大林宣彦監督『野のなななのか』〜パスカルズ(音楽担当&出演)メンバー・石川浩司さんインタビュー〜

  • 2014年05月17日更新

北海道で先行公開されている大林宣彦監督『野のなななのか』が、いよいよ東京でも5月17日(土)より公開となる。この作品の音楽担当は、来年結成20周年を迎えるパスカルズ。おもちゃ楽器などを駆使して独自のサウンド築く、14人編成の人気の音楽グループだ。本作では、主題曲や挿入曲を担当するだけでなく、14人のメンバー全員が「野の音楽隊」という役柄で出演し、作品の世界観をがっしりと支えている。大林宣彦監督とパスカルズの縁をつなぐことになったパスカルズのメンバー、石川浩司さんにお話を伺うことができた。



前作『この空の花—長岡花火物語』の撮影中に、大林監督のひらめきがあって、パスカルズの出演が決まった
ミュージシャンであるパスカルズが「野の音楽隊」という役柄で出演することになった経緯を教えてください。
石川浩司さん(以下「石川」):本業はミュージシャンだけど、もともと僕は役者の仕事も引き受けてきた。それで大林宣彦監督の『この空の花—長岡花火物語』(2012年公開、以下『この空の花』)では、ランニング姿にかけて、山下清画伯の役(注:ランニングは「たま」時代の石川さんのトレードマーク)にキャスティングされた。その撮影中、監督が「花火を上げるシーンで、観客たちがいきなり楽器を演奏し始めたら素敵なんじゃないか」と思いついて「石川くん、音楽グループやってるんだよね」という話になって……。それで、急きょパスカルズの中で都合がつくメンバーが長岡のロケ地に駈けつけて、楽器を演奏しながら出演した。そのシーンをきっかけに監督はパスカルズをすごく気に入ってくれて。以来、大林監督はパスカルズのライブに毎回のように足を運んでくださってる。それで『野のなななのか』では、音楽を担当するだけでなく、最初から14人のメンバー全員をキャスティングしてくださった。


「すごい美人だから常盤さんだな」とか、そんな感じだった
芦別でのロケはどうでしたか?
石川:僕らパスカルズも、撮影で芦別に1週間ぐらい滞在した。自然が豊富で、レトロな建物とか残っていて、すごくいい雰囲気だった。車がないとホテルに戻れないような不便さはあるけど……不便というのはやたら便利というよりいいことだって、僕は思っているんで(笑)。他の役者さんと絡むシーンはほとんどなかったんだけど、お昼はみんなで一緒にご飯を食べたり、夜は飲みに行ったりして楽しかった。ただ僕はほとんどテレビを見ないし、人の顔を覚えるのが苦手だから、はじめは女優さんや俳優さんの名前と顔が一致しなくて。「あの人すごい美人だから常盤さんだな」とか、そんな感じだった。

演奏しながら行進するシーンが多かったですね。
石川:もちろん音は別撮り。僕はパーカッションで、複数の楽器やコーラスをレコーディングでいくつも重ねていく。だから撮影時に音を流してもらっても、自分が今、どの楽器をやればいいのかわからなくて。だいたい録音もライブも、僕は即興でやってるから、次にどの楽器や鍋や太鼓を叩いてるかなんて、まったく覚えてない(笑)。だから僕の当て振りは、全然正確じゃないのがバレバレ。ライブ同様、映画ではかなり踊ってる姿が映っているはず。

エンドロールで流れる主題歌「野のなななのか」は、この作品にピッタリです。脚本を読んでから作られたのでしょうか?
石川:実はこの曲は書き下ろしではなくて、ライブでやるパスカルズの新曲として、あかねさんが作曲して僕が歌詞を書いた曲が元だった。ちょうどこの曲を作っていたタイミングで『野のなななのか』のお話をいただいたので「この曲、合うかもね」という話になって、主題歌コーディネーターの大林千茱萸さんもいいだろうって言ってくれて。だから偶然ではあるんだけど……生き死にに関係する内容は、普段から僕の作る歌にはよく出てくるテーマだから、映画の内容にもぴったりだったんだろうね。最終的にこの曲はロケット・マツさんの作ったインスト部分も加えて編曲されて、歌詞は1番だけになった。本当は2番、3番の歌詞も作ってあったんだけど、それは永遠に葬り去られてしまった(笑)。


大林監督が作品を通して、戦争への警鐘を鳴らしているんだと思う
本作は平和を願う作品ですね。石川さんも戦争には反対ですよね。
石川:はい、もちろん。日本は戦争が終わってもう70年近くと、かなり長い時間が経っている。表立って「戦争賛成」と言う人はいないけど、武器産業は儲かるから、経済効果だって言って武器を作って売りたいと思っている人は、密かに存在している。これだけ長い期間戦争がない国だと、そういう人たちがそろそろ、水面下でモソモソと動き出してくる……今、日本はそんな時期を迎えてるんじゃないか。大林監督の前作『この空の花』にも「まだ間に合いますか?」というセリフがあった。『野のなななのか』も『この空の花』も、武器を売りたがっている人たちが動き出して戦争を始めないようにと、大林監督が作品を通して警鐘を鳴らしているんだと思う。大林監督は『野のなななのか』でも『この空の花』でも、戦中・戦後にふるさとで何があったかを調べて、題材にしているんだよね。

本作では東日本大震災後の原発問題にもふれていますね。
石川:そうだね。あらゆるシーンで時計の針が14時46分をさしている演出があったり「原発」という言葉もハッキリ出てくる。東日本大震災は大林監督に大きな影響を与えてるだろうし、あの3.11がなかったら、大林監督は『野のなななのか』と『この空の花』の2作品をつくることはなかったかもしれないよね。ちなみに僕は団体行動が苦手なんでデモには参加していない。じゃあ何をするのかというと、そういう思いを比喩的にたくしこんだ歌を作って、ライブで歌って……そういう表現をやっている。僕はそれが自分のやるべきことだと思っている。僕の仲間にはそういうミュージシャンがけっこういるんだ。


『野のなななのか』は、何度か繰り返し観るべき作品かもしれない
これから『野のなななのか』を観るかたに、作品をどのように観てもらいたいですか?
石川:この作品は、一度だけ観てもわからないんじゃないか。僕は、わからなかった(笑)。というか最後まで観て、人間関係やいろんなことが明らかになると、もう一度はじめから観たくなる。細かいところが作り込まれてるし、過去と現在が交錯したりするしね。きっと何回か繰り返して観るべき映画なんじゃないかと思う。あと、何も考えずにただ風景や、雰囲気としてのストーリーを観てもいいかもしれない。上映時間が171分あるけれど、映像がものすごく美しくて、芦別の風景も素晴らしいから、ただただ、ぼーっと観ることもできる。芦別を訪れたような、旅をしたような気分になれるから、そういう観かたをしてもいいんじゃないかな。いずれにしても楽しんで観ていただければ、嬉しいね。



恒例の靴チェック
山ほどの打楽器やおもちゃ楽器を抱え、ライブ会場に向かうことが多い石川さん。
歩きやすく、履き心地の良いMEPHISTをご愛用。

パスカルズ公式サイト http://www.pascals.jp
石川浩司公式サイト http://ukyup.sr44.info
(取材協力:PSC/大林宣彦事務所)




★作品・『野のなななのか』について★
芦別映画学校が支え続けた青年の夢、そして大林監督によるアートのジャーナリズム
『野のなななのか』は、大林監督が校長をつとめる“星の降る里芦別映画学校”の20周年記念作品でもある。冒頭には「この学校を興し、早世した芦別人、鈴木評詞君の夢と—それを20年に渡り、支え続けた芦別の里の人たちの、古里愛と、絆に—この映画を捧げる」という献辞が流れる。また本作は『この空の花—長岡花火物語』とともに、古里の地が得た「(戦争や震災などによる)痛み」から学び、3.11以降の再生の糧にする“アートジャーナリズム”という大林監督の試みであり、大林監督が市民とともに世界へ発信する「未来への祈り」なのである。


生死の境界線が曖昧な「なななのか(四十九日)」には、生者も死者もさまよい人となる
【物語】冬の北海道芦別市。古物商であり元・病院長であった鈴木光男(品川徹)が他界した。散り散りに暮らしていた光男の血縁(左時枝、村田雄浩、山崎紘菜、松重豊、柴山智加、窪塚俊介)は芦別に集い、唯一、光男と生活していた孫のカンナ(寺島咲)と共に告別式・葬儀を行う。そんな中、謎の女性・清水信子(常盤貴子)が現れる。「まだ、間に合いましたか—?」信子により、次第に光男の過去があぶりだされる。1945年8月15日以降も戦争が続いた樺太。そこには光男と、ある少女・綾野( 安達祐実 )もいた。旧ソ連軍の侵攻を体験した光男や綾野の身に、何が起きたのか。そして信子は一体何者なのか……?



▼『野のなななのか』作品・公開情報

2014年 / カラー / アメリカンビスタ / 171分
監督・脚本:大林宣彦
原作・ナレーション:長谷川孝治(弘前劇場主宰)
出演:品川徹 常盤貴子  村田雄浩 松重豊 柴山智加
山崎紘菜  窪塚俊介 寺島咲 内田周作 細山田隆人
小笠原真理子 イ・ヨンスク 大久保運 小磯勝弥
斉藤とも子 原田夏希 猪股南 相澤一成 根岸季衣
パスカルズ 安達祐実  左時枝 伊藤孝雄 芦別市のひとびと
配給/PSC、TMエンタテインメント
●『野のなななのか』公式サイト 
5月17日(土)より有楽町スバル座にて公開、全国順次ロードショー
©2014 芦別映画製作委員会/PSC

文・撮影・編集:市川はるひ

  • 2014年05月17日更新

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