『ランナウェイ・ブルース』 〜きっとどこかに実在する傷だらけの兄弟。若手俳優の秀逸な演技と、主人公の内面を表す劇中アニメの世界観〜

  • 2014年03月16日更新

固い絆で結ばれた不遇な兄弟の物語。若手実力派のエミール・ハーシュとスティーブン・ドーフが主人公の兄弟を演じる。さらにダコタ・ファニングが陰のある恋人役で出演。 三人の繊細な演技がリアルで切ない。兄弟の「空想の産物」として劇中に流れる、キュートでシニカル なアニメーションも印象的だ。モーテルの寂しげな風景が彼らの哀しい宿命、そしてかすかな希望を際立たせる。ローマ国際映画祭では4冠を受賞、一粒の宝石をのぞき見たような秀作だ。3月15日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー©2012 Motel Life LLC



不遇な運命を受け入れながら健気に生きる若者たちに、さらなる悲劇が襲いかかる
幼くして両親を失った兄弟のジェリー・リー(スティーブン・ドーフ)とフランク(エミール・ハーシュ)。不運は続き、兄のジェリー・リーは事故で片足を失ってしまう。弟のフランクは、何をやってもうまくいかない兄を見捨てられない。兄もまた、弟の重荷になるまいと思いながら、結局弟を頼るしかない。14才から中古車店で働きはじめた弟フランクは、オーナーのアール・ハーリーから息子のように目をかけられ「つらいときは頭の中に隠れ家をつくれ」と教えられる。それからフランクは、自分たちが活躍する冒険譚を自ら紡ぎだし、兄のジェリー・リーに語るようになる。一方、ジェリー・リーは弟の作る話をもとに、魅力的なイラストを描き起こす。そうやってふたりは、日々のつらさを笑い飛ばし、何の展望もないモーテル暮らしでどん底の生活を生きていた。しかしある雪の日、ジェリー・リーは交通事故を起こして子どもを死なせてしまい、自らも自殺未遂で銃弾による怪我を負う。やがて入院したジェリー・リーのもとに警察が現れ、ふたりは逃亡。エルコという街に向かって車を走らせた。そこにはフランクのかつての恋人アニー(ダコタ・ファニング)が住んでいる。ふたりの別離の原因となった、哀しくも忌まわしい出来事を思い出しながら、フランクとアニーは再会。ジェリー・リーは治療を止めた傷が痛む中、フランクの幸せを願い「お前はオレとは違う。愛を取り戻せ」とその背中を押す。果たしてフランクはアニーに再び愛を告げられるのか。そして三人は、それぞれ幸せになれるのだろうかー。



若き実力派俳優たちの集結とマイク・スミスのアニメの世界
優れた俳優たちが、シンプルなストーリーに命を吹き込んだ。とにかく主演三人の空気感が、限りなくリアルだ。兄弟役のふたりは、若くして枯れてしまったような、寂しさと疲労の匂いを常に醸し出している。兄弟で支え合いつつも、それぞれが孤独なまま生きてきたふたりの過去までも、観客が肌で感じることができるのは、彼らの絶妙な調和力のたまものだろう。彼らは、きっとどこかに実在する、そう感じずにはいられない。途中から登場するダコタ・ファニングも、子役時代のようにパッと華やかに咲き誇るのではなく、苦しさに耐え、それでも輝きを失わない健気な女性をリアルに演じる。稀有な存在であろう実力派若手俳優が三人もそろっている貴重な作品だ。また兄弟の空想がアニメーションになるシーンが登場するが、その世界観が素晴らしい。少年が冒険者になりきる遊びも、成人男性のエロスへの興味も入り交じり、この兄弟の内面的世界の豊かさを印象づける。この劇中アニメーションはマイク・スミスが担当。CMやミュージックビデオなど数多くの作品を手がけており、オリバー・ストーン監督の『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のアニメも担当した人気のアニメーターだ。



スクリーンから目が離せない。リアルで繊細な表現
原題の「THE MOTEL LIFE」は、モーテル暮らしを意味する。困窮のあまり定住できない、トレイラーで暮らすよりさらに不安定な生活のことだ。雨風はしのげても、負の連鎖からは逃れられないフラナガン兄弟。本作には派手なストーリー展開も、度肝を抜かれるキャラクターも登場しないが、スクリーンからは一瞬も目が離せない。雰囲気だけで演じる俳優とは逆に、この作品に登場する俳優は、常にその表情や全身から繊細で濃厚な表現が流れてくる。ゆえにこの兄弟を身近に感じることができるだろう。あるいは登場人物の呼吸に合わせるように、皮膚感覚で感情移入きる人もいるかもしれない。ボブ・ディラン&ジョニー・キャッシュの『北国の少女』など、劇中に流れる数々の楽曲も心にしみいる。つらくて展望のない毎日でも、輝きを求める登場人物たち。そして彼らの求めるあたたかな夢と希望。自分にリンクする一瞬を見つければ、宝物にしたくなる。そんな作品だ。



▼『ランナウェイ・ブルース』作品・公開情報
2012/ アメリカ映画 / 英語 / 85分
原題:THE MOTEL LIFE
監督:アラン・ポルスキー&ガブリエル・ポルスキー
脚本:ノア・ハープスター / ミカ・フィッツァーマン‐ブルー
原作:ウィリー・ヴラウティン
製作:アラン・ポルスキー/ガブリエル・ポルスキー/アン・ルアーク
出演: エミール・ハーシュ/スティーブン・ドーフ/ダコタ・ファニング/クリス・クリストファーソン ほか
配給:熱帯美術館
■第7回ローマ国際映画祭 4冠受賞
『ランナウェイ・ブルース』公式サイト
3月15日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
©2012 Motel Life LLC

文:市川はるひ

  • 2014年03月16日更新

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