第15回東京フィルメックス キム・ギドク最新作『ONE ON ONE(原題)』Q&Aレポート

  • 2014年12月07日更新

11月22日から9日間にわたって開催された「第15回東京フィルメックス」。今年もアジア圏を中心に、さまざまな国から衝撃と興奮に満ちた作品と多彩なゲストが参加し映画祭を大いに盛り上げた。最終日の30日にはメイン会場である有楽町朝日ホールに韓国の鬼才キム・ギドク監督が登場。監督最新作の『ONE ON ONE(原題)』の上映後、会場に集まった観客からの質問に答えた。興味深い内容のQ&Aをレポート!  ミニシア名物の靴チェックもお見逃しなく。(写真左から、東京フィルメックスディレクターの林 加奈子さん、キム・ギドク監督、通訳の根本理恵さん)

『ONE ON ONE』で描いたのは、国家が個人や国民に与える痛み

女子高生の殺人事件に関わった政府関係者たちを、7人の市民が武装集団となって次々と誘拐。凄惨な拷問の末に自白を強要する――。ヴェネチア映画祭ヴェニス・デイズ部門のオープニングを飾ったこの作品で、キム・ギドク監督は時代の歪みがもたらす「痛み」と「贖罪」を奇想天外なストーリーの中に描き出した。民主主義の死を象徴する事件を自らの手で罰していくうちに、テロ集団のメンバーたちの心境に生じる疑問や戸惑い……。それらは、観る者の心にもさまざまな自問の念を喚起させるものだった。Q&Aに挙手した観客からは、監督の定義する「痛み」について多くの質問が集中した。

― 監督が「痛み」をテーマに作品を描き続けている理由を教えてください。

キム・ギドク監督(以下、キム監督):「痛み」は、わたしにとって人生で一番大きな問いかけです。人間として生きていく上で「痛み」は避けられない。しかし、避けられないのであれば理解することが必要です。わたしは、その理解へのプロセスを映画の中に収めたい。間もなく日本公開となる『メビウス』を含め、これまでの作品では個人と他者、または家族といった人間を取り巻く「痛み」を描いてきましたが、最新作の『ONE ON ONE』では、国家が個人や国民に与える「痛み」を描こうと思いました。韓国国民として政治家の行為や権力に失望することがありますが、政治家だけではなく自分の中にある卑怯さが多くの問題を引き起こしているのではないかという問いかけを作品に反映させました。

― 作品にはご自身の経験が反映されているのでしょうか。

キム監督:軍隊の中で暴力を行使したというくだりなどは、自分自身の経験を反映させています。また、この物語自体がアイロニーであり、暴力で相手を懲らしめようとする人も正義ではなく、暴力という構造に組み込まれているのだということを描きたいと思いました。
キム・ヨンミンさんは驚くほどのエネルギーをもった俳優

― 8役を演じたキム・ヨンミンさんのキャスティングについて、経緯や理由などをお聞かせください。

キム監督:彼には過去に『受取人不明』と『春夏秋冬そして春』にも出演をしてもらいました。素晴らしい俳優ですが、残念なことにまだ有名ではありません。今回の作品で彼がどれほど巧みにキャラクターを演じ分けるかを観客に見せたかったし、彼の存在を知ってほしいと思いました。最初は8役を別々の役者で考えていましたが、一人の人間が良い役と悪い役を演じるという構造にすることで、作品に込めた皮肉がもっと浮き彫りなると考えましたし、観客にも興味をもってもらえると思ったのです。

― キム・ヨンミンさん自身は演技について苦労をされていましたか。

キム監督:彼は驚くほどのエネルギーをもった俳優で、役ごとにまったく違ったキャラクターに変身してくれました。とても苦労したと思いますが、さまざまな役を演じるのは役者である彼にとって幸せなことだったと思っています。

― 英語にスイッチしたセリフで会話をするシーンが出てきますが、その意図をお聞かせください。

キム監督:英語を話す役の若い俳優は自らわたしの映画に出たいと連絡をくれたのですが、ドイツで生まれ、アメリカで育ったので韓国語があまり得意ではありませんでした。しかし、単に役者が演じやすいようにセリフを英語にしたわけではありません。韓国では、留学や海外の生活から戻った人がなかなか就職先を見けられず、むしろ自身のアイデンティティーについて迷い彷徨してしまうという現実的な問題があり、彼にもそんなイメージがありましたので役に反映することにしました。テロ集団のリーダーを演じたマ・ドンソクさんも英語が堪能だったので、二人には英語で会話をしてもらうことにしました。
「痛み」を悟ることが人生

― 「痛み」の後には報いがあるのでしょうか。この作品の先に救済があるのかを教えてください。

キム監督:わたしは「痛み」を悟ることが人生だと思っています。人間関係に傷ついたり、金銭や私欲に溺れたり、その過程こそが人生であり、ご多分に漏れずわたしもその一人です。しかし、それを克服する方法は自ら生み出さなければならない。自分の内面を見つめ、どんな弱さを抱えているのか振り返る時間をもつべきです。本作ではテロリストが政治家を襲うことで怒りを爆発させ、「痛み」を解決している話に見えるかもしれません。国家はさまざまな政策を打ち立てる中で、国民を欺くようなこともあります。しかし、それを批判している自分はほんとうにきれいなのか? 卑怯さはないのか? 実際に振り返り、考える必要があると思うのです。日本にも、原発や自衛隊などたくさんの問題があると思います。日々良くないものを目にしながらも責任回避をして、自分の幸せだけに関心をもっている人たちも多いのではないでしょうか。そうした人の姿を映画の中に投影することで、考える機会をもってほしいと思いました。

―「痛み」とは、ただ生きているだけで感じるものなのか、または、思考して「痛み」と定義したからこそ認識するものなのか。監督の「痛み」に対する定義を教えてください。

キム監督:生きていること自体が「痛み」なのだと思います。それは、否定的な部分だけではなく、さまざまな意味を含みます。例えば、今日は疲れている、悲しい、泣きたいというような感情もすべて「痛み」の範疇に入ると思います。生きているということは、血が体内を巡って機能することであり、そのために「痛み」も感じますが、肉体的、精神的な苦痛すべてを含めて「痛み」を感じることは生きている証です。つまり、人の命というのは「痛み」と寄り添っているものだと思います。しかし、なぜ痛いのか? という質問も生まれてくるでしょう。ケガや病気など物理的な要因もありますが、わたしが長く考えた末に出した結論は、自分という存在は先祖代々と受け継がれてきたものであり、さまざまな遺伝子が集まった状態で今の自分が存在しているということです。現在を生きているわたしたちが、過去に存在した人々の経験や考え方、アイデンティティーをすべてDNAとして受け継いでいるのであれば、今感じる「痛み」は自分だけのものではないのかもしれません。だからこそ自分の「痛み」を理解できないこともあるのではないかと思います。
武装集団が着る衣装に込めたキム・ギドク監督の思いとは?

続く最後の質問では、本作のラストシーンの解釈について問われ丁寧に見解を述べてくれたキム・ギドク監督。詳細な内容は劇場公開前なので省略するが、クライマックスに触れない部分で興味深かったエピソードを一つ紹介しよう。それは、本作の中で武装集団が着るコスプレ衣装について。これらは1980年に起こった光州事件の際に関わったさまざまな組織の制服を模したものだという。暴力を振るった側、革命を目指した側の軍服、米軍服、組織暴力団、警察官、国家情報員の制服などであり、韓国国民にとっては一目で抑圧された歴史を思い起こさせるものなのだそうだ。そんな予備知識を踏まえて観れば、日本人のわたしたちもより作品に対する理解を深められるかもしれない。この作品が自らの胸にどんな衝撃をもたらすのかを、ぜひとも劇場で確かめてほしい。日本公開は、来秋の予定だ。


ミニシア名物、靴チェック!!!
履き込まれた風合いが、何ともいえずイイ味を出しています。靴底に付着しているのは藁……!?

 

 

 

▼『ONE ON ONE(原題)』作品紹介
2014年/韓国/122分
原題:ONE ON ONE
監督:キム・ギドク
配給:キングレコード、太秦
コピーライト:© 2014 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

●第15回東京フィルメックス公式サイト


取材・編集・文・イベント撮影:min

  • 2014年12月07日更新

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