『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』~被災20年後の神戸と、福島をつなぐ青春ロードムービー。それぞれが大切なものに気づく旅

  • 2016年01月23日更新

LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版 2015年放送の東日本大震災をテーマにしたNHK特集ドラマに、未公開シーンを加えた劇場版。青春ロードムービーでありながら、福島・神戸の両震災で傷ついた多くの人々の、すれ違いと「気づき」を濃厚に描く。女子高生のヒロインにE-girlsの石井杏奈、恋人の教師役に黒猫チェルシーの渡辺大知。 監督は連続テレビ小説『あまちゃん』のチーフ演出で知られる井上剛、音楽も『あまちゃん』で井上監督とタッグを組んだ大友良英とSachuko M。劇中には作品テーマに絡む重要な楽曲も登場し、音楽ファンの注目も集めている。

2016年1月23日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開(1月16日(土)より、フォーラム福島、シネマート心斎橋、元町映画館にて先行公開)

「福島の被害は、神戸みたいにチャラくない!」それぞれの悲しみはすれ違う…。
LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版 福島で被災し、今は神戸の女子校に通う朝海(石井杏奈)は、合唱部の顧問で教師の岡里(渡辺大知)とは恋人同士。阪神淡路大震災から20年後のこの年、岡里は神戸復興のシンボル曲『幸せ運べるように』を合唱部で歌うことを提案する。しかし朝海はいろんな思いが交錯し、歌う気になれずにいた。ある日の放課後、岡里の母ミドリ(南果歩)の喫茶店に立ち寄った朝海は、ミドリの気遣いに苛立ちを爆発させ「福島の被害は神戸みたいにチャラくない!」と言い放ち、店を飛び出してしまう。岡里と気まずくなった朝海は合唱部も欠席するようになる。そんなある日、震災後も福島に留まっている小学校の同級生マジ(前田航基)から「タイムトラベルの誘い」という連絡を受けとり、朝海は福島へと向かう。神戸で暮らす勝(柾木玲弥)や横浜で夜の仕事をする香雅里(木下百花)ら同級生、そして朝海の後を追ってきた岡里も加わり、一行は福島で待ち受けていたマジとともに、立ち入りを制限されている福島の地へ入っていく。そこには震災後も牧場を守るモーさん(中村獅童)や、行方不明の夫の帰りを待ち続けるアスカ(ともさかりえ)が暮らしていた…。

若者たちが思い出をたどる旅。カメラは傷跡が残る福島の地も躊躇なく映し出す。
作品は、神戸の町から福島へ、登場人物の旅を追うロードムービー。ドキュメンタリーのように、震災のツメあとが色濃く残る福島の町や海の風景も、まざまざと映し続ける。登場人物に多くを語らせることなく物語が進んでいくが、本物の立ち入り制限区域にカメラが入り込んだ映像は非常に雄弁だ。遺族の悲しみ、被災者の苦しみが、この地に深く刻まれていることが、しっかりと見て取れる。そんな中、朝海の想像で世界が一転、福島の夜祭りが繰り広げられる華々しいシーンがある。戻ってきた人々で溢れかえる福島の町、眩しい光、陽気な笑顔、踊りと音楽、やぐらに響く太鼓の音…。それはキラキラと輝く世界。何度思い切ろうとしてもあきらめきれない、蘇らせたい故郷の姿。切なくも温かくもある朝海の求める世界。ここで二階堂和美演じる、朝海の空想の中の歌い手は「放射線はないつもり、強い絆で結ばれているつ・も・り…」とあっけらかんと歌い、皆川猿時演じる狂言回しは、朝海と手を取り合ってはしゃぎ回る…やがて、一瞬にして幻想が去ったあとの寂しさ、現実…。映像と音楽、そして俳優の表情や間合いのバランスが、観る者の感性に強く働きかけてくる。

「悲しみの重さは、比べられない」それはすべての人に当てはまること。
LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版 物語には、世間から取り残されたような福島の地に、残留した人たちが登場する。彼らは前向きな明るさを忘れずに日々を過ごしている。しかし、その心の底に抱える苦しみと孤独は計り知れない。誰にも理解できない「その人だけの悲しみ」だ。震災で愛する者を失った者、故郷を追われた者、あるいは住む土地が世間から見放された者…。こんなとき、傷を持つ者同士が傷つけ合うことも多い。理不尽な目にあえば、だれもが他者の立場を思いやる想像力など、働らかせる余地はなくなってしまうかもしれない。それはすべての人に、いつ起こるともしれない状況だ。いつか再び訪れるであろう大規模災害、あるいは悲しい出来事。やり場のない深い傷を抱えたとき、人は他人の痛みとどう向き合えるのか? 旅の果てに、彼らは希望の光をどう見出していくのだろうか。この作品の中で、あなた自身のためのヒントを見つけられるかもしれない。

 

▼『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』作品・公開情報
LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版(2015年/日本/カラー/DCP/100分)
監督:井上剛
脚本:一色伸幸
音楽:大友良英、Sachiko M
出演:石井杏奈、渡辺大知、木下百花、柾木玲弥、前田航基、津田寛治、二階堂和美、皆川猿時、ともさかりえ、南果歩、中村獅童 ほか
コピーライト:(C)2015NHK
『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』公式サイト
配給:トランスフォーマー

※2016年1月23日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開(1月16日(土)より、フォーラム福島、シネマート心斎橋、元町映画館にて先行公開)

▼関連記事:『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』一夜限りのスペシャルセッション~ゲスト:渡辺大知、二階堂和美

 

文:市川はるひ

  • 2016年01月23日更新

トラックバックURL:http://mini-theater.com/2016/01/23/live-love-sing-%20/trackback/