『君が生きた証』-たとえ許されなくても、父親は息子を身近に感じていたかった-

  • 2015年02月21日更新

人はどんなにつらく苦しいことがあっても、いずれは前に進まなければならない。本作の主人公は、ある事件で息子を失った父親だ。彼は大きな秘密を抱えながらも、息子が遺した歌を演奏することでその人生に近づいていく。また、父親と彼に転機を与えるミュージシャン志望の青年との交流も清々しく描かれる。





バンド活動が父親を再生へと導く
広告会社の宣伝マンのサムは、大学で起こった銃乱射事件で息子ジョシュを亡くす。2年後、仕事を辞め荒れた暮らしをしていた彼に、別れた妻がジョシュの自作曲のデモCDを持ってくる。それを聞き、息子の曲を爪弾くようになるサム。歌っているとまるで息子が近くにいるような感じがしたのだ。
ある日彼は場末のバーの飛び入りステージに参加する。その演奏を聴いて感動したクエンティンという青年の強引さに負け、バンドを組むことに。次第に人気が高まりサムも生きがいを見つけるが、実は彼には息子の歌を人前で歌うことができない理由があった。


存在感のある音楽がもうひとつの主役
監督は俳優としても有名なウィリアム・H・メイシー。ドラマ部分だけでなく音楽にもウエイトを置いた演出がこの作品の大きな特徴といえるだろう。サムがジョシュの曲を演奏するシーンを多く入れることで、亡き息子の魂を徐々に身近に感じるようになる過程を見せてくれるのだ。こうして、若い仲間たちとのバンド活動という生きがいを見つけ、サムの心は少しずつ癒されていく。ある秘密が暴露されるまでは。

なぜ息子の曲を人前で演奏できないのか。なかなか明かされない理由も物語を引っ張る大事な要素になっている。印象的なのは、悲嘆に暮れながらも新しい人生をすでに歩んでいる元妻と、なかなか立ち直れないサムの姿の対比だ。そこには、父と息子に共通する人一倍繊細な心と2人のつながりが垣間見える。普通ならあまり描かれることのない立場の人間にスポットを当て、その再生を温かいまなざしで見つめた静かな余韻の残る作品だ。

なお、サム役のビリー・クラダップもクエンティン役のアントン・イェルチンも、吹き替えではなく自ら歌とギターを演奏。見事なパフォーマンスを見せている。


▼『君が生きた証』作品・公開情報
2014年/アメリカ/カラー/105分/DCP
監督:ウィリアム・H・メイシー
出演:ビリー・クダラップ、アントン・イェルチン、フェリシティ・ハフマン、セレーナ・ゴメス、ローレンス・フィッシュバーン、ウィリアム・H・メイシー
配給・宣伝:ファントム・フィルム
●『君が生きた証』公式HP
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2015年2月21日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

文:吉永くま

  • 2015年02月21日更新

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