『アルマジロ』-刺激的なゲームを待ち望む兵士。アフガニスタンの荒んだ土地で、現実の戦闘が始まろうとしている

  • 2013年02月03日更新

2009年、アフガニスタン、南部ヘルマンド州にあるタリバンの拠点まで1キロ足らずという対タリバン基地『アルマジロ』。デンマーク軍とイギリス軍の200名が駐留するこのキャンプは過去に死者を出したこともある最も危険なエリアの一つだ。治安維持を目的とした国際平和活動に従事するデンマーク兵士、メス、ダニエル、ラスムス、キムらの『アルマジロ』での6ヶ月間を追うドキュメンタリー。ここで描かれているのはフィクションではなく、全て実際アルマジロ基地とその周辺で起こった現実の出来事である。前線で任務を遂行する兵士の息遣い、アフガニスタンの住人の表情を生々しく捉えた一本だ。渋谷アップリンク、新宿K’s cinema、銀座シネパトスほか全国順次公開


刺激的なゲームを待ち望む兵士。荒んだ土地で、今、現実の戦闘が始まろうとしている
2009年10日間の訓練を受けたデンマークの若き兵士、メス、ダニエル、ラスムス、キムはアフガニスタン南部ヘルマンド州前線作戦基地『アルマジロ』に赴任する。国際治安支援部隊(ISAF)の彼らの主な任務は周辺地域のパトロールである。初めてのパトロールは無事に終了するものの、彼らの口から出てきた言葉は「つまんなかった。撃ち合いとかあれば違うのかな。はやくジェットコースターに乗りてえ」という刺激的なゲームを待ち望んでいるかのような一言。一方、近隣の村はタリバンとISAFの交戦によって荒れ果てていた。畑を荒らされ、家を奪われ、家族を失った人々のISAFに対する感情は暗く重いものだ。住民との関係がうまくいかず、平和維持のためのタリバンに関する情報収集もままならない。住民の中に隠れるタリバンの影を恐れながら任務は続く。そんな中、タリバン側にも内部事情が漏れていることを考慮し、奇襲をかける提案が持ち上がる。奇襲参加は有志のみ。手を挙げたものが戦闘の準備を始める…監督のヤヌス・メッツとカメラチーム、兵士のヘルメットに搭載されたカメラ、常時4台のカメラが『アルマジロ』をから出動する兵士を見つめている。


アフガニスタンは今どうなっているのか?
平和の回復と維持を目的とした国際平和活動の対象地域となっているアフガニスタン。カメラはアフガニスタンの住民を映し出す。劇映画では映し出されることのない、その人たちは畑を耕し、放牧をしてその日その日を暮らしている。タリバンに関する情報提供を求める国際治安支援部隊(ISAF)に対して市民から返される言葉は「武器を持ってここに来て、帰るだけだろ。残った私らは奴らのいいおもちゃだ」。疲れ、諦めが言葉と共にもれる。種をまいたばかりの畑を踏み荒らされ、家族19人に飲ませる牛乳を絞り出す牛を殺されてしまった住民にとって、タリバン兵もISAFも生活を脅かす破壊者の一面を持つ。作品に幾度となく出てくる住民の疑いの目、憎しみの声、諦めの無表情は武器を持たないアフガニスタン住民の“回復されるべき平和”はなにか?を問いかけてくる


フィクションであって欲しい兵士の姿
南部ヘルマンド州にあるタリバンの拠点まで1キロ足らずという場所に位置する『アルマジロ』は最も危険な戦闘エリアの一つである。にもかかわらず、初めてのパトロールを終えた兵士はこんな感想をもらす。「つまんなかった。撃ち合いとかあれば違うのかな。はやくジェットコースターに乗りてえ」死と隣り合わせの悲壮感とは無縁な、ゲームに熱中する無邪気な少年のセリフとまるで変わらない。戦闘というものがどこかバーチャルで現実味がない。やがて、任務を通じて彼らの中に戦闘のにおいや空気がしみついていく。頬を掠める銃弾や敵の見えない恐怖を感じる極限状態の中で、揺るがない仲間との関係性やタフな心と体を作り上げていく。それは一つの成長とも言えるものかもしれない。と同時に私たちは戦闘の高揚とともに出てくる兵士のセリフに耳を傾けなければならない「あいつらをガンガン殺っても、罪の意識は感じないかも」「部外者は鼻で笑って俺達のことを病んでいるだの人殺しだのいうだろうけど、俺は正しいことをやった」… これは劇映画ではない。ドキュメンタリーだ。極限状態に置かれた人間の変化をずっと追い続けているドキュメンタリーである。



▼『アルマジロ』作品・上映情報
デンマーク/2010/デンマーク語、英語/105分
監督・脚本:ヤヌス・メッツ
撮影:ラース・スクリー
編集:ペア・キルケゴール
プロデューサー:ロニー・フリチョフ、サラ・ストックマン製作:フリチョフ・フィルム
『アルマジロ』公式サイト
※2013年1月19日(土)より、渋谷アップリンク、新宿K’s cinema、銀座シネパトスほか全国順次公開

文:白玉

  • 2013年02月03日更新

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