『サッドティー』ー 今泉力哉監督&青柳文子さん 独特の温度と空気感が似ている二人にインタビュー

  • 2014年05月31日更新

ダメ恋愛を通して浮かび上がる人間模様を、リアルかつ独特のぬるさで描き続ける今泉力哉監督。映画専門学校・ENBUゼミナールの劇場公開映画製作ワークショップ「CINEMA PROJECT」の第2弾として製作された最新作『サッドティー』では、総勢12名の男女が織りなすさまざまな恋愛から「ちゃんと好き」とはどういうことかを考察する――。前作の『こっぴどい猫』以来、ミニシアでは約2年ぶりとなる今泉監督のインタビューは、主演の一人でモデルとしても活躍する青柳文子さんにも登場いただいて話を伺いました。
※一部、ネタバレを含む内容があります。作品を未見の方はご注意ください。
「家に誰かが遊びにきて、だらだら話したりする時に、今泉映画って必ずお茶を出すよねって言われて」(今泉監督)
― 印象的なタイトルですが、どういう意味が込められているのですか?
今泉力哉監督(以下、今泉):皆さんいろいろと深読みをしてくださるんですが、意味はあまり無いんです。以前、コンビニで「○○茶」っていう商品がいっぱい並んでいるのを見ていて、ふと、「寂茶(さびちゃ)」っていうフレーズが浮かんで。いつか作品に使いたいと思っていたんですよね。でも、「寂茶」って地味すぎてお客が入らないだろうって意見もあって、英訳して『サッドティー(sad tea)』に。作品が完成するまでに12回くらいタイトルを変えて、最終的に戻った感じです。

― 響きがかっこいいでよすね。悪い意味ではなく、今泉作品としては珍しいタイトルかなと。
今泉:そこが、最後までこのタイトルを決めかねた理由ですね。かっこつけてる風になるのがイヤで。でも、家に誰かが遊びにきて、だらだら話したりする時に、今泉映画って必ずお茶を出すよねって言った人がいて。その空気感が作品に合っているなと思って。
「ワークショップに応募して、この作品に参加したんです」(青柳さん)
― 青柳さんは、これまでも今泉監督の作品にご出演されていますが、ENBUゼミナールのワークショップには参加されたのですか?
青柳文子(以下、青柳):はい。しばらくモデルの仕事をがんばっていて演技からは遠ざかっていたのですが、また今泉さんの映画に参加したいという気持ちがあって。今泉さんに相談したら「じゃあワークショップとか受けたら」って言われて応募したんです。

― ほかのキャストも、全員ワークショップで選ばれたのですか?
今泉:ワークショップに応募してくる方は演技経験も含めて未知数なので、現場を引っ張っていただくためにも、ゲスト枠で好きな俳優さんを一人選ばせていただくことになりました。それで、内田慈さんにお願いをしたんです。ワークショップでは10名選ぶことが決まっていたんですが、脚本を書いていくうちに2名ほどキャストが足りなくなって。俳優を呼ぶのも違うと思って、知り合いの映画監督に出てもらうことにしたんです。それが、夏の彼氏役である橋本を演じた吉田光希さんと、緑の同級生役である町田を演じた二ノ宮隆太郎さんです。

― 町田といえば、柏木と緑が話す横でフェードアウトしてさらにフェードインするシーンがすごく笑えたんですけど、あの消え方は絶妙ですよね(笑)。
今泉:消え方にはこだわって、めっちゃ微調整しました。観客の意識が町田の方に向いてしまうかなという懸念もあったし、ボケて笑いを取るようなことも嫌いなので、自分の中ではかなりキワキワなシーンでしたけど、柏木と緑が別れ話をしながらも「今、ここに居てくれることは真実じゃん」みたいな会話をしている横で、町田自体はすっかり存在を忘れられているわけで。結局、誰にも思われていなければ存在ってしているんだろうかっていう思いで書いたシーンですね。
「とんだゲボ野郎です(笑)」(青柳さん)
「そのシーンがなくなって柏木はちょっとだけまっとうなキャラクターになりました」(今泉監督)
― 皆さん、すごく自然に演技をされていますが、監督からはどういう演出があったのでしょうか?

青柳:(今泉監督をじっと見つめながら)……なんて言ってましたっけ? でも、以前の作品で「セリフっぽくなく話して」とかは言われていたので、今回もその感じでやればいいのかなと思っていました。
今泉:映画でしか言わないセリフみたいなのは、脚本に書かないように意識しています。自然にしようとしてかえって不自然になるのはすごくかっこ悪いと思ってますけど、今回のワークショップに参加した方のほとんどは自分の作品を観てくれていたので、映画の雰囲気を知ってくれていたし、あとは、ワークショップをしていく中で「これだけはしないでほしい」っていうことも共有できていたんだと思います。ただ、それぞれのクセみたいなものは生かす方向で考えていたし、語尾とかは変えてもらって構わないとは言いましたね。あとは、途中で脚本に煮詰まったのもあって、それぞれの特技があればどこかで生かそうと思って聞きました。朝日の競歩とかは、実際に阿部隼也さんが競歩をやっていたことで生まれたアイデアです。

― 実際は使われなかったけど、棚子が柏木に「ゲボ野郎!」っていうセリフがあったそうですね。どのシーンで言う予定だったのでしょうか。
青柳:脚本では、海のシーンで柏木が棚子に好意を示すようなやりとりがあったんですよ。結局はなくなったけど、すごく言いたくて練習していました。

― えー、ちょっと柏木(怒)!!
青柳:とんだゲボ野郎です(笑)。

― 柏木が棚子にまで好意をみせたらイヤだなっていう気持ちは、なぜか映画を観ている間ずっとありましたね。
今泉:その距離感ですよね。ゲボ野郎の意味はそこです。あー、ほんとにやっちゃダメなことをしたっていう(笑)。実際は、撮影時間の関係でカットにしただけですけど、そこがなくなって柏木はちょっとだけまっとうなキャラクターになりましたね。棚子にとっては、柏木が自分に好意を持っていないっていう距離感が心地良かったんです。でも、人を好きになったことがあるかって棚子に聞かれた時に、柏木なら普通に「いやー、ないかもね」って答えてもいいところを、「あるよ」ってちょっと張り合うんですよ。それは、棚子をやっぱり女性として意識しているってことをみせたかったんです。二人とも自分から人を好きになっていない部分では共通しているけど、棚子が柏木と違うのは、そういう好意をきちんとイヤがったり、線引きがしっかりあるんですよ。

青柳:棚子は柏木が人を好きになったことがないことを見抜いていて、海のシーンでは「あなたとわたしは同じ人種だけど、わたしはここから脱却しますよ」っていう思いで柏木の乗った車から走り去ったんです。棚子はみんなの恋愛のいざこざを俯瞰しながら、「くだらねーな」とも思っていたけど、その反面で、人を好きになる熱意みたいなものもうらやましくて、そちら側に行きたいと思ったんだと。今泉さんが意図されていたかは分からないけど、自分はそういう気持ちで演じていました。

今泉: そうだったの? そうやって意図していなかったことまで考えてくれてたんだっていうのは、いま知りました(笑)。いや、おかげでいいシーンになったと思います。
「青柳さんはけっして上手い女優ではないですけど、そこが魅力」(今泉監督)
「今泉さんの作品には独特のおしゃれ感があるというか……ダサくないなって思うんです」(青柳さん)
― 今泉監督からみた女優としての青柳さんの魅力はどういったところでしょうか。
今泉:けっして上手い女優ではないですけど、そこが魅力にもなっていますよね。でも、モデルとしてのキャリアもあるので現場っていうのはちゃんと分かっていて、そこには信頼を置いています。めちゃくちゃ美人とかではないけど、やっぱりスクリーンで映えるんですよね。さすがだなと思うし。あとは声に魅力を感じますね。男でも女でも声はすごく大事だと思っていているんです。

― では、青柳さんからみた、今泉作品の魅力とは?
青柳:ネガティブさですかね(笑)。自分もネガティブ側の人間なので共感できるし。出来過ぎた映画が苦手で、生々しくて現実的な作品が好きなんですよね。あと、今泉さんの作品には独特のおしゃれ感があるというか……ダサくないなって思うんです。例えば、学生時代にイケてるグループでもないし学校行事に張り切って参加するタイプじゃないけど、なんかセンスいい人たちっているじゃないですか。あそこの立ち位置だと思うんですよ。

今泉:映像的なセンスとかは、撮影の岩永洋さんだったりスタッフの力が相当あると思いますし、予算がないことで引き算した結果の方法論だったりもしますけど。オレが中心! みたいなのよりは、隅っこで何かやってておかしいのが、自分が思うかっこいいとかおしゃれみたいなところはありますね。

― 最後に作品をご覧になる方にメッセージをお願いします。
青柳:この作品を観てくださった方に感想を聞くと、わたしは誰タイプとか誰々の気持ちがすごく分かったとか、それぞれの登場人物に自分を重ねて観てくださるようなんですが、今まで棚子に共感したっていう意見をほとんど聞いたことがなくて。皆さん、棚子のことも気にしてあげてください(笑)。

今泉:普段は有名な俳優が出る映画しか観ないという方にも、少しでも気になったらぜひ観ていただきたいですね。あと、劇場で観ることを意識して作ったので、映画館で見ず知らずの人たちと肩を並べて観ていただきたいです。こう観てほしいとかはないですし、それぞれに楽しんでいただければうれしいです。
《ミニシア名物 靴チェック!》
今泉力哉監督:気に入った靴を徹底的に履き潰すそう。こなれた感がいい雰囲気!

青柳文子さん:撮影当日はあいにくの雨。キュートなレインブーツがお似合いです♪

 

▼『サッドティー』作品・公開情報
2013年/日本/120分
監督・脚本・編集:今泉力哉
キャスト:岡部成司、青柳文子、阿部隼也、永井ちひろ、國武 綾、二ノ宮隆太郎、富士たくや、佐藤由美、武田知久、星野かよ、吉田光希 / 内田 慈
撮影監督:岩永洋
録音・整音:根本飛鳥
音楽:トリプルファイヤー
助監督:平波亘
ヘアメイク:寺沢ルミ
スチール:天津優貴
制作:松尾圭太、後藤貴志
プロデューサー:市橋浩治
キャスティング協力:吉住モータース
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
製作:ENBUゼミナール
コピーライト:(c)2013 ENBUゼミナール
『サッドティー』公式サイト

※5月31日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開

取材・編集・文:min スチール:hal

  • 2014年05月31日更新

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