『ロマン・ポランスキー 初めての告白』-栄光と苦悩に満ちたスキャンダラスな人生を語る

  • 2013年05月31日更新

祖国ポーランドで撮影した『水の中のナイフ』(62)で長編デビュー後、約50年にわたり世界を舞台に活躍し続けるロマン・ポランスキー。『ローズマリーの赤ちゃん』(68)、『テス』(79)、『戦場のピアニスト』(02)など、話題作や傑作を発表する一方、私生活では映画のような波欄万丈な人生を送ってきた。幼少時代をゲットーで過ごし、ハリウッドで出会った2番目の妻をカルト集団が惨殺、13歳の少女へのわいせつ容疑で逮捕され保護観察中に国外逃亡、その32年後映画祭に訪れたスイスで警察に拘束。このドキュメンタリーは、そのあまりにも重い人生をスイスでの軟禁中(2010年時点)のポランスキー自身が回顧する、貴重なドキュメンタリーである。初期の作品 『水の中のナイフ』(62)、『反撥』(65)、『袋小路』(66)、『ローズマリーの赤ちゃん』(68)も同時上映。


自身の体験を反映した『戦場のピアニスト』
全編約90分に及ぶインタビューの中でも最も衝撃的なのは、第二次世界大戦中の少年時代に過ごしたユダヤ人居住区ゲットーでのエピソードだ。母親をアウシュビッツで亡くし、父親はゲットーの有刺鉄線を切って彼を逃がしたという。彼は後に、ホロコーストを描いた『戦場のピアニスト』(02)を監督。カンヌ映画祭でのパルムドールやアカデミー賞最優秀監督賞を受賞し、高い国際的評価を得た。
この作品では、監督自身の経験-父親が通りすがりの若いドイツ軍将校におじきをせず殴られた話、知り合いの3歳の幼児が銃殺されたこと、食糧がなく、襲撃された工場で母親がピクルスの缶詰を見つけ皆で食べたこと-などもヒントになっている。自身の体験なくして撮り得なかったという皮肉。比較的淡々とした描写の中に深い怒りと悲しみをにじませる作品だが、これは本作のポランスキー自身がインタビュー中、感情を抑えながらも時折涙を見せる様子にも通じる。


スキャンダルと後悔、そして再生
今回のインタビュアーで長年のビジネス・パートナーでもある、アンドリュー・ブラウンズバーグは、シャロン・テート事件や拘束の理由である少女わいせつ事件についても話を向ける。ブラウンズバーグは、前者の事件の悲報をロンドンでともに受け取った友人であり、いわゆる“彼側”の人間であるため、激動の人生を送った彼を見る目は温かい。犯罪の被害者、そして後に犯罪者になった者としてあまり思い出したくない話であろうが、ポランスキーは安心して心情を吐露しているように見える。


再び手に入れた穏やかな日々
彼は今年で80歳を迎える。2010年7月に軟禁が解かれ、今年のカンヌ映画祭で『Venus In Fur』(13)がコンペティション部門に出品されるなど、いまだ映画作りに意欲を見せているようだ。私生活では1989年にフランス人女優エマニュエル・セニエ(『フランティック』(88)、『赤い航路』(99)などに出演)と結婚後、2人の子供に恵まれ、「今のような幸せな生活が愛おしい」と語る。再び穏やかな日常を手に入れたポランスキーは、今後どのような作品を作り出すのだろう。彼自身が語る「自分の墓に入れたい1作」を超える作品を生み出せるのか。人生は最後までわからない。


『ロマン・ポランスキー初めての告白』
2011年/イギリス、イタリア、ドイツ/94分/ヴィスタ
制作:アンドリュー・ブラウンズバーグ
監督:ローラン・ブーズロー
『ロマン・ポスキー初めての告白』公式サイト
©2011 ANAGRAM FILMS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
同時上映 『ローズマリーの赤ちゃん』ニュープリント版、『水の中のナイフ』、『反撥』、『袋小路』デジタルリマスター版
6月1日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムにて6週間限定ロードショー!



【同時上映作品紹介】
『ローズマリーの赤ちゃん』
ニュープリント版/Rosemary’s Baby
1968年/137分/英語/カラー/35mm
出演:ミア・ファロー、ジョン・カサヴェテス
ポランスキーがハリウッドに招かれて発表したモダンホラーの金字塔。ニューヨークを舞台に妊娠した若妻に振りかかる恐怖の日々をハイ・アートな映像感覚で描く。
©1968 Paramount Pictures Cooperation and William Castle Enterprises, Inc. All Rights reserved.


※『水の中のナイフ』
デジタルリマスター版/KNIFE IN THE WATER
1962年/94分/ポーランド語/モノクロ/デジタル
出演:レオン・ネムチェック
ブルジョワの中年夫婦と貧しい生年が、偶然に湖でバカンスを過ごす。主な登場人物3人、舞台はヨットの上というミニマルな設定で焙り出される世代間の断絶。共同脚本にイエジー・スコリモフスキ、音楽はクシュシュトフ・コメダ。
©1962 Zespol Filmowy “Kamera.” All Rights Reserved.


※『反撥』
デジタルリマスター版/REPULSION
1965年/105分/英語/モノクロ/デジタル
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ
ポーランドを離れ渡英したポランスキーが、カトリーヌ・ドヌーヴを主演に迎えて発表した異色の心理スリラー。外国から働きに出てロンドンで暮らす姉妹。姉には恋人がいるのに妹は内気でいつも孤独。ある時、姉が旅行にでかけ1人アパートに残った妹は……。
© 1965 Compton-Tekli Film Productions Ltd. All Rights Reserved.


※『袋小路』
デジタルリマスター版/CUL-DE-SAC (写真:袋小路)
1966年/102分/英語/モノクロ/デジタル
出演:フランソワーズ・ドルレアック
密室的空間における人間心理の探究に定評のあるポランスキーがさらにテーマを深化させ、ベルリン国際映画祭でグランプリを受賞。中年男と若い女が暮らす孤島の城館にギャングが1人迷い込み、平穏な生活が空中分解寸前に……。
©1966 Compton-Tekli Film Productions Ltd. All Rights Reserved.

文:吉永くま

  • 2013年05月31日更新

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