『ワイルド・スタイル』―ヒップホップ・カルチャー黎明期の空気を余すところなくパッケージしたマスターピース

  • 2015年03月21日更新

ヒップホップが生まれる瞬間を切り取った記録映画として高い価値をもつ作品

1982年のニューヨーク、サウス・ブロンクス。アメリカでもとりわけ貧しい人々が住むこの地区で、鬱屈したパワーを持て余した若者たちが独自の新しいムーブメントを生み出し、熱狂していた。

DJ、ラップ、ブレイクダンス、グラフィティ・アート。当時、NYの片隅でしか実際に観ること、知ることのできなかったこの事象は、あるインディペンデント映画をきっかけに【ヒップホップ・カルチャー】として世界に知れ渡ることとなる――。

その作品のタイトルは『ワイルド・スタイル』。実際のグラフィティ・ライターやダンサー、DJ、ラッパーなどが多数出演するこの作品は、劇映画ではあると同時にヒップホップ・カルチャー黎明期の空気を余すところなくパッケージした記録映画としての価値が高い。後に世界を席巻するこのヒップホップ・カルチャーが生まれる瞬間を鮮明に伝えた金字塔的作品なのである。

自由に描くことと、仕事として描くこと。若きグラフィティ・ライターの見つけた一つの答えは……?

グラフィティ・ライターのレイモンド(リー・ジョージ・キュノネス)は、深夜に地下鉄のガレージへ忍び込み、覆面アーティスト「ゾロ」として車両のボディにスプレーでグラフィティを描いていた。斬新なゾロの作品は注目の的となるが、違法行為のため恋人のローズ(サンドラ・ピンク・ファーバラ)にも正体を明かせず、二人の仲もぎくしゃくする。そんなある日、彼は先輩のフェイド(ファブ・ファイブ・フレディ)から新聞記者ヴァージニア(パティ・アスター)を紹介される。これまでに多くのアーティストを表舞台に送り出してきたバージニアから仕事の依頼が舞い込むが、アンダーグラウンドの世界で自由に描くことと、仕事として華やかな表舞台で描くことの選択にレイモンドは思い悩む。やがて彼が見つけた一つの答えとは……?

DJ、ラップ、ブレイクダンス、グラフィティ・アートがヒップホップの4大要素になったワケ

監督のチャーリー・エーハンは、ホイットニー美術館のアートプログラムを受講するためにニューヨークへ移り住み、1979年には、スーパー8で撮影したヒップホップ・カンフー映画の『ザ・デッドリー・アート・オブ・サバイバル』という作品を製作する。その撮影中に街で出会ったのが、リー・ジョージ・キュノネスが描いた壁画だ。衝撃を受けたエーハンは、リーの仲間でもあったファブ・ファイブ・フレディと共に彼をフィーチャーした映画製作を決意。グラフィティだけではなく、同じくストリートから生まれたラップやDJのスクラッチ、ブレイクダンスをミックスするアイデアを提供したのが、後にMTV初のヒップホップ専門番組『Yo!MTV Raps』のパーソナリティを務めるファブ・ファイブ・フレディだった。ヒップホップ・カルチャーの4大要素がDJ、ラップ、ブレイクダンス、グラフィティ・アートとして世界的に認知されている原点は、まさにこのアイデアにある。
レジェンド・オブ・ヒップホップたちの貴重なパフォーマンスシーンに興奮!

こうして、撮影された本作にはヒップホップのレジェンドと呼ぶべきメンバーが出演し、パフォーマンスを繰り広げている。クラブで客を盛り上げるビジー・ビー、グランド・マスター・フラッシュのDJプレイ、ラップバトルしながらバスケ対決をする(!?)コールド・クラッシュ・ブラザーズとファンタスティック・フリークス、ロック・ステディ・クルーのブレイクダンス、ダブル・トラブルのステージ等々……。若き日の彼らは底知れぬパワーと無垢な衝動に溢れていて、とにかくモーレツにかっこいい!  そのすべてが一つになるラストシーンはまさに伝説の始まりと呼ぶにふさわしい名場面だ。高級マンションの高層階から見た夜景なんかより、主人公レイモンドはきっと心を揺さぶられたに違いない。

ヒップホップ・カルチャーを世界に知らしめた本作が、世界で最初に封切られたのは1983年の東京だった。監督と出演者36人もプロモーションで来日しイベントなどに出演。ヒップホップという言葉や概念がまだ未知のものであった当時の日本で、観客たちが受けた刺激は計り知れないものだったという。それからもリバイバル上映を望む声は後を絶たず、2013年にはアメリカで30周年記念のDVD-BOXがリリースされたものの、日本ではDVDでも入手困難なようだ。今回、スクリーンで観ることができるのは本当に貴重な機会といえるだろう。

▼『ワイルド・スタイル』作品・公開情報
(1982年/アメリカ/82分)
原題:Wild Style
監督・製作・脚本: チャーリー・エーハン
音楽:ファブ・ファイブ・フレディ(フレッド・ブラズウェイト)、クリス・スタイン
撮影:クライブ・デヴィッドソン
字幕監修:K DUB SHINE
出演:リー・ジョージ・キュノネス、ファブ・ファイブ・フレディ(フレッド・ブラズウェイト)、サンドラ・ピンク・ファーバラ、パティ・アスター、グランドマスター・フラッシュ、ビジー・ビー、コールド・クラッシュ・ブラザーズ、ラメルジー、ロック・ステディ・クルーほか
提供:パルコ
配給: アップリンク、パルコ
コピーライト:©New York Beat Films LLC

『ワイルド・スタイル』公式サイト

※3月21日より、渋谷シネマライズ、シネリーブル梅田ほか、全国順次公開

文:min

  • 2015年03月21日更新

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