『ウィ・アンド・アイ』-ブロンクスのアマチュア高校生たちが実名で演じる青春ドラマ

  • 2013年04月27日更新

『エターナル・サンシャイン』『恋愛睡眠のすすめ』など、独創的かつ遊び心溢れる作品で映画ファンを魅了してきた奇才ミシェル・ゴンドリー監督の最新作は、高校の下校バスを舞台に繰り広げられる青春ドラマだ。集団の中でそれぞれの役割を演じていた高校生たちが、1人、また1人とバスから降りていくにつれて、個人的なルーツや本音を抱えた存在へと回帰していく姿が鮮やかに描かれている。本作の出演者は、ブロンクスのコミュニティ・センター「ザ・ポイント」に集まる高校生たち。監督自身が3年間かけて取材を行い、それを基に作られた物語には、ブロンクスの若者たちが実際に直面している問題が多く散りばめられている。ビートの効いた音楽をBGMにして、バスはひた走る。やがて窓外の景色が夕闇に包まれる頃、車中の人間模様はどのように変化しているだろうか。さあ、高校生たちと共にバスに乗り込み、旅に出よう。そこには、あなたの予想を裏切る展開が待ち受けているはずだ。

監督自身が、「他の青春ドラマやセックス・コメディとは違う」と断言するティーンエイジャーの物語
ニューヨーク、ブロンクス。学期が終了し、夏休みを迎えようとしている高校生たちで市営バスの車内は賑わっている。それぞれのグループで交わされているのは、仲間内の恋愛に関するゴシップや、次の誕生日パーティーに呼ぶ友達の人選など、いつも通りの他愛ない会話だ。登校拒否の女子生徒がブロンドのかつらを被ってバスに乗り込んできたことでひと騒動起きたり、ゲイカップルが別れの修羅場を演じたり、大小さまざまな事件を経て、停留所に止まる度に少しずつ乗客が減っていくバスの車内では、次第に親密な会話が交わされるようになっていく。1人1人が抱える問題、知らずにいた本音。そこに、学校の仲間のイライジャが刺されたというメールが飛び込んできて・・・。

若者たちの悪意に満ちた1分間
電車やエレベーターの中など、公共の空間で学生の集団に出くわした時、居心地の悪さを感じるのはなぜだろう。躊躇のない視線、ヒソヒソ話、嘲笑。彼らの話題の的になっているのは自分かもしれないと思い、胸がざわざわしてくる。もちろん、被害妄想に過ぎない。けれど、もしかしたら・・・と大人が感じてしまうようなティーンエイジャーの悪意を、ゴンドリー監督は、「集団でガムを噛む」というユニークな手法で表現している。画面一杯に拡がる悪意の集中攻撃を、ぜひ劇場で体験してほしい。

最高に格好いい女ドライバーに注目!
ユニークなキャラクターが数多く登場する本作で、特に注目したいのは、バスを運転する女ドライバーだ。腕っぷしの強そうな身体を運転席に埋めて、学生たちの騒ぎをしばしば牽制する彼女は、本作で唯一、高校生たちと対等に渡り合う大人なのである。悪ガキグループにピザを買ってくるよう命じたり、「あんたはただの市に雇われた職員だ」と悪態をつく男子学生を強制的に下車させたりする姿は実に爽快。アクションヒーローのような頼もしさを感じる。ドライバー役を演じたのは、なんと本物のバスの運転手。行儀の悪い乗客を怒鳴りつけたり、時には悩み多き学生にアドバイスを与えたり、本作に描かれている全てのことが、彼女にとっては日常の光景なのだろう。そんなクールな女ドライバーが運転するバスが、イースト・リバー河畔にたどり着いた時、車中に残った生徒たちの間で交わされる会話とは? 物語が終わりに近づくころ、観客の胸には、青春時代に感じたようなほろ苦さと暖かさが入り混じった複雑な想いが広がるに違いない。


▼『ウィ・アンド・アイ』作品・公開情報
2012年/アメリカ/カラー/ビスタ/ドルビーデジタル/103分
原題:THE WE AND THE I
監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー
出演:マイケル・ブロディ、テレサ・リン
配給:熱帯美術館
『ウィ・アンド・アイ』公式サイト
※4月27日(土)より シアター・イメージフォーラム、シネ・リーブル梅田他全国ロードショー(C)2012Next Stop Production. LLC

文:南天

  • 2013年04月27日更新

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