『リアリティのダンス』〜幼少期の悪夢である故郷へ。ホドロフスキーとめぐる、トラウマと家族再生の旅〜

  • 2014年07月13日更新

世界中のクリエーターを熱狂させてきたアレハンドロ・ホドロフスキー。その最新作は、自身の幼少期と家族を描いた、パーソナルな癒しの物語。過激さが印象に残る過去の作品とは、ある意味一線を画しているが、濃厚さ・パワフルさは衰え知らず。85歳という年齢も23年ものブランクもものともせず、さらに慈愛のまなざしが加わり円熟味あふれた作品になっている。色彩いっぱいの映像美、シュールな事象、ユニークな登場人物が力強く躍動する。以前からのホドロフスキーファンも、ホドロフスキー作品を初めて観るかたでも存分に楽しめる、ファンタジックでリアルな人間讃歌である。2014年7月12日(土)より 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、 渋谷アップリンクほか、全国順次公開 © “LE SOLEIL FILMS” CHILE・“CAMERA ONE” FRANCE 2013

権威的な父、現実離れした母、級友たちからの差別といじめ。トラウマを旅するホドロフスキー。
1920年代、チリの港町トコピージャ。アレハンドロ・ホドロフスキー少年(イェレミアス・ハースコヴィッツ)はウクライナからの移民である権威的な父ハイメ(ブロンティス・ホドロフスキー)、元オペラ歌手の母サラ(パメラ・フローレス)と暮らしている。常軌を逸するほど厳しく暴力的な父や、アレハンドロを父の生まれ変わりだと信じる奇妙な思い込みをもった母は、年少のアレハンドロを悩ませる。さらにロシア系ユダヤ人であるアレハンドロを馬鹿にし、いじめる級友たちもいて、つらい毎日を過ごしている。しかし、瞑想を教えてくれる行者やダイナマイトで体の一部を失った元労働者など、アレハンドロが心を開く存在もあった。軍事政権下、残酷な現実と美しい幻想の日々を過ごすアレハンドロ。そしてある日、熱心な共産党員である父ハイメが大統領暗殺を企て、家族から離れ波乱に満ちた旅へと出発する…。

強烈なキャラクターたち。父親を演じるのは、ホドロフスキー監督の長男。
サディスティックなほどに権威的である父・ハイメ役にキャスティングされたのは、ブロンティス・ホドロフスキー。ホドロフスキー監督の長男だ(ちなみに1970年公開『エル・トポ』では、息子役を演じていた)。作品後半は、転じて父ハイメの受難の物語になっていくのだが、よくぞ実の子をこんな目に遭わせるなあ…というハードなシーンも多い。ほかにも行者、アナキストの男を演じる俳優がそれぞれ、ホドロフスキーの息子である。パーソナルな作品だから単純に身内をキャスティングしたのかというと、全くそんなことはない。彼らはみな見事なまでに強烈なキャラクターで観客を楽しませてくれる(さらにアダン・ホドロフスキーは音楽も担当)。そんな怪物だらけのホドロフスキー一家の中にあっても全く遜色ない存在感を放つのは、母親役のパメラ・フローレンス。チリ出身の女優だが、オペラ歌手でもある。本作ではこのオペラ歌手たる価値を存分に活かしながら、いかなるシーンも大胆に演じ異彩を放つ。奇妙で愚かだが、いざというときに深い愛情で夫や息子を包容する、まるで「母親」という概念そのもののようだ。





パーソナルだが、万人に開かれた物語。すべての人のトラウマと幼少の記憶を掘り起こす作品。
全編に、グロテスクな幻想やシュールな事象、アーティスティックな世界観が贅沢に盛り込まれ、ホドロフスキーならではの映像美が楽しめる。85歳という年齢を全く感じさせないみずみずしさだ。そしてなぜか、いかなる国でどのように育った人でも、いつのまにか自分の幼少時代をさまよっている気分にさせてしまうだろう。見も知らぬチリの港町の光景に不思議な懐かしさを感じるのだ。それは、すべての大人が経験している、幼少期のあの頭の中の世界そのものだからだろうか。高揚感、恐怖、好奇心、エロス、グロテスク…とんでもないものから陳腐なものまでごった煮になっている、すべての人が通り過ぎたあの幼少期のぼんやりとした記憶がよみがえってくる。もしかしたら、とんでもないトラウマを掘り起こすことになるかもしれない。だがホドロフスキーは「探し物は自分の中にある。苦しみに感謝しよう」と力強く励ましてくれる。これは再生の道へと続く物語なのだ。トラウマの果てに、深い癒しがやってくる。もし本作観賞後に「まだ足りない…」と感じたかたは、この物語の後もたっぷり描かれている原作本『リアリティのダンス』も出版されているので、映画鑑賞に続いてお読みいただくのも良いかもしれない。




▼『リアリティのダンス』作品・公開情報
(2013 年/チリ・フランス/130 分/スペイン語/カラー/1:1.85/DCP)
原題:原題(英題)La Danza de la Realidad(The Dance Of Reality)
監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:ブロンティス・ホドロフスキー(『エル・トポ』)、パメラ・フローレス、クリストバル・ホドロフスキー、アダン・ホドロフスキーほか
音楽:アダン・ホドロフスキー
原作:アレハンドロ・ホドロフスキー『リアリティのダンス』(文遊社)
配給:アップリンク/パルコ

●『リアリティのダンス』公式サイト

2014年7月12日(土)より 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、 渋谷アップリンクほか、全国順次公開 © “LE SOLEIL FILMS” CHILE・“CAMERA ONE” FRANCE 2013

文:市川はるひ

  • 2014年07月13日更新

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