3人のアンヌ―ホン・サンス×イザベル・ユペールによる、クセになりそうなパラレル・ワールド

  • 2013年06月17日更新

「面倒くさそうな人」に、どうしようもなく惹きつけられてしまう瞬間があるのはなぜだろう。フランスからきた女性が、海辺の街で過ごす短い時間のなかで同じライフガードに出会い、淡い恋が生まれるという物語が3度反復されるという、いたってシンプルな構造の『3人のアンヌ』という映画。けれども、登場人物が発する言葉や小道具の使い方、クローズアップを多用するカメラワークなどから、ホン・サンスという監督の面倒くさそうな人柄が感じとれる。悪い意味ではなく、「このひとに関わったら理由もなく惹きつけられて収拾がつかなくなるだろうな」という意味の面倒くささだ。
本作に登場するライフガードも同じように面倒くさそうなタイプの青年。情熱的で、うっとうしいくらい一途だけれども、無視できない魅力をたずさえている。静かな海辺の街で繰り広げられる大人の物語。引き返すことができなくなるかもしれないやっかいな感情を抱えてしまうことを覚悟のうえ、劇場に足を運んでほしい。


言葉の壁を乗り越えたところに待っているのは、恋の予感?!
借金取りから逃げて、母親と一緒に海辺の街モハンへやってきたウォンジュ。映画学校の学生である彼女は、気を紛らわすために脚本を書き始める。舞台はペンション「ウエストブルー」とモハンの海水浴場、主人公はフランスからやってきた女性―アンヌ。
それぞれ事情の異なる3人のアンヌは、海水浴場でライフガードをしている情熱的な青年と出会う。韓国語・英語・フランス語が入り混じったぎこちないコミュニケーション。しかし、相手の言わんとすることを感じ取ったとき、彼らの間に親密さが生まれる。同じ場所・同じ時間という多元宇宙のなかで繰り広げられる、3人のアンヌとライフガートとの密かな関係性の移ろいとは?

「アンヌ」の演じ分けに、イザベル・ユペールの女優魂を見た!
本作では、3人の「アンヌ」という女性の気質が、服の色の違いによって表現されている。成功した映画監督であるアンヌは知的さを感じさせる青いシャツ、不倫中の人妻であるアンヌは情念を感じさせる赤いワンピース、韓国女性に夫を寝取られ離婚したばかりのアンヌは中性的な緑のワンピースを着て、モハンの海辺に立つ。これらの衣装は、なんと、イザベル・ユペールがそれぞれのキャラクターに合わせて持ち込んだ自前のものだという。
演じるキャラクターが変われば、顔つきも口調も変わるのは当然のこと。しかし、イザベル・ユペールの細かい演じ分けは、それだけにとどまらない。ぜひ注目してほしいのは、3人のアンヌの歩き方だ。さくさくと小気味よいリズムで歩く映画監督のアンヌ(左足に重心を傾けて立つ姿が格好良い!)、猫のように小さな歩幅で気ままに歩く人妻のアンヌ、外股気味で酔っている風にフラフラと歩く離婚したてのアンヌ…。イザベル・ユペールの気楽な雰囲気は、フランスのトップ女優という緊張感を感じさせず、あたかも「アンヌ」という人物が実在しているような感覚で観客を物語の中へ引き込んでくれる。歩き方や表情のほかにもたくさん見られる3人の細かい違いを、劇場で探してみるのも楽しいかもしれない。


▼『3人のアンヌ』作品・公開情報
監督・脚本:ホン・サンス
2012年/韓国/89分
出演:イザベル・ユペール、ユ・ジュンサン、チョン・ユミ、ユン・ヨジョン、ムン・ソリ、クォン・ヘヒョ、ムン・ソングン
配給:ビターズ・エンド
『3人のアンヌ』公式サイト
6月15日(土)より シネマート新宿他全国ロードショー







文:南天

  • 2013年06月17日更新

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