『イノセント・ガーデン』パク・チャヌク監督 ― 韓国随一の鬼才がハリウッドを席巻! 豪華キャストとの撮影秘話を緊急インタビュー

  • 2013年05月29日更新

ハリウッドでも鬼才ぶりを遺憾なく発揮した、パク・チャヌク監督が緊急来日

パク・チャヌク監督が初のハリウッド進出を果たした作品『イノセント・ガーデン』が 2013年5月31日(金)より日本公開される。

製作にリドリー&故トニー・スコットを迎え、『ブラック・スワン』の美術・音楽チームがスタッフとして名を連ねる本作は、繊細で美しい映像とエキセントリックで耽美なストーリーが交錯する珠玉のサスペンススリラー。原作・脚本を手がけたのが、テレビシリーズ『プリズン・ブレイク』で日本でも人気を博した俳優のウェントワース・ミラーだというのも興味深い作品だ。

『オールド・ボーイ』(2003)でカンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリを受賞し、『渇き』(2009)で同映画祭の審査員賞を受賞した韓国映画界随一の鬼才は本作にどんな思いを込めたのか? 撮影時の様子なども含め、その真意に迫った。


W・ミラーの脚本を自分自身の想像力で膨らませていけると感じた

 

― ウェントワース・ミラーによる脚本を、初めて読んだときの感想を教えてください。

パク・チャヌク監督(以下、パク監督):余白の多い脚本といいますか、自分自身の想像力で作品を膨らませていけると感じたんです。もし、ほかの監督が撮ったらまるで違う作品になっていたでしょう。自分の息がかかった作品が撮れる脚本こそ、今選ぶべきものだと思いました。

― 脚本に興味を持たれた理由の1つに、監督の娘さんがインディアと同じ18歳だからということをお聞きしたのですが、彼女からインスピレーションを得たり、アドバイスを求めたことなどはありますか。

パク監督:脚本に関して、娘に具体的な意見を求めたことはないですが、彼女を育てる過程で感じた親への反抗心やおとなへの不満など、思春期特有の少女の感情や行動をインディアのキャラクターに反映したところはあります。きっと女性なら自分の成長過程を振り返りながらこの映画を観ていただけるでしょう。実際、娘もわたしの作品のなかで一番好きだと言ってくれています。プリプロダクションのときには娘が夏休みの時期だったこともあって、現場に呼んで雑務を手伝ってもらったり、ストーリーボードを韓国語から英語に書き直す際に翻訳が間違っていないかをチェックをしてもらったりもしました。ただ残念ながら、彼女は映画ではなく美術関係の道に進みたいようです(笑)。

フィリップ・グラスに依頼したことは、ハリウッドだからできたことかも

― キャストとは撮影前に念入りなミーティングを重ねたそうですが、その過程でキャストに触発されて脚本を書き変えられた部分などはありますか。

パク監督:いくつかあります。例えば、映画の終盤で感情的になったエヴィがインディアに、冷酷な言葉をぶつけるシーンがありますが、はじめの脚本では言い放って終わりだったんです。しかし、エヴィは娘に愛されたいと願っている母親で、だからこそ自分の放った言葉にきっと強い罪悪感を抱くはずだと思ったんです。ニコール・キッドマンに意見を求めると「自分もそう思う」と言ってくれて。そこで、彼女にどんなセリフを付け足したらいいと思うかを訊ねたら、いろいろなセリフを考えてくれました。その中からわたしが選んだのが「あなたは誰? なぜ母親を愛せないの?」というセリフです。あのシーンはニコールと共同作業で作り上げたと言えるでしょうね。

― 今回ハリウッドだからこそ、あえて挑戦してみたようなことはありますか。

パク監督: インディアが弾くピアノ曲をフィリップ・グラスさんに依頼したこと、インターナショナル版のポスター写真をメリー・アラン・マークさんにお願したことは、ハリウッドだから挑戦できたと言えることかもしれません。 二人はわたしにとって生きる伝説のような方たちでしたから。プロデューサーに候補を聞かれて「ダメもと」という気持ちで名前を挙げてみたんです。それが、あっさり話が通って驚きました(笑)。はじめの脚本では、インディアがピアノで「エリック・サティ」風の曲を弾くと書かれていたんですが、それは自分が思うイメージとは少し異なっていました。彼女はもっと厳格で自閉症に近いようなキャラクターだから、ロマンティックで叙情的な曲ではなくて、規則的なメロディーを反復するような、パターン化された曲のほうを好むような気がした。そこで、台本を「フィリップ・グラス」風の曲と書き換えたんです。ほかにも、インディアの性格を強調するために、部屋の家具を必ず左右対称にしたり、壁紙やベッドカバーなどを規則的なパターンの模様にしています。インディアの衣装も、厳格を際立たせるために必ずボタンをきちんと一番上まで留めて左右対称になるようにしているんです。本作では、ほんとうに細部にまでこわだって物語を構築していきました。

連弾のシーンは心の交流と、肉体的交流を感じるエロティシズムを見せたかった

― インディアとチャーリーがピアノを連弾するシーンは、曲そのものに感情が高ぶると同時に、二人が体を重ね合いピアノを弾く姿がとても官能的でした。フィリップ・グラスさんに曲を依頼する際に、音のイメージだけでなく、実際に二人のからだが絡みあうような動きになるスコアにしてほしいという要求をされたのでしょうか。

パク監督:初めてフィリップさんにお会いしたとき、「このシーンであなたが望む核心的な感情は、なんだ?」と単刀直入に聞かれたんです。わたしは「セックスです」と答えました。そしたらフィリップさんは いたずらっ子のように笑って「そうだと思ったよ」って(笑)。このシーンはインディアとチャーリーの感情や心の交流と、それを超えた肉体的な交流を感じとってもらえるようなエロティシズムを見せたかった。するとフィリップさんが、こんな逸話を話してくれたんです。以前に連弾の曲を書いたときに、初演してくれたのが友人夫婦で、低音パートを弾いていた夫が「先生こんな弾き方もできますよ!」って妻の肩越しに手を回して高音のキーを弾きだしたそうです。その姿を想像したときにとても情感溢れていて微笑ましいと思った。それで、そういった動きになるようにスコアを書いてもらいました。

観る人それぞれに答えを想像して貰えたら嬉しい

― 本作のなかに登場する蜘蛛が印象的です。どういった象徴として描かれているのでしょうか。

パク監督: もともとの脚本にも蜘蛛は登場しますが、映画とは違う描き方をしています。ミラーさんの脚本では、インディアが蜘蛛を平然と踏み殺すというシーンが描かれていました。それは、彼女がどれほど普通の子と違ってるのか、またどんな素質を秘めているのかを表すために描かれたものだと思いますが、わたしは蜘蛛が静かに這っていき、インディアのスカートのなかに入っていくというシーンにしたんです。それはインディアの生活に侵入してくるチャーリーの存在を象徴しています。ですから、今回、撮影チームには「マシュー・グードに似た蜘蛛を探してくれ」とお願いしました(笑)。頭が小さくて足の長い蜘蛛は、マシューの風貌をイメージしたものです。

― 映画の冒頭に「花は自分の色を選べない」というインディアのモノローグがあります。本作は、人間が宿命的に背負った、または本来生まれ持った、抗いがたい「悪」について描いた作品だと言えますか。

パク監督:冒頭のインディアのモノローグは、実は編集段階で思いついて後で差し込んだものです。 ミラーさんの脚本ではインディアのなかにある「悪」は、「血筋」によるものということを強調していましたが、わたしはその答えを、観客自身に選択してほしいと思いました。あのセリフは「わたしに道徳観念が欠けているのではない、 そのように生まれてしまったのよ」という、インディアの言い訳のようにも取れる。しかし、それは事実かもしれないし、事実ではないかもしれない。また、遺伝によって「悪」を受け継いでいるというのは、チャーリーの主張でもあります。しかし、実はもともと白い花のように生まれたインディアがチャーリーという「悪」の色に染まっただけなのかもしれない。そこは曖昧模糊にしておいて、観る人それぞれに答えを想像して貰えたら嬉しいですね。

▼『イノセント・ガーデン』作品・公開情報
(2012年/アメリカ/99 分/PG-12-)
監督: パク・チャヌク
原題:STOKER
原作・脚本:ウェントワース・ミラー
製作:リドリー・スコット、トニー・スコット、マイケル・コスティガン
出演: ミア・ワシコウスカ、ニコール・キッドマン、マシュー・グード
配給:20世紀フォックス映画
コピーライト: ©2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

【STORY】外部と遮断された大きな屋敷で暮らし、繊細で研ぎ澄まされた感覚を持つインディア・ストーカー(ミア・ワシコウスカ)は、誕生日に唯一の理解者だった大好きな父を交通事故で亡くしてしまう。母親のエヴィ(ニコール・キッドマン)と参列した父の葬儀に、長年行方不明になっていた叔父のチャーリー(マシュー・グード)が突然姿を現し、一緒に暮らすことになるが、彼が来てからインディアの周りで次々と奇妙な事件が起こり始める……。

『イノセント・ガーデン』公式ホームページ

※ 2013年5月31日(金)TOHO シネマズ シャンテ、シネマカリテ他 全国ロードショー

 

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取材・文・編集:min スチール撮影:鈴木友里(インタビュー)

  • 2013年05月29日更新

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