『アクト・オブ・キリング』 〜大量虐殺を実行者本人が嬉々として再現する、前代未聞のドキュメント〜

  • 2014年04月12日更新

60年代、インドネシアで密かに行われた大虐殺。その被害者は100万人を超えたという。実行者たちは、今でもインドネシアの“英雄”として優雅に暮らし、マスコミによる被害者遺族たちへの取材は御法度だ。そこで米国出身の映像作家ジョシュアは、カメラを向ける先を“英雄”の殺人部隊のリーダーに切り替え、こうもちかけた。「あなたが行った虐殺を、もう一度カメラの前で演じてみませんか?」鼻高々な“英雄”たちは、その申し出を快諾。かくして前代未聞の手法で、人間のモラルを揺さぶる衝撃のドキュメンタリーの撮影が始まった。虐殺者の心理とは? そして撮影が進むにつれ、彼らに起こる変化とは? 監督はこの恐るべき企画にユーモアまでも盛り込み、破格の問題作を誕生させた。
4月12日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開。(c) Final Cut for Real Aps, Piraya Film AS and Novaya Zemlya LTD, 2012


優雅で自慢げな“英雄”の殺人者たちが、自ら虐殺を再現
1965年、インドネシア。スカルノ大統領(当時)親衛隊の一部が、クーデターを起こした。クーデターの収拾にあたった軍部のスハルト少将(後のインドネシア第二代の大統領)らは「事件の背後にいたのは共産党だ」と断言、インドネシア各地で100万人とも200万人ともいわれる多くの人々を、根拠なく「共産党関係者である」と理由づけ、残酷な方法で虐殺した。この大量虐殺以来、虐殺の実行者たちはインドネシアで“英雄”として権力の座に就き、多くの富を手にしている。この状況に深い関心を抱いた映像作家ジョシュア・オッペンハイマーは、インドネシア・北スマトラ州の大都市メダンで、虐殺に加担した実行者たちを取材し、彼らに「殺人を再現して映画にすること」を提案した。彼らが過去の殺人を誇らしげに語る、その理由を知るために……。この作品は、その撮影の記録である。


殺人者の呑気さ、そして爆笑の女装や仮装。
とにかく始まりは、無邪気なものだ。殺人部隊のリーダーだったアンワル氏を中心とする“英雄”たちはこの映像企画が「偉業を褒め称えられる作品」だと思い込み、意気揚々とアイディアを持ち寄り、はしゃぎまくる。被害者役の出演者をスカウトしたり、過去に劇団に所属していたというムッチリした地元ギャングはシュールな女装をし、アンワル氏の悪夢を表現するために出演者を白塗りにして奇妙な着ぐるみをかぶらせる(監督によれば、これらはユーモアであり、笑ってよいシーンだそうだ)。彼らは一丸となってノリにノってナンセンスな演技を披露する。さらに、自分たちのリッチな日常をありのままに見せ、常に心の状態を惜しみなく語る。元殺人部隊の彼らは、実にオープンだ。そしてオープンであるがゆえに、彼らに起こる変化も、はっきりとスクリーンに映し出されて行く。一方、虐殺される側を演じる男性の中には、アンワル氏の隣人・スルヨノ氏もいる。彼は実は被害者遺族ともいえる立場なのだが、熱心にこの作品に協力している。彼の複雑な心理状態からも目を離せない。


好々爺と化した、元殺人部隊リーダーに襲いかかる恐怖。
この作品の中心になっているのは、虐殺を実行した殺人部隊のリーダーであるアンワル・コンゴ氏だ。パッと見には孫を可愛がる好々爺という印象の老人だが、その口から武勇伝として語られる内容はむごたらしく、聞くに堪えぬほどに残酷だ。もちろん心ある観客は、はじめからはらわたが煮えくり返る思いで彼の愚行を見つめるだろう。だがアンワル氏は、この作品で最も大きな変化に襲われる人物だ。虐殺を再現し、被害者側までも演じていく中で、彼から少しずつ笑顔が失われていく。そして、ついに「私は罪人か?」と監督に問いかけるほど追いつめられていく。虐殺から何十年も“英雄”としてして過ごし、殺人者であることに疑問を持つ機会すら与えられなかったアンワル氏自らが「気づき」に到達していくプロセスは、恐らく本人には想像を絶するような恐怖だろう。彼に訪れる変化は大きい。しかしどうも作品のはじめから「つらくなったときはダンスを踊ったよ」「幽霊が現れる。よく悪夢にうなされた」となどと語るアンワル氏の寂しげな表情が、少しずつ映り込んでいる。ジョシュア監督は、あらかじめアンワル氏に訪れる変化を予測していたのだろうか。


多くの国がこの事件とつながっている。
かなりショッキングな本作だが、ぜひ多くのかたに足を運んでいただきたい。これは「観るべき」映画なのだと思う。この作品にぎょっとするほどの割合でユーモアが織り込まれているのは、観客が壮絶な内容にうちのめされて、途中で席を立ってしまわぬようにと、監督が立てた策なのかもしれない。最後までこの作品を観ることができれば、胸を打たれるような衝撃のラストが待っている。「悪の正体とは何なのか?」おそらくこの作品に、そのすべての答えがあるわけではなく「悪とは何か」と、生きている限り考え続ける必要があるのだと気づくのではないだろうか。ちなみに、この事件について、日本にもかかわりがない訳ではない(初代大統領スカルノ氏の第3夫人が日本生まれのデヴィ夫人だというだけではなく)。インドネシアだけでなく、多くの国がこの事件と直接つながっているはずだ。


▼『アクト・オブ・キリング』作品・公開情報
2013年 / デンマーク・ノルウェー・イギリス合作 / インドネシア語 / カラー / 5.1ch / ビスタ / DCP/ 121分
原題:THE ACT OF KILLING
製作・監督:ジョシュア・オッペンハイマー
製作総指揮:エロール・モリス『フォッグ・オブ・ウォー』 / ヴェルナー・ヘルツォーク『フィツカラルド』 / アンドレ・シンガー
共同監督:クリスティン・シン / 匿名希望
スペシャル・サンクス:ドゥシャン・マカヴェイエフ
配給:トランスフォーマー / 宣伝協力:ムヴィオラ
●『アクト・オブ・キリング』公式サイト http://www.aok-movie.com
4月12日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開。
(c) Final Cut for Real Aps, Piraya Film AS and Novaya Zemlya LTD, 2012
文:市川はるひ

  • 2014年04月12日更新

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