『メッセンジャー』-イラク戦死者の遺族に訃報を伝えるメッセンジャーの苦悩

  • 2013年03月08日更新

2003年、イラクの大量破壊兵器を摘発するという名目で、アメリカを中心とする多国籍軍はイラクに侵攻する。結局大量破壊兵器は見つからず、戦争の大義名分は崩壊した。イラク戦争における米軍の死者数は約3500人。本作のタイトルにもなっている“メッセンジャー”とは、故郷で帰りを待ちわびる家族に、悲しい報告を伝える軍人のことだ。自らも負傷し、この過酷なミッションに任命された軍曹の苦悩と心の再生が描かれる。『プライベート・ライアン』のプロデューサーが製作し、第82回アカデミー賞でも助演男優賞と脚本賞にノミネートされた秀作である。


過酷な任務を背負ったメッセンジャー
イラクでの戦争で負傷し、帰還した米軍兵士ウィル軍曹に、戦死兵の遺族に第一報を伝える“メッセンジャー”としての任務が与えられた。ウィルは上官のトニー大尉とともに、遺族のもとを回るが、遺族は大事な家族を失った悲しみを国や政府でなく、戦地から生還したメッセンジャーに向けるのだった。自身も後遺症に苦しみながら、耐えがたい任務を続けるウィルは、夫の戦死を告げた未亡人のオリヴィアとの出会いをきっかけに、失われた心を取り戻していく。


一人一人の人生が浮き彫りに
遠い国で起こった戦争や災害で死者数が報道される時、私たちはそれを単なる情報としての“数”として捉える傾向にある。しかしこの作品では、その一人一人に大切な家族や友人がいて、人生がありドラマがあることを再認識させられる。共に戦った友人の死を眼前で見た兵士、訃報を聞き嘆き悲しむ家族、一切の感情を押し殺して機械のように事実のみを伝えなくてはならないメッセンジャー、やりきれない現実が戦死者を取り巻く多くの人々にのしかかる。


未来への希望が静かな余韻を残す
この映画に戦闘シーンは出てこない。だが、遺族の慟哭と終盤でウィルが語る戦場での生々しく酷な体験から、戦争の悲惨さや愚かさは十分伝わる。戦場で生死の境をさまよい、恋人にも去られ、無口だがどこか投げやりな印象を与えるウィル。だが、メッセンジャーが守るべき厳しいルールと葛藤し苦悩する姿は、彼が温かい人間だということを物語る。また規則遵守に厳しい上官のトニーも、実は人間くさく魅力的な人物だ。トニーやオリヴィアと出会って、柔らかくなっていくウィルの表情は、未来への希望を予感させる。重いテーマを扱っている作品だが、静かで穏やかな余韻が残るのはそのせいだろう。


誰も皆同じ重さの命を持っている
2011年、イラク駐留米軍は完全撤退した。だが、心身に傷を負った兵士、大切な人を失った家族には、その後もつらく悲しい日々が続いている。言うまでもなく、人の命は社会的地位や貧富、国籍を問わずかけがえのないもの。イラク戦争での米軍戦死者は、貧困層やマイノリティーの兵士が少なくないという。そして、ここで描かれる彼らの死や家族に思いを馳せる時、その陰に隠れた夥しい数のイラク人犠牲者や家族のことも思い出してほしい。


▼『メッセンジャー』作品・上映情報
2009年/アメリカ/カラー/112分/シネスコ/ドルビーデジタル
監督:オーレン・ムーヴァーマン
脚本:アレサンドロ・キャモン、オーレン・ムーヴァーマン
製作:マック・ゴードン、ローレンス・イングリー、ザック・ミラー
出演:ベン・フォスター、ウディ・ハレルソン、サマンサ・モートン、ジェナ・マローン、スティーヴ・ブシェーミ
字幕翻訳:㈱インジェスター
配給:インターフィルム
『メッセンジャー』公式サイト
※2013年3月9日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
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文:吉永くま

 

  • 2013年03月08日更新

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