『トトとふたりの姉』 〜 闇の中から未来を掴む!スラムの3姉弟、衝撃のドキュメンタリー〜

  • 2017年04月29日更新

ルーマニア郊外のスラムに住むロマ3姉弟のドキュメンタリー映画。ジャンキーの溜まり場と化した、大人不在のアパート。そんな劣悪な暮らしの中でも、明日への希望を見出していく姉弟のひたむきな日々を描く。麻薬捜査官のガサ入れの様子、喜び・怒り・哀しみの涙など、驚くほどリアルでディープな映像が収められている。2017年4月29日(土)よりポレポレ東中野にて公開、ほか全国順次公開
©HBO Europe Programming/Strada Film
ジャンキーのママは服役中。父親は顔も知らない。
ルーマニアの郊外の狭い一室に住むロマの家庭。しかし住んでいるのは10歳の少年トトと、2人の姉という子ども3人だけ。父親の顔すら知らないし、母親は麻薬売買により服役中だ。大人不在のこの部屋は、夜になるとジャンキーの男たちの溜まり場にされてしまう。トトは毎夜、そんな男たちの間で縮こまって眠る。17歳の長女・アナは、なんとか男たちを追い出そうと声高に訴えるものの、状況を変えることはできない。気が強い14歳の次女・アンドレアは、家出して友達の家で過ごしている。しかしトトはヒップホップダンスと出会うことで、真の”生きる喜び”を知るようになる。そしてアンドレアは、撮影用カメラを手にしたことで、家族や人生をたて直そうとする力を得る。しかし、長女のアナは劣悪な環境に耐えかね、自らドラッグに手を染めてしまう…。
まるで劇映画! 衝撃的でディープな映像が続々
本作はドキュメンタリーでありながら、驚くほどドラマチックでスリリングな映像が多い。見ごたえがあるシーンばかりで、まるで劇映画のようだ。生々しいジャンキーたちの様子、激しい麻薬捜査官のガサ入れ、長女アナの悲痛な叫びなどの衝撃度が高い場面、トトが目覚ましい成長を見せる感動のヒップホップダンス大会の場面など、心を打つ映像が満載だ。こうした見事な映像を収められたのは、主に次女アンドレアの手柄だという。監督が「生活に密着した場面を撮影してほしい」と、カメラをアンドレアに託したのだ。彼女の撮影した映像は、そのまま彼女のの視線だ。観ている私たちも、トトやアンドレアの生活に奥深く入り込んでいく。一方、アンドレアは、手にしたカメラ越しに世間を見つめることで、強い力を得る。そして急速に成長していく。彼女の見つめる世界では、あらゆる人、あらゆる事象が、価値あるものへと変化する。本作を観ることで、観客もアンドレアの眼差しを、自分のもののように感じることができるだろう。

自分の道を選び取る姉弟は、観客にも勇気をくれる!
トトたち姉弟の置かれた境遇はなんとも劣悪である。貧困、ドラッグ、無責任な親。2017年アカデミー作品賞『ムーンライト』でも描かれたが、劣悪な環境に生まれた子どもは、なかなかその境遇から抜け出すことは難しいという。ジャンキーやドラッグディーラーの親をもつ子は、ドラッグと無縁の人生が難しくなる…残念ながら仕方ないことだろう。しかし、この作品に登場する姉弟は違う。少なくとも、アンドレアとトトの未来は、明るさに満ちている。映像を通し、2人の可能性が私たち観客にも強く伝わってくる。なぜ彼らは、環境や運命に流されず、腐らずに、自分の道を掴み取るポジティブさや、そこへ向かうエネルギーを得られたのだろうか。これは、本人の資質が素晴らしいのはもちろんのこと、”いい大人”と出会い、新たな世界を知り得たことが大きいだろう。トトのヒップホップダンスのコーチ、アンドレアにカメラを託した監督。自分に可能性を見出してくれる大人や、夢中になるものと出会えるか…それによって人生の方向は大きく道を分かつのだろう。きっかけを得て未来を掴み取っていくトトとアンドレアの姿は、観客である私たちの未来をも切り開いてくれる。明日への勇気をもらえる、素晴らしい作品だ。

▼『トトとふたりの姉』作品・公開情報
(ルーマニア/2014年/93分/DCP ・BD/シネスコ / カラー )
原題:Toto si surorile lui
監督・撮影・脚本・編集 : アレクサンダー・ナナウ
出演:トト、アンドレア、アナ、ペトラ ほか
編集:ミルチャ・オルテヌ、ゲオルグ ・クラッグ
音響:マティアス・ランパート
エグゼクティブ・プロデューサー:ビアンカ・オアナ
製作:HBO EUROPE PROGRAMIG、Strada Film

『トトとふたりの姉』公式サイト

2017年4月29日(土)よりポレポレ東中野にて公開ほか全国順次公開
©HBO Europe Programming/Strada Film

文:市川はるひ

  • 2017年04月29日更新

トラックバックURL:http://mini-theater.com/2017/04/29/3-13/trackback/