『パンク・シンドローム』〜「手助け無用!」知的障害を抱えるクールなパンクバンドの最高にハッピーなドキュメンタリー〜

  • 2015年01月17日更新

フィンランドのパンクシーンをにぎわす、異色のバンドが現れた。彼らは“ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト”。超個性的な4人組だ。全員が知的障害を抱えながら、各々の個性をぶつけあい練習を重ね、キレキレのパフォーマンスを繰り出していく。メンバーが作詞作曲も手がけており、その楽曲の歌詞はストレートでピュアで過激。聴く者のハートをガッチリつかんで離さない。これぞ本物の叫び、本物のパンクだ!2015年1月17日(土)より、シアター・イメージフォーラムにて公開 ©Mouka Filmi oy


「権力者はペテン師だ 俺たちを閉じ込める!」真の不満・怒りを叫びながらも、ユーモアもたっぷりと。
パンクバンド“ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト”は、2009年にワークショップの一環で結成された、知的障害を抱える4人組ミュージシャン。パワフルなパフォーマンスと、アナーキーかつ共感を呼ぶ楽曲で、瞬く間にフィンランド国内で人気者になった。本作は、そんな彼らのドキュメンタリー。メンバーの顔ぶれは、どんな曲でも編曲できるプロ中のプロでギター担当のペルッティ、渋い声で説得力あるボーカルのカリ、自信家で英語が堪能なベースのサミ、いつもニコニコしている最年少のドラマーのトニ。お互いを認め「俺たち最高!」と言いながらも、性格的にも強烈な個性をもつ彼らは、ことあるごとに練習でつまずき、揉めてしまう。演奏がうまくいかないと泣き出してしまうペルッティ。激しくいがみ合うサミとカリ……。それでも彼らはステージに上がると、パワフルで最高のパフォーマンスを見せてくれる。そんな彼らの音楽活動と、さらに恋愛や日々の生活など、プライベートな面もあわせ、カメラは愛情いっぱいに彼らを追う。



彼らの歌は暮らしの中で生まれるリアルな言葉。ステージと日常、両方から愛情たっぷりに映し出す。
「施設では豚のエサを食わされる!」「少しばかりの敬意と尊厳が欲しい」「夏休みはいらねえ、行くところがねえ」「…ペルッティとカリが自ら手がける楽曲は、とにかく歌詞のインパクトがすごい。それはみんな、実体験からくる心の叫びなのだろう。ストレートでリアル。迫力あるカリのボーカルに歌詞をのせ、3人のダイナミックな演奏で聴かせる。彼らは客席に対し真摯な態度でのぞむ。はじめは真剣に、やがて溢れ出てくるエネルギーとユーモアで、ステージが客席と渾然一体となり、どんどん熱くなっていく様は、観ていて気持ちがいい。また、ステージだけでなく彼らの日常シーンやインタビューも見応えがある。どうやってあの歌詞が生まれたのかが伝わってくる臨場感、メンバーのロマンチストぶりのクローズアップ。メンバーはそれぞれ悩みがあったりトラブルもいっぱいだけれど、愛も夢もいっぱい抱えていることがよくわかるだろう。






「障害者を嫌うべきか、敬うべきか、これをみて考えてくれ」(カリ)
本作の監督、ユッカ・カルッカイネンとJ=P・パッシは「ハッピーで笑える作品」が撮れると確信していた。本作では知的障害を持つ人特有の言動も堂々と「面白み」として組み込んでいる。それを上から目線で撮っていれば観客は楽しめないし、不快に感じる人だっているだろう。だがこの作品はそんな心配は無用、観客はあっと言う間に彼らのキュートさ、真剣さ、ダイナミックなエネルギーに惹きつけられてしまう。それぞれメンバーの気持ちや状況、関係がよくわかるように、丁寧に工夫して撮られており、力強いパフォーマンスシーンも、それが仕上がるまでの経緯や彼らのプライベートを知ることで、より感動が際立つだろう。等身大の彼らを正直に撮りたいと考えた監督たちは「実際の撮影も笑いに満ちたものであり、非常に楽しかった」と語っている。メンバーのカリも「障害者を嫌うべきか、敬うべきか、これをみて考えてくれ」と発言し、作品を多いに気に入っているようだ。ぜひ多くのかたに、笑って楽しみながら、奇跡の4人組の素晴らしい音楽とあふれるエネルギーを受け取ってほしい。

 



▼『パンク・シンドローム』作品・公開情報
2012年/フィンランド・ノルウェー・スウェーデン/フィンランド語/88分/カラー/ビスタサイズ/DCP
原題:Kovasikajuttu/英題:The Punk Syndrome
配給・宣伝:エスパース・サロウ 配給協力:イメージ・サテライト 宣伝協力:PALETTE
監督:ユッカ・カルッカイネン、J=P・パッシ
出演:ペルッティ・クリッカ、カリ・アールト、サミ・ヘッレ、トニ・バリタロ、カッレ・パジャマー ほか

●『パンク・シンドローム』公式サイト

2015年1月17日(土)より、シアター・イメージフォーラムにて公開

©Mouka Filmi oy

文:市川はるひ

  • 2015年01月17日更新

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