『アスファルト』〜心温まるユニークな群像劇。フランス郊外の団地、3つの出会いの物語〜

  • 2016年09月03日更新

フランス郊外の寂れた団地に訪れる、奇跡のような3つのエピソードを描くフランス映画。イザベル・ユペールら実力派俳優たちがユーモアたっぷりに演じる人間模様は、とてもチャーミング。ハイセンスな笑いに包まれる中、やがてほろ苦い感動が訪れる。
9/3(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ(モーニングショー)、シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー
© 2015 La Camera Deluxe – Maje Productions – Single Man Productions – Jack Stern Productions – Emotions Films UK – Movie Pictures – Film Factory



『マディソン郡の橋』にハマる中年男、落ちぶれた主演女優、空から落ちてきた宇宙飛行士。

フランスの郊外の古びた団地。住人たちがエレベーターの修理について話し合っている。2階に住む中年男スタンコヴィッチ(ギュスタヴ・ケルヴァン)は「自分はエレベーターを決して使わない」と約束し、費用負担に参加しないことが認められる。しかしその直後、モーターサイクルマシンの使いすぎで当分車椅子で生活することになってしまう。やむなく毎夜、こっそりエレベーターを使い買い出しにいくハメに…。そんなある夜、映画『マディソン郡の橋』を見た直後に出かけたスタンコヴィッチは、病院の裏口で訳ありげな夜勤の看護婦(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)に出会う。彼女に惹かれたスタンコヴィッチは、映画の主人公同様、世界を旅するカメラマンだと名乗り「あなたの写真を撮らせて欲しい」と申し出るが…。そして団地の別のフロアーでは、鍵っ子のティーンエイジャー、シャルリ(ジュール・ベンシェトリ)が、引っ越してきた落ち目の中年女優ジャンヌ(イザベル・ユペール)と出会い、気にかけるようになり…。屋上に不時着したNASAの宇宙飛行士ジョン(マイケル・ピット)は最上階の住人でアルジェリア系移民の年配の女性、マダム・ハミダ(タサディット・マンディ)の部屋に助けを求め…。こうして孤独を抱えた6人、3組の男女は予期せぬ出逢いに心を動かされていく。



ありそうでなさそうな、男女3組の出会いとその関係。
3つのエピソードはいずれも、設定や展開が奇想天外なもの。しかしなぜか一瞬「ありそうかも?」と思わされてしまう。いずれの人物も丁寧に役作りされ、会話や間、ちょっとしたやりとりに、説得力と魅力があるからだ。そんな中、ちょっとしたスキを突くように奇妙な事象があらわれるので、奇抜さや違和感を感じなくなってしまう。1つ目のエピソードでは、カメラマンだという嘘を通すために、中年男のスタンコヴィッチがあれこれと妙策を練る。そんな男のおかしくも切ない嘘に対する女性看護師の独特な物腰と態度が、微妙に噛み合ってしまう。2つ目のエピソードでは、落ち目の中年女優ジャンヌとティーンエイジャーの少年の関係に、ジャンヌの「女優」という特殊な職業が作用する。3つ目のエピソードでは、NASAの宇宙飛行士が団地の屋上に不時着というシュールな状況に。それはさぞ困るであろう…と観客がニヤニヤ見守っていると、救世主となるマダムが登場し、その優しさと満面の笑みで宇宙飛行士ジョンの心を掴み、観客もろともその魅力に巻き込んでしまうのだ。



ベテラン俳優陣に臆さぬ期待の新星、ジュール・ベンシェトリは監督の実子
本作は、脚本・原案もサミュエル・ベンシェトリ監督によるもの。『歌え!ジャニス・ジョプリンのように』(2003年公開)で長編監督デビューしたサミュエル・ベンシェトリ監督は、自身もパリ郊外の団地出身。本作は、そのころの思い出が本作のベースになっているようだ。監督は、2003年に亡くなった女優マリー・トランティニャンの最後の夫で、彼女との間に息子いる。それが、本作で鍵っ子のティーンエイジャーを演じた ジュール・ベンシェトリ。映画出演ははじめてではないが、ほか5人のメインキャストはベテラン俳優ばかりで、演技経験にはかなりの差がある。このジュールのキャスティングは、プロデューサーの強い推薦であり、監督にとっては想定外だったそうだ。 しかしジュールは、大人を食ったような落ち着きある表情で、この顔ぶれにひけをとることなく、印象強く役柄を演じている。これにより、今後が期待される若手俳優のひとりとなっただろう。素晴らしいキャスティング、そして信頼できるプロデューサーとの出会いなど、監督自身にもサプライズと幸運が舞い降りた本作。多くの人の心を心地よく温めてくれることだろう。



▼『アスファルト』作品・公開情報
(2015年/カラー/スタンダード/ドルビー5.1ch/DCP/100分/フランス語・英語・アラビア語/フランス)
原題:『ASPHALTE』英題:『Macadam Stories』
監督・脚本:サミュエル・ベンシェトリ
出演:イザベル・ユペール/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ/マイケル・ピット/ジュール・ベンシェトリ/ギュスタヴ・ケルヴァン/タサディット・マンディ
配給:ミモザフィルムズ
●『アスファルト』公式HP
9/3(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ(モーニングショー)、シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー
© 2015 La Camera Deluxe – Maje Productions – Single Man Productions – Jack Stern Productions – Emotions Films UK – Movie Pictures – Film Factory

 

文:市川はるひ

 

  • 2016年09月03日更新

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