『SAVE THE CLUB NOON』― 大阪のクラブ「NOON」摘発をめぐる、奇跡のライブドキュメンタリー

  • 2013年12月09日更新

大阪の老舗クラブ「NOON」救済のため、約100組のミュージシャンが立ち上がった!
2012年4月、大阪中崎町の老舗クラブ「NOON」が風営法違反により摘発された。前身の「clubDAWN」から約20年にわたり、メジャー、インディーズを問わず、さまざまなアーティストがそのステージに立ち、 関西のアンダーグラウンドシーンを牽引してきた「NOON」。この場所に特別な思いを抱く人々の声はツイッターなどを通して瞬く間に広がる……。そして、同年7月。「NOON」への感謝と救済を訴え、ミュージシャン約100組が集結。心斎橋Live&Bar11(オンジェム)で4日間にわたるイベント『SAVE THE NOON』が開催された。本作は、そのライブの模様と出演ミュージシャンたちの、貴重なインタビューを収めたドキュメンタリー作品だ。



風営法って、ナンダ……?
ここ数年、風営法違反でクラブが摘発されたというニュースがたびたび世間を騒がせている。関西でも2010年末頃から取り締まりが強化され、約2年間でおよそ20軒ものクラブが実質的な廃業を余儀なくされたという。「NOON」が摘発された理由とはいったい何なのか? それは「無許可で店内にダンススペースを設け、客にダンスをさせていた」というものだ。経営者をはじめスタッフ8人が逮捕されるという物々しい騒動が起きたのは、21時43分。防音設備も整えた場所で、深夜に騒音を出していたわけでもなく、客がトイレでドラッグに興じていたわけでもない。許可無く客にダンスをさせたという、“罪”なのだ。

本作を通して初めて知ったことは、昼でも夜でも、カフェでもクラブでも、海の家でも、野外フェスでも、ましてやダンス教室でも、営利が発生する場所でお国の許可無く音楽が鳴って人が踊れば 、それは犯罪になるということ。そもそも、風営法が制定されたのは戦後間もない1948年(当時は風俗営業取締法)。 ”ダンスホールが買売春の取引に使われている”との認識 から「ダンスをさせること」が規制の対象となったことに端を発する。ヒップホッブダンスが中学校の必須科目になる時代に、半世紀以上前の法律が内容もそのままに適用されているのは、いやはやナンセンスとしかいいようがない。しかもクラブがその矢面になっているのは「クラブ=いかがわしい所」という一部の固定されたイメージだろう。それは、クラブでさまざまな音楽や人と出会い、なんらかの刺激や影響を受けてきた人々(現在、多方面で活躍するクリエイターを含む)にとってはもちろん、そうしたカルチャーやムーブメントの醸成の場として、純粋にクラブというハコを営んできた経営者側にとっても、まったくもって理不尽極まりない話なのだ。

 

自分たちの居場所をつくるために、ここから立ち上がる
けれど、本作は風営法に対して語気荒く叫びまくるとか、怒りのエネルギーでライブがモッシュの嵐……とかいう構図の映画ではない(そういうアプローチが時代を変えたという過去も確かにあったが)。この理不尽感をとっかかりに、さまざまな疑問をそのままにしないで、そろそろ自分たちの権利、自由、未来について考えてみないか? というポジティブな問題提起を含んだ作品だ。何より、ライブシーンに登場するミュージシャンが、みんな個性的でオリジナリティーに溢れていて、めちゃくちゃかっこいいってことが一番の説得力なのかもしれない。なぜ、自分はその場にいることができなかったのかと、悔しさのあまり床に寝転んで手足をバタバタさせてもがきたくなるほど、本作はライブドキュメタリーとしての興奮に満ちている。そんな魅力的なミュージシャンの面々が自分たちの問題として、冷静かつ真摯にメッセージを投げかける姿は新鮮で印象的であり、同時に、宮本杜朗監督や企画の佐伯慎亮氏ら、作り手側の時代感を伴った鋭角なセンスによる編集の妙ともいえる作品なのかもしれない。音楽の趣味や、影響を受けたものごとは、もちろん人それぞれ。だけど、少しでもクラブカルチャーの洗礼を受け、文字通り青春の1ページだった場所を時代の流れの中で失ってきた経験のある人間ならば、少なからず考えさせられる作品であることは間違いないし、世の中を変えるというのは、一見、大それたことのようだが、その最初の一歩は等身大の問題から始まるのだと、あらためて気づかせてくれる作品でもあるのだ。

 

▼『 SAVE THE CLUB NOON』作品・公開情報
2013年/日本/ 93分
監督・編集:宮本杜朗
企画:佐伯慎亮、山本陽平(NOON)
出演:いとうせいこう、 沖野修也 & 沖野好洋、須永辰緒、ハナレグミ、中納良恵 (EGO-WRAPPIN’)、金光正年(NOON)、山本陽平(NOON)ほか
配給・宣伝:「SAVE THE CLUB NOON」製作委員会
コピーライト:(c)「SAVE THE CLUB NOON」製作委員会
『 SAVE THE CLUB NOON』公式サイト

※2013年11月30日(土)より東京・渋谷 アップリンク、12月頃より 十三 第七藝術劇場、名古屋 シネマテークにて公開

 

文:min

  • 2013年12月09日更新

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