『少女は自転車に乗って』―自転車で走る少女の姿にこめられた、サウジ女性の勇気と希望―

  • 2013年12月14日更新

これは世界に一石を投じたと言ってもいい! 映画館の設置すら禁じられているサウジアラビアで、初の女性監督とともに奇跡の傑作が誕生した。本作は10歳のオテンバ娘が自転車を手に入れようと奮闘するシンプルなストーリー。少女の勝気な笑顔と活躍ぶりが印象的だ。しかしその芯には、重い因習を打破しようと果敢に戦うサウジ女性の苦悩と反骨精神が詰まっている。世界の国々で公開され、多数の映画賞を受賞し評判を呼んでいる、宝石のような輝きを放つ作品だ。
12/14(土)岩波ホールほか全国順次ロードショー。
© 2012, Razor Film Produktion GmbH, High Look Group, Rotana Studios All Rights Reserved.


自転車が欲しい! したたかに、一心に行動する少女
ワジダ(ワアド・ムハンマド)は10歳のおてんば少女。近所に住む男の子アブドゥラ(アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ )には、サンドイッチを取り上げられたり、喧嘩をふっかけられたり、何かとちょっかいを出されている。ある日「男に勝てるわけないだろ!」と言い捨て、自転車で走り去るアブドゥラに向かって、ワジダは「私も自転車を手に入れる、そうしたら競争よ!」と宣言。ちょうど店に納品されようとしていた緑色の自転車に目を奪われたワジダは「必ずあの自転車を手に入れる」と固く決意する。しかし、ワジダの住む世界は女性のあらゆる行動が禁じられており、女の子が自転車に乗ることも認められていない。母親(リーム・アブドゥラ)に自転車が欲しいと訴えても、一喝されてしまう。それでもワジダはなんとか自転車代をためようと、手作りのミサンガを売ったり、上級生の密会の橋渡しをしてお小遣いを稼ぐ。しかし自転車代800リヤルには程遠い。そんなとき、学校でコーランの暗誦コンテストが行わることになった。優勝賞金は1000リヤル。コーランは大の苦手だったが、ワジダはひたすら練習を重ね、コンテストに挑戦する。ちょうどそのころ、ワジダの両親の間には大きな問題が起こりつつあった…。


サウジアラビア人女性の日常とは?
この作品はひとつの物語として完成されているだけでなく、閉ざされたサウジアラビアの女性たちの生活を垣間見られる貴重な作品になっている。彼女たちの日常生活は、家族以外の目に触れることはほとんどない。それだけに国外の観客にとっては、彼女たちの暮らしぶりを初めてふれる人がほとんどだろう。大人の女性はみなアバーヤ(体のラインが隠れる民族衣装)を着ているが、その下は意外にも、ファッショナブルで派手な洋服を着ていたりする。ワジダはアバーヤの下はジーンズにTシャツを着て、靴はコンバースというボーイッシュなスタイル。また、他国の少年少女と同様に、家の中ではインターネットやゲームも楽しんでいる。一方、そういった暮らしぶりの中で、サウジアラビア女性の重く辛い因習についてもリアルに描かれる。女性がひとりで往来を歩くだけで卑猥なヤジを飛ばされることもあれば、女生徒の声が校舎外へ漏れ聞こえれば、教師から「はしたない」と厳しくたしなめられることもある。ワジダはわずか10歳だが、何か問題を起こしたとたん「結婚」を脅し文句か呪文のように使われてしまう(恐ろしい!)。 また、この国では女性への運転免許の交付が行われていない。ワジダの母は毎日3時間かけて通勤し、家計を支えるが、運転手を雇うお金はなく乗り合いの車を使う。どんな態度をとられても運転手なしには職場に行くこともできない。そういった事情も丁寧に作品中に織り込まれており、等身大のサウジの女性の暮らしぶりを身近に感じることができる。


少女が自転車に乗るセンセーション
近所の腕白坊主アブドゥラは意地悪もするが、ワジダが自転車に乗れるよう手助けもしてくれる。どうやらワジダは、彼にとって初恋相手のようである。ワジダは、アブドゥラだけでなく観客にとっても素晴らしく魅力的な少女である。「自転車に乗りたい!」というひらめきのような欲求に忠実に従い、決して折れることなく突き進む。母親や教師から「自転車に乗りたいなんて、反抗ばかりして!」と厳しく批判されても、自転車を手に入れるお金がなくても、ワジダは危険や苦労もいとわず、果敢に自転車を手に入れる努力を続ける。そのひたむきさと喜びに満ちたまなざしは、観客に力強い勇気をあたえるだろう。少女が自転車に乗るということは、彼女の世界においては冒険であり革命なのだ。重い因習の中にあっても、決して「世間の都合にいい子」にならないワジダ。その姿は、インスピレーションを大切に生きることの、喜びと素晴らしさを教えてくれる。


サウジアラビアで女性監督が作品を撮ること
かたや現実世界において、女性が映画を撮るという行為そのものが、サウジアラビアでは勇気ある挑戦だ。撮影中ハイファ・アル=マンスール監督は、車に隠れながら無線で指示を出し演出をしたという。なぜなら、女性監督が商業映画のセットで男たちに囲まれて撮影を進めること自体が「御法度」だからだ。それほどまでに制限された環境でも、役者のみずみずしい表情を引き出せたのは「多くのスタッフに支えられていたから」だという。また、この国では、公の場で演技をする女性や少女を捜すのこと自体が至難の業であり、キャスティングは困難を極めたという。ワジダ役を射止めたワアドを見いだせたことは、本作にとって最高の奇跡といえよう。ワジダのようにコンバースを履いてオーディション会場に現れた彼女は、美しい声を持ち、すでに大胆な態度を身につけていたという。そうして苦労が絶えなかった準備や撮影を経て、作品は大きな実を結んだ。監督の求めた通り、シンプルなストーリーでありながら、サウジアラビアに生きる女性の現実をも伝える、繊細かつ大胆な作品が完成した。本作はヴェネチア映画祭に出品され、2014年アカデミー賞外国語映画賞のサウジアラビア代表にもなっている。たぐいまれなるこの作品が、さらに世界に羽ばたけるよう、多くの方に足を運んでいただきたい。


▼『少女は自転車にのって』作品・公開情報
2012年/サウジアラビア・ドイツ合作/アラビア語/97分/ビスタサイズ
原題:Wadjda
監督・脚本:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド/アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ/リーム・アブドゥラ/スルタン・アル=アッサーフ/アフドゥ ほか
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
2014年アカデミー賞外国語映画賞サウジアラビア代表
●『少女は自転車にのって』公式サイト
●『少女は自転車にのって』Facebook
12/14(土)岩波ホールほか全国順次ロードショー。
© 2012, Razor Film Produktion GmbH, High Look Group, Rotana Studios All Rights Reserved.

文:市川はるひ

  • 2013年12月14日更新

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