『カンパイ! 世界が恋する日本酒』〜アメリカ在住の監督が、日本酒ドキュメンタリーを撮ったワケ〜

  • 2016年07月11日更新

ドキュメンタリー映画『カンパイ! 世界が恋する日本酒』が7月9日(土)から、日本で公開されます。本作を撮った、アメリカ・ロサンジェルス在住の映画ジャーナリストでもある小西未来監督に、6月に来日した際、作品についてのお話をうかがいました。アメリカでの生活が長い小西監督が、今回、なぜ日本酒を作品の題材にしたのか? そして、クラウドファンデイングや撮影の裏話など…フットワークの軽さを感じる歯切れのいい口調で、楽しく聞かせていただきました。


ライター業と両立できる映画作りを…
小西未来監督(以下、小西):ぼくは1995年1月にアメリカの大学院に入って、それからずっとロサンゼルスに住んでいます。在学中からライターの仕事を始めて、そのまま今に至るような感じです。基本的に日本の媒体のライターをやっていて、向こうで取材をして、日本語で記事を書くという仕事のパターンです。まだ、若手のつもりだったんですけど、気づくと結構経っていましたね。
ー今回、最初からドキュメンタリーを撮ろうということで企画されたんですか?
小西:妻子もありますし、まず、ライターとしての生活を維持しつつ映画を作るなら、ドキュメンタリーだったら予算やスケジュールの面で、ギリギリできるかなと思ったんです。じゃあ、どんなものを作ろうかって考えたときに…アメリカとか海外では、今、フードドキュメンタリーが人気がある。日本はもう食の宝庫なので、日本の食文化をアメリカや海外に伝えるようなものを作ったら、きっとマーケットにのるだろうな、と思いました。日本酒の他にラーメンとか、いろいろ候補を考えていたんですが、具体的なアイディアが浮かばなくて。しかも、ぼくは日本酒に対してすごく苦手意識がありました。
ーわかります…ちょっと難しい印象ですよね。
小西:そうなんです。日本酒は、どこから攻めていいのか全然わからなかったんです。本を読んでみても、よくわからないし…だから企画が具体的に動き出したのは、出演していただいた「南部美人」蔵元の久慈浩介さんに出会ってからです。パワーと魅力をすごく感じて「この人と一緒に、日本酒の映画を作ったら面白いんじゃないか」と思ったのが、一番最初のきっかけです。


クラウドファンディングで失敗したら、失敗記を書こうと思った
ークラウドファンディングは、成功すると思っていましたか?
小西:いいえ。好奇心で始めた感じです。やっぱり、他の人が成功したパターンを聞いても、自分がやってうまくいくかわからない。でもぼくはライターでもあるから、自分の名前を出して失敗したら「失敗記」を書こうと思って(笑)。そうやって防御策を立てていましたね。
ー「成功記」は、お書きにならなかったんですか?
小西:書いてないですね。実はクラウドファンディングの経緯を、あまり覚えていないんです…クラウドファンディングの運営のかたがいろいろ教えて、リードしてくれて。向こうとしても「成功してもらいたい」というところがあるから、協力してくれるんです。「○日前にこれをやりましょう」とか「リターンでこれをやりましょう」とか提案してくれて。だからぼくはそれについていった、という感じです。
ークラウドファンディングの対象は日本人だったんですか?
小西:そうです、今回は日本のサイトでした。
ーどういうかたが興味を持って、協力者として名乗りを上げてくれたんでしょうか?
小西:1/3ぐらいのかたが、ぼくのことを知っている人。1/3くらいのかたがお酒の業界のかたや、出演者を知っている人。あとの1/3は…どうしてなのかよくわからないかたがたです。「どうして出資してくださったんですか?」なんて聞ける機会がないからわからないんですが、ありがたいことです。知り合いでなくとも、こういうプロジェクトに出資しよう、と思ってくださるかたがいるだな、と。
ークラウドファンディングで出資を募るのは、結構プレッシャーにもなったそうですね。
小西:そうなんです、責任を感じて。でもこの映画に関してぼくは「メインキャスト3人が絶対に魅力的だ」とわかっていたので、つまらない映画になるという不安はなかったです。まず最初に3人にインタビューさせていただいて。そうすると、画的には変化がないけれど、それだけでも話としては面白くて。…だからこの、話してくださった内容自体が、脚本そのものだな、と思いました。それで「脚本はできた。じゃあ喋っている内容について撮影しに行こう」ということになりました。


杜氏のフィリップ・ハーパーさんの術中にハマってしまった監督
ーメインは3人のかたが出演されていますが、杜氏(とうじ)のフィリップ・ハーパーさんへの交渉が一番大変だったそうですね。
小西:はい。日本酒伝道師のジョン・ゴントナーさんは、喋り慣れているし、久慈さんは究極のセールスマンのようなかたですからまったく問題ありません。ハーパーさんも撮影が始まってからはよかったけれど、最初に許可を取り付けるのが大変でした。過去にテレビ取材を受けたときに嫌な思いをされたそうで…テレビ取材では、多くの人でやってきて「そこは入らないでくださいね」て言っても入っちゃったり「もう一度、同じ動きしてください」って要求されたり。そういう「嫌だったこと」を全部教えてもらって「そういうことは一切やりません」って言ったら「断る理由がなくなりました」(笑)。彼にとって大事なのは、自分の作業をいかに効率よくやるかというところだし、限界分まで造ったお酒がすぐ売り切れてしまうくらい人気なので、映画に出て宣伝するまでもありませんし。
ー入手困難なほど、ハーパーさんの人気のお酒なんですね。
小西:そうなんです。それで、後からハーパーさんがこの映画に出たモチベーションについて教えてくれたんですけど…ハーパーさんは、元同僚の鈴木大介さん(※)のことをとても心配していて、彼の手助けをしたかったそうなんです。だから、ぼくが取材に来る日に、鈴木さんの後援会イベントをぶつけてきたりする(笑)。ぼくはうまく、鈴木さんの取材をするように促されていたみたいなんです。ハーパーさんは「自分の画は別に見たくないけど、大介が昔の蔵に行く所が映像に収まって、現状をたくさんの人にみてもらえたことが嬉しい」と言っていました。
(※ 鈴木大介さん:以前、奈良県の酒造でハーパーさんと蔵人として共に働いたことがある。鈴木酒造店専務で、東日本大震災の際、元の酒蔵は津波で流出したが、現在は山形県に再建を果たしている)


山形、岩手、福島、京都の久美浜。加えて、コーンウォールの美しい景色
ーこの作品、風景がとても美しいですよね。
小西:ありがとうごさいます。久慈さんには「岩手の、寒い冬の蔵の画がないじゃないか」と言われましたが(笑)。ぼくは東京生まれ、東京育ちだったので、日本の田舎の良さを知らずに海外に行ってしまった。だからこの撮影を通して、初めて素晴らしい土地に行くことができました。山形、岩手、福島、京都の久美浜。加えて、ハーパーさんの実家があるコーンウォールへも。ここはロンドンから電車で5時間かかるんです。
ー5時間も!
小西:はい。素晴らしい景色を体験できて、幸せでした。天気のいい日の夜空が、プラネタリウムみたいに美しすぎて。牛もいて、虫の声もして…あまりに見事な風景なんで「すごい、ディズニーランドみたいだ!」っていちいち反応していたら、ハーパーさんは笑ってました。それから、この土地で気付いたのが…食事する店が一軒のパブしかないんですが、そこで飲んだ地ビールの味が、本当に濃い。すっきりした喉ごしの対極にある「旨みの塊」みたいな味。それが、ハーパーさんの作るどっしりしたお酒によく似てるなと思ったんです。
ー味の傾向が共通していたんですね。コーンウォールは、ハーパーさんが自分の田舎に来るようにと案内してくださったんですか?
小西:いえ、撮影も終盤にかかるころ、久慈さんがロンドンに売り込みにいく日が決まっていて。ちょうどその前後あたりにハーパーさんが「帰省しようかな」っていってたのを思い出したんで「ついて行っていい?」っていったら、渋々OKしてくれました(笑)。


「ドキュメンタリーは退屈、という人に観て欲しい。これはエンタメ作品なんです」
ーこの作品、どういう人に観て欲しいですか?
小西:もちろんできるだけ多くのかたに観ていただきたいです。日本酒ツウのかたは、観たいと思ってくださるでしょう…久慈浩介さん、フィリップ・ハーパーさんが動いている姿って、なかなか映像で観られないから。でもそういう日本酒ツウは、ごく一部のかたです。この作品は「日本酒は飲まずギライ」という人たちも楽しめる映画だから、そういうかたにも観ていただきたいです。
ー日本酒を敬遠してきた人たちですね。
小西:ぼくもこの作品を作るまで全くわからなかった日本酒が、今、とても好きになって、少しずつ自分の好みの味がわかってきてるんです。多分この作品を観終えたとき、多くの人に「日本酒飲みに行こうかな」という思いが芽生えると思います。日本酒そのものではなく、日本酒に関わる魅力的な人たちを撮った作品なんです。
ー出てくるみなさん、本当にキャラクターが濃くて魅力的ですよね。
小西:面白い人物がいれば、こういう作品が成立し得ると実感しました。だから、できたらぼくは第二弾、第三弾を撮りたいという欲もあるんです。これからもぼくは、日本文化のポジティブな面を伝えられるような作品を作り続けていきたい。ぼくは「作品を作る限り、エンタメじゃないといけない」と思うんですよ。観客に「お勉強」をさせるのも嫌だし、不幸話ばかりを聞かせるのも嫌なんです。共感できるキャラクターがいて、その人が困難に立ち向かっていく…そういうところを描きたい。お金を払って時間を費やしてもらうんだから、観客に明るい気持ちになってもらいたいっていうのが、ぼくの考えです。
ーそれでは最後に、監督からみなさんへ、一言お願いいたします。
小西:ドキュメンタリー作品を見慣れていないかたは「ドキュメンタリーなんて退屈だろう」と敬遠してしまうことが多いと思います。でも、これはそういう映画ではなく、エンタメ好きのぼくが、エンタメとして楽しんで観ていただけるように作った作品です。ぜひ劇場まで観に来てください!



▼『カンパイ! 世界が恋する日本酒』作品・公開情報
(2015年/日・米/日本語・英語/95分/カラー)
監督:小西未来
出演:フィリップ・ハーパー、ジョン・ゴントナー、久慈浩介 ほか
エグゼクティブ・プロデューサー:駒井尚文、スージュン
プロデューサー:柳本千晶
配給:シンカ
●『カンパイ! 世界が恋する日本酒』公式サイト
2016年7月9日(土)、シアター・イメージフォーラム他全国順次公開
© 2015 WAGAMAMA MEDIA LLC.
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