恋愛と法廷での卑属殺人裁判。全く異なる2つのテーマを織り交ぜながら、大人の淡い恋がもたらす“変化”を描く。本作では、ファブリス・ルキーニ(ミシェル役)がベネチア国際映画祭男優賞、デンマークのベテラン女優シセ・バベット・クヌッセン(ディット役)がセザール賞助演女優賞を受賞。抑制の効いた情感細やかな演技を堪能させてくれる。




冷徹な裁判官の心を変えたもの
ミシェルは厳格だと恐れられている裁判官。帰宅しても犬にしか相手にされない。そんなある日、かつて入院中に想いを寄せていた女医のディットと再会。彼女はミシェルの担当する裁判の陪審員の一人だった。初めは動揺を隠せないミシェルだったが、その法廷での再会は、裁判長としての彼をも変えていく。機械のように冷徹な判決を下していた彼の裁判は、ディットとのふれあいを重ねるにつれ次第に人間味のある温かいものに変わり、その変化はやがて彼女の心も動かし始める。



恋愛マジックは何歳になっても起こり得る
人はいくつになっても恋をする。昔のように勢いにまかせて突っ走ることはないが、手探りしながら。そしてそんな恋は、驚くことに老境にさしかかった人間をも変えてしまう。人間味がないと言われ続けた裁判官ミシェルもその一人。病人という弱い立場になったとき優しくしてくれたディットに恋心が芽生え、再会してその思いが蘇る。「好きな人がいる」幸福感は単に脳内ホルモンのせいかもしれない。だが、それが引き起こす影響は決して小さいものではなく、他人の運命をも左右することもある。



大人の恋愛劇が社会的格差を浮き彫りにする皮肉
ここで描かれるのは甘い恋愛感情だけではない。恋愛ストーリーと同時に法廷劇も進行する。裁く側は社会的地位も経済力もある裁判官、そして女医は陪審員の一人。裁かれるのは若く貧しく幼い娘を殺した罪に問われている男。ミシェルとディット、被告とその妻という2組の男女の対比が浮き彫りになり、格差社会の残酷さが見えてくる。前者のような社会的強者と、後者のように日々を生きるのに精一杯な社会的弱者は、普段交わることのない世界の住人だ。法廷という場での両者の出会いは皮肉としかいえない。

後味は良い。だが、「幸福への道は誰にでも開かれている」という綺麗ごとに収まらず、一筋縄ではいかないところがある。これがただの恋愛映画とは一線を画している理由だといえるだろう。



▼『アムール、愛の法廷』作品・公開情報
2015年/フランス/98分/カラー/シネスコ/
原題:L’HERMINE
監督:クリスチャン・ヴァンサン
出演:ファブリス・ルキーニ、 シセ・バベット・クヌッセン
『アムール、愛の法廷』公式サイト
配給・宣伝:ココロヲ・動かす・映画社
© 2015 Gaumont / Albertine Productions / Cinéfrance 1888 / France 2 Cinéma

2017年5月13日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

文:吉永くま

  • 2017年05月14日更新

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