『ヒトラー暗殺、13分の誤算』〜人生を謳歌してきた男が、なぜたった一人でヒトラー暗殺を決行したのか?〜

  • 2015年10月17日更新

1939年ヒトラー暗殺未遂事件が勃発。被疑者として逮捕されたのは所属政党もない36歳の家具職人ゲオルク・エルザー。当時の圧倒的なヒトラー政権に、孤立無援でひっそりと抗う彼の真実とは…?数々のヒトラー暗殺事件の中でも特異性を放つ、ゲオルク・エルザーによる実在のヒトラー暗殺未遂事件を徹底的にリサーチし、謎に満ちたその人生を解き明かす物語。オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督(『es [エス]』『ヒトラー ~最期の12日間~』)による人間の心理を深く掘り下げた目線と俳優たちの豊かな演技に心揺さぶられる感動作!
10月16日(金) TOHOシネマズ シャンテ、シネマライズ他全国順次公開
(c)2015 LUCKY BIRD PICTURES GMBH,DELPHIMEDIEN GMBH,PHILIPP FILMPRODUCTION GMBH & CO.KG (c)Bernd Schuller


芸術や愛に生きてきたゲオルク・エルザーが、ヒトラー暗殺に至るまで
1939年11月8日、ミュンヘンのビアホールで、アドルフ・ヒトラーが恒例の記念演説を行って退席した13分後、ホールに仕掛けられていた時限爆弾が爆発した。8人を死に至らしめた爆破装置は精密かつ確実、計画は緻密かつ大胆。その手口から、独秘密警察ゲシュタポはクーデターや英国諜報部の関与を疑った。しかし逮捕されたのは、田舎に暮らす家具職人、ゲオルク・エルザー(クリスティアン・フリーデル)という36歳の男。大物の黒幕の存在を疑うヒトラーは、決行日までに彼が歩んできた人生のすべてを徹底的に調べるように命じる。単独犯だというエルザーの主張は事実なのか?誰かをかばっているのか?政党にも所属しない彼にどんな動機があるというのか…。音楽やダンスや恋に興じ、人生を謳歌してきた男が語る真実とは…?


ゲオルク・エルザーの心理に観客を追いつかせる、明確で豊かな演出
冒頭は緊迫感溢れる爆弾の設置…やがてヒトラー暗殺は未遂に終わり、エルザーは逮捕され、過酷な尋問の責め苦にあう。そして一気に場面は過去に戻り、そこに至るまでの彼の人生が回想される。もともとエルザーは美しい田舎で暮らすノンポリの芸術青年だった。暴力も苦手、女性と音楽と自由を愛する性分。そんな彼が人知れず時限爆弾を作り(現実のエルザーは時計職人でもあった)、我が身を孤独に追い込むまでの経緯を、観客はともに辿ることになる。そんなの気持ちが追いつけないんじゃないか…? と半信半疑になりながら、エルザーから目が離せなくなる。そして多くの人が見事に説得されるだろう。昨日とちがってしまう今日。ゆがみゆく村人の言動。暴力、人種差別、兵器増産。「そのとき目を開けていた」エルザーの目を通し、あなたはその心理を知り得ることになる。エルザーを演じる クリスティアン・フリーデルが紡ぎ出す、その豊かな人物像に引き込まれてしまうだろう。


政治に正しい結論を下すのは誰だ?今こそ日本人が今観るべき作品
長年、エルザーの血縁であることを責められてきた人もいたそうだが、本作は曲解されてきたゲオルク・エルザー氏の名誉回復にも一役買ったそうである。エルザーは良い人柄と強い意志をもち、愛に満ち、人一倍人生を謳歌している(という人物として描かれている)。彼は特別な立場ではない。政党に属さず、思想を同じくする仲間もいない。しかし「それが行われるべき政治なのか」という判断を下せたのは、政党でも地下組織でもない。高等教育を受けたわけでもない、ごく普通に暮らすエルザーという一市民だったのだ。極端な政治に違和感を覚え、長いものに巻かれることなく、虚飾に目を奪われなず、良心と折り合いがつかない限界に達したら、立ち上がる。この作品は、自由を本気で愛することとはどういうことなのか、と考えるきっかけをあなたに与えてくれるだろう。 今の日本では、決して他人事ではないかと思う。まさに今、多くの日本人にみてもらいたい作品である。


▼『ヒトラー暗殺、13分の誤算』作品・公開情報
2015年/ドイツ映画/言語:ドイツ/114分/カラー
監督:監督オリヴァー・ヒルシュビーゲル『es [エス]』『ヒトラー ~最期の12日間~』『インベーション』『ダイアナ』
出演:クリスティアン・フリーデル『白いリボン』、カタリーナ・シュットラー『コーヒーをめぐる冒険』、ブルクハルト・クラウスナー『白いリボン』、ヨハン・フォン・ビュロー

『ヒトラー暗殺、13分の誤算』公式HP
配給:ギャガ
10月16日(金) TOHOシネマズ シャンテ、シネマライズ他全国順次公開
(c)2015 LUCKY BIRD PICTURES GMBH,DELPHIMEDIEN GMBH,PHILIPP FILMPRODUCTION GMBH & CO.KG (c)Bernd Schuller

文:市川はるひ

  • 2015年10月17日更新

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