『ダラス・バイヤーズクラブ』 〜エイズ感染をきっかけに、人生を輝かせた伝説のカウボーイ〜

  • 2014年02月22日更新

「くたばるか!」男はたったひとりで戦いを挑んだ—。多くの感染者が存在するにもかかわらずHIV対策をうちたてなかった80年代の米国で、エイズ感染者の希望の星となったダラスのカウボーイがいた。心身ともに役作りに打ち込んだ俳優2人は、本作でゴールデングローブ賞を受賞! 世間と戦い、運命を切り開いた実在の人物、ロン・ウッドルーフを慈しむように描いた感動の人間ドラマだ。
2月22日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、他にて全国で公開。
© 2013 Dallas Buyers Club, LLC. All Right Reserved.



政府と製薬会社に戦いを挑んだカウボーイの実話
80年代、米国テキサス州ダラス。電気技師でロデオカウボーイのロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)はマッチョ気取りで、行きずりの性交渉を楽しみ、酔いつぶれ、その日暮らしの自堕落な生活をしていた。ある日仕事中に倒れたロンは、運ばれた先の病院で「HIV陽性、余命30日」と宣告を受ける。当時の誤情報どおり「エイズは男性同性愛者間だけのもの」と思い込み、ゲイを差別していたロンは、その宣告を受け入れない。だが体調の悪化を感じ、図書館でエイズについて調べ始めたロンは、自分がHIV感染者だと自覚し、改めて衝撃を受ける。臨床試験中の薬があることを知り病院にすがりつくが、女医のイブ(ジェニファー・ガーナー)は同情しつつも「薬は未認可で、処方に時間がかかる」と説明。なんとか薬を得ようと奮闘するも、かつての仲間からは“エイズ感染者”だと差別を受け、体は弱り、自分の死と向き合えずにどん底で苦しむロン。絶望の果てに迎えた30日目、ロンはメキシコの無免許医を訪ねる。製薬会社とのしがらみがないこの医師の投薬により、ロンの体は見事に回復。エイズ投薬への知識を深くしたロンは、自ら未認可薬の密輸を始める。やがて、欲にまみれた製薬会社に怒りをおぼえたロンは、HIV感染者で気のいいトランスジェンダーのレイヨン(ジャレッド・レト)をパートナーに、地下売薬組織「ダラス・バイヤーズクラブ」を立ち上げ、多くのエイズ感染者に生へのチャンスを与え始める……。



肉体改造だけではない、マコノヒーら渾身の役作り
ゴールデングローブ主演男優賞を受賞し、脅威の肉体改造に注目が集まるマシュー・マコノヒーだが「ロン・ウッドルーフ」という実在の人物を、内側から身にまとったような見事な役作りをみせている。特技のテキサスなまりも生かし ているという冒頭の「粗野でデタラメなカウボーイ野郎」も然り(とにかく、いや〜な感じの男である!)。マコノヒー演じるロンは、HIV陽性告知を受け必死にもがきながら、やがて理不尽な社会への怒りと、正義に目覚めていく。そうやってロンの精神がめまぐるしく変化していくその様こそが、本作の見どころだ。さんざドラッグとアルコールにまみれていたのに、知識を得て突然健康オタクに変貌を遂げて(実際、免疫不全になったら必要なことではあるが……)観客をニヤリとさせたり、密輸を次々成功させるシーンはコスプレと口の巧さを駆使し、絶妙なコメディとして演じられる。だがレイヨンとの交流をきっかけにゲイ差別を解消し、紳士的になったロンの行動にはしばしば泣かされ、人間としての深さを感じさせられる。ジェットコースターのようなロンの人生だが、その谷も山もマコノヒーはしっかりと体現している。一方ジャレッド・レト演じるレイヨンは、魅力的なトランスジェンダーとして登場するが、後半に向かい、弱さと凛とした態度を行ったり来たりするようになる。その哀愁を帯びた表情と姿には、ぎゅうと胸をしめつけられてしまう。しかし、演出はウエットではなく、カットアウトなども使われる乾いた印象。淡々としたカメラワークだからこそ、人物たちをリアルに感じられるのかもしれない。



暴れ牛のような運命を乗りこなした、輝かしい人生
ロン・ウッドルーフのエネルギッシュな行動は、あらくれ者ならではの反骨精神から来ている。「おとなしく死んでいけ!」なんて声が聞こえそうな四面楚歌の状況で、人並みにどん底まで落ち込むも「死んでたまるか!」と、じわじわ這い上がり、道を切り開いていくロン。それはもちろん誰にでもできることではなく、彼のような変わり者独自の、タフな行動力かもしれない。HIV感染は悲劇である。しかしその逆境を乗り越えながら破格のエネルギーを発揮した彼は、HIV告知以降、学び、戦い、傷つきながら希望を選び取り、新たな仲間や友人を得ることになる。

カウボーイさながら、暴れ牛のような「運命」というロデオに果敢に挑戦し、振り落とされることなく耐え、乗りこなした。当時の米国が適切な対策を講じなかったエイズ。完治はできないものの「必ず死ぬ病気」でなくなったのは、ひとえにロン・ウッドルーフの功績だ。どれだけ多くの人生が彼によって救われたことだろう。差別的であった男が、多くの人々からの感謝と賞賛を受け、以前の生活とは比にならない輝かしい人生を手に入れていく。その心地よさに、きっと大きな勇気をもらえるだろう。




▼『ダラス・バイヤーズクラブ』作品・公開情報
2013 / アメリカ / 英語 /117分/ R15+
原題:Dallas Buyers Club
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
脚本:メリッサ・ウォーラック/クレイグ・ボーテン
出演: マシュー・マコノヒー/ジャレッド・レト/ジェニファー・ガーナー ほか
配給:ファインフィルムズ
■本年度アカデミー賞6部門ノミネート ■第71回ゴールデングローブ賞受賞(主演男優賞、助演男優賞)
●『ダラス・バイヤーズクラブ』公式サイト
2月22日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、他にて全国で公開
© 2013 Dallas Buyers Club, LLC. All Right Reserved.

文:市川はるひ

 

  • 2014年02月22日更新

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