『トム・アット・ザ・ファーム』-亡くなった恋人の家族との息詰まる関係を描くサイコ・サスペンス 

  • 2014年10月25日更新

『わたしはロランス』で日本でも注目を集めたカナダの新鋭グザヴィエ・ドラン監督。自殺した恋人との家族との危うい関係と、そこからにじみ出る狂気を描いた本作では、監督・主演をつとめ、2013年代70回ベネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した。






恋人の葬儀から始まった悪夢
モントリオールの広告代理店で働くトムは、自殺したゲイの恋人ギョームの葬儀に出席するために、ケベック州の片田舎にある恋人の実家に向かう。そこには、ギョームの母親アガットと兄フランシスがふたりで暮らしていた。じつは、ギョームは母親にゲイであることを隠しており、サラという女性の恋人がいると嘘をついていた。フランシスはトムに、母親に真実を告げないよう強要する。暴力的なフランシスに嫌気がさし、一度は逃げ出そうとするトムだが、結局は留まることになる。ある日、彼は農場にサラを呼び寄せる。



暴力を甘美に感じる主人公の心の屈折
監督・主演のグザヴィエ・ドランはこの作品について、「ホモセクシャルとホモフォビアの映画ではなく、恋人を救えなかった罪悪感から、暴力と不寛容の中でストックホルム症候群に陥っていく主人公の物語だ」と語っている。それを裏付けるのは、トムとフランシスが体を密着させタンゴを踊るシーンと、トムが激怒したフランシスに強く首を締められる場面。トムは亡くなった恋人を思い出しながら、陶酔に身を任せる。まるでいびつな関係の2人が愛を交わしているかのようだ。
閉鎖的な地域、いつ均衡が崩れるかわからない母子関係、常軌を逸したフランシスの行動など、普通なら不快感を覚える状況をトムは次第に受け入れていく。いったい狂気を秘めているのは誰なのだろう。

少年の面影を残しながら、色気を漂わせるドランの存在感は、この作品に大きな魅力を与えている。悲しみ、苦悩、嘲り、怒り、怯えをあらわにする繊細な表情を見ていると、彼はトムの分身なのではないかという錯覚に陥る。



緊張感に満ちた展開が続く
物語はサラの登場や隠されたフランシスの過去の露呈など、新たな展開を見せるが、その緊迫感は途切れることはない。ハラハラしながら、彼がこの異常な状況に身を置き続けるのか、そこから脱することができるのかを見届けたい。
なお、音楽は巨匠ガブリエル・ヤレド(『ベティ・ブルー』『カミーユ・クローデル』『イングリッシュ・ペイシェント』)が担当。殺風景な農場で繰り広げられる、不安と緊張に包まれたストーリーを盛り立てている。



トム・アット・ザ・ファーム作品・公開情報
2013年/カナダ=フランス/102分/フランス語
監督、脚本、編集、衣装:グザヴィエ・ドラン
原作・脚本:ミシェル・マルク・ブシャール
出演:グザヴィエ・ドラン、ピエール=イヴ・カルディナル、リズ・ロワ、エヴリーヌ・ブロシュ
配給・宣伝:アップリンク
特別協力:ケベック州政府在日事務所
後援:カナダ大使館
トム・アット・ザ・ファーム公式サイト

2014年10月25日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク、キネカ大森、テアトル梅田ほか、全国順次公開

© 2013 – 8290849 Canada INC. (une filiale de MIFILIFIMS Inc.) MK2 FILMS / ARTE France Cinéma ©Clara Palardy

文:吉永くま

 

 

 

  • 2014年10月25日更新

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