『真夜中のゆりかご』〜我が子の突然死……悲しみの中、悪意なき悪事に走った敏腕刑事の運命は……?

  • 2015年05月15日更新

アカデミー賞外国語映画賞受賞作『未来を生きる君たちへ』など、深い人間ドラマの傑作を撮り続けるスサンネ・ビア監督のサスペンス作品。幸せな夫婦に訪れた愛息の突然死。刑事である夫は我が子の遺体をすり替えることを思いつく……。デンマークの水辺の風景を印象的に取り込みながら、苦しみ惑う主人公の魂のゆくえをスリリングに、情感豊かに描き出す。2014年トロント国際映画祭でプレミア上映され絶賛を浴びた北欧サスペンスの傑作。5月15日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開 © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB


よき父である刑事が出会った育児放棄と愛息の突然死……運命の歯車が狂い始める。
敏腕刑事のアンドレアス(ニコライ・コスター=ワルドー)は、美しい妻アナ(マリア・ボネヴィー)、まだ乳児である息子アレクサンダーとともに、湖畔の瀟洒な家で幸せに暮らしている。夜泣きがひどいアレクサンダーを夫婦交代で寝付かせる日々は愛に満ちていた 。ある日アンドレアスは、通報を受け同僚シモン(ウルリッヒ・トムセン)とともに駆けつけた部屋で、薬物依存の男トリスタン(ニコライ・リー・コス)とサネ(リッケ・メイ・アンデルセン)の赤ん坊が、汚物にまみれ育児放棄されているのを発見。「アレクサンダーと同じ赤ん坊なのに、あんな目にあわされるなんて……」と心を痛めるアンドレアス。ところがほどなくして、アレクサンダーが突然死してしまう。アナの激しい取り乱し様に動揺したアンドレアス。その脳裏に、トリスタンの息子ソーフスの姿がよぎる。アンドレアスは「赤ん坊を救うことにもなる」と思い込み、トリスタンの部屋に忍び込んで、寝ているソーフスとアレクサンダーの遺体をすり替えてしまう。目を覚まし自分の子が死んだと思い込んだトリスタン、アンドレアスたちの様子を不審に感じる同僚シモン 、子を失ったサネの母性、そしてアナの秘密が絡み合い、事態は思いもよらぬ方向に転がっていく……。


人間ドラマとしても秀逸。北欧を代表する俳優たちに並んでトップモデルが熱演も。
本作は上質なサスペンスであるのと同時に、人間ドラマとしても非常に見応えがある。これは深い情感をたたえた、存在感あるキャストが揃っているからだろう。主演アンドレアス役には、北欧出身の注目株ニコライ・コスター=ワルドー (映画『オブビリオン』でトム・クルーズと共演、人気TVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』などにも出演)。同僚シモン役には『未来を生きる君たちへ』にも出演したウルリッヒ・トムセン、薬物依存のDV男トリスタン役には、やはりスサンネ・ビア監督作品に出演してきた ニコライ・リー・コス。一方女優は、激しい感情を爆発させる美しい妻アナ役に、北欧映画界を代表するマリア・ボネヴィー。そしてすり替えられる赤ん坊の母親役は、本作が女優デビューとなるリッケ・メイ・アンデルセン。暴力的なパートナーとの生活に疲れたような気だるい空気を全身にまとい、人生をあきらめたような暗い目元に説得力がある。ところが彼女は演技初体験のモデルだというから驚きだ。あるパーティで出会ったスサンネ・ビア監督が、直感で彼女をキャスティングしたという。トップモデルとしての強い目力が、転落した鋭い目つきのビッチ感にすり変わり、不思議な魅力を発揮している。

 


社会問題を組み込んだ巧みなストーリー。北欧サスペンスならではの、水辺の風景が味わいを増す。
本作は、ムダのない見事な仕掛けのサスペンスだ。奥の奥まで覗き込んでも、次々と仕掛けがこぼれ出てくるかのようである。追い詰められる主人公を見つめながら、観客は「あなたならどうする?」と迫られているようであり、ときには張り詰めた気分になるろう。格差社会、アルコール依存、複雑な家族関係など、身近な現実に広がる社会問題を巧みにストーリーに組み込み、心地よい速度に乗せて、観るものをどんどん引き込んでゆく。エリート意識の罠、突発的な事件に見舞われたとき露見する人間の弱さ……人としての本質に迫る、スリルに満ちた展開だ。そして北欧ならではの、沈鬱にも見える美しい静かな水辺の風景が、サスペンスとしての味わいを深くしている。作品の世界観に身を委ねてのめり込むほどに、主人公が希望の光を見出せるようにと、痛みを伴いながら祈るような気分になっていくかもしれない。

 

▼『真夜中のゆりかご』作品・公開情報
2014年/デンマーク/102分/カラー/デンマーク語、スウェーデン語/シネマスコープ/5.1ch/
監督:スサンネ・ビア
脚本:アナス・トーマス・イェンセン
出演:ニコライ・コスター=ワルドー、ウルリッヒ・トムセン、マリア・ボネヴィー、ニコライ・リー・コス、リッケ・メイ・アンデルセン ほか
配給:ロングライド
●『真夜中のゆりかご』公式HP

5月15日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
© 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB

 

文:市川はるひ

 

  • 2015年05月15日更新

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