【実践映画塾 シネマ☆インパクト】さらに熱さを増す シネマ☆インパクトVOL.2 公開記念 撮影現場レポート

  • 2013年01月26日更新

学びながら撮るか、撮りながら学ぶか。
ともかく実践あるのみ!の映画製作ワークショップ・シネマ☆インパクトが開講されて1年が経つ。
昨年秋の第1期作品公開に続き、いよいよ第2期作品5作が公開される。

橋口組撮影風景

講師及び監督は、橋口亮輔、ヤン・イクチュン、山下敦弘、松江哲明、山本政志の5人。今回は「新宿」を共通テーマにして、その条件だけ入っていれば、あとは自由な競作が行われました。

橋口コースの初日、「やり方次第でどうにでもなるので、あとはあんたたちが遊んでね」と山本監督が、生徒たちに発破をかけたように聴こえたが、「遊んでね」じゃなくて「学んでね」の聞き間違いだったのでしょうか……??? ともあれ、「学び」と「遊び」はよく似てる、ということで(!?)各コースとも、この上もなく贅沢でハードな2週間となりました。撮影は2012年5月〜7月にかけて行われました。ミニシアターに行こう。では、橋口監督、ヤン監督の現場を取材。そのもようをお届けします。


出演できない人も! 心に生傷 橋口亮輔クラス『サンライズ・サンセット』
シネマ☆インパクトは嵐を呼ぶ。突発的な出来事が起こります。でも、それをなんとしてでも乗り越えていくサバイバル感に満ちた講座なのです。だからこそ、枠にとらわれない異色作が次々誕生するのでありましょう。第2期は、1期の高田馬場から拠点を新宿に移し、新宿と千駄ヶ谷の二つの場所を使用し授業が行われることになりました。新たに新宿に借りた事務所は広いベランダがあって、山本監督は「気に入ってるんだよなあ、ここ」とご機嫌の様子です(酒場にも繰り出しやすいかららしい)。でも真夏に訪問した際は、めっちゃ暑かったです。

さて、第2期、最初は橋口亮輔監督。
そしていきなり、橋口監督から衝撃の事実が発表されました。「できるだけ出してあげたいけれど、あぶれた人はごめんね」とあらかじめ断りが。第1期は、役の大小はあっても参加者がほぼ漏れなく出演できましたが、橋口監督は選ばれた人のみ起用することを宣言したのです。
これを聞いて、教室の空気がちょっと動きました。

Vシネ制作会社の中、向かって左のポスターが舞台版の小道具

『ハッシュ!』『ぐるりのこと。』など、可笑しみのある人間関係の綾をデリケートに描く監督がこの講座で使う脚本は、97年に演劇として上演したものの改訂版。Vシネ会社のオフィスに出入りする社員や女優や監督たちを、エチュードをしながら選んでいくことになります。

まずは、受講生それぞれの自己紹介。なかなかうまく自己アピールできない参加者たちに、橋口監督はアドバイスします。「自分はこういう人間です、と(しっかり)形容しないといけない。本気でやるなら、人とは、違う自分を掴まないと。バカでもうんこ漏らすでも、自分の“今”を捉えるものをちゃんと出す。ふだん伝えにくい気持ちを、演技で表現することで、見た人が『ここに私がいる。伝えたかったことを言ってくれた』って思うんだ。自分の心を伝えられないで、他人の心を伝えることはできないよ」この話を聞いた後は、皆、だいぶ自己紹介がうまくなりました。

あと、印象的だったのは、「どんな現場でも、心を開いている以上、傷つく。生傷が耐えないんだよ」という監督の言葉。心を表現する仕事だから、その覚悟がなくてはいけないということ。傷を見つめて感じていくことが大切なのだと思わされました。それにしても、短い時間の中で自分をさらけ出すことは難しいものです。でも実践主義の講座ですから、待ったなし。短時間で、自分を売り込んでいかないといけない。いつでもどこでも闘いははじまっていると肝に銘じていないと、サヴァイブできません。自己紹介の日が終わると、台本を使って実際に演じていきます。この時点では、まだ全員が役を演じることができますが、途中で交代して各々の演技を見ながら、最終的に配役を決定するという、オーディションのようなものです。みんな首から自分の本名と役名のふたつの名札を提げていることが、役と素を重ねているようで面白かったです。橋口監督は、役の感情を細やかに説明します。時には自身の経験談なども語っていました。

撮影は配給会社のスターサンズフィルムで行われました。
オフィスのリアルな雰囲気を生かしつつ、舞台版で使った架空の映画ポスターなどが撮影用に貼ってありました。橋口組はムービーカメラ。カメラマンは上野彰吾さん。『ハッシュ!』や『ぐるりのこと。』の撮影も手がけています。室内が狭い上、ワンカット手持ちで回り込んで撮っているので、出演者以外の人間がいる余地が極めて少ない。そのため、今回出演できなかった俳優が見学するのも時間交代制。なかなか厳しい現場。繊細な緊張感がありました。

紙巻タバコの準備中の出演者・三浦英さん

そこで、二枚目売れっ子役者の役を勝ち取った新森大地さんは、「見学者の目線をひしひし感じます。無言のプレッシャーですね」と顔を引き締めました。新森さんは、役作りのため、大きめの時計やアクセサリーや衣裳を自前で持参して身につけています。若手女優役の久保麻里菜さんは、ヒールの高い靴を用意して履いていますが、かなり足に負担がかかるらしく、撮影の待ち時間は脱いでいました。でも本番では、足の負担など全く感じさせません。監督役の三浦英さんは、撮影時に紙巻タバコを取り出します。これは三浦さんが、私生活で吸っているもので、橋口監督がそれを見て採り入れることにしたそうです。「これやってると(肩の力が抜けて)演技のこと、考えなくて済みます」と笑っていました。カットをあまり割らず、俳優が部屋の中を動きながら会話をスピーディーにし続けていくので、俳優は実力を問われます。これはやっぱり授業という感じではありません。かなりプロの仕事を要求されています。

クランクインを明日に控えながら、プロデューサーは借金に追われている。そこへ明日の準備に監督や女優や、脚本をプロデューサーに預けていた男がやってきて、事務所内は慌ただしい……というストーリー、どんなふうに仕上がっているか、早く見たいです!


土砂降りの中でも撮影! ヤン・イクチュンは東京で何を感じたのか? 『しば田とながお』
これまでの監督とはちょっと違う……。
ヤン・イクチュン監督の演技レッスンの仕方は、今までの講義では見たことのないものでした。まず、監督は部屋を薄暗くしはじめました。演技に集中する環境作りをしたのです。デビュー作『息もできない』で注目されたヤン・イクチュン監督ですが、ご本人も「監督歴より俳優歴のほうが長い」と言うように、そもそもは俳優から活動をはじめているので、俳優目線のようです。「俳優の、感情を扱う仕事は、外から見えない秘密の仕事」とヤン監督。だからこそ、「演技する環境を整えたい」と言いました。「地震が起きても演技を続けろ、という人もいるが、賛成できない」とも言っていました。

Tシャツ☆インパクト 暴君

デリケートに密やかな空間の中で、参加者たちがヤン監督に披露した課題は「私の衝撃エピソード」。
ヤン監督の要求は、シンプルだけどハードルが高いです。皆、各々のエピソードを具体的に動きで説明しようとしますが、ヤン監督は「シチュエーションの再現は要りません。その時の自分の感情を見せてほしい」と言います。しかも「ここにいる人たちに見せようとしなくていい」とまで。それで、部屋が映画館のような暗闇で、並んで見ている人たちの姿をなるべく見えなくしてあるのだとわかりました。演技が終わっても「拍手もしなくていいです」と、とにかくたったひとりの世界を作ろうと監督は苦心していました。とはいえ、その人に見せない自分だけの感情というのが、案外難しい。みんな、どうしても理屈(言葉)で説明しようとしてしまいます。突如として、部屋を走り回り壁にぶち当たった人もいましたが、そういう感じでもないようで「見せようとしなくていい。感情(がマックスになった)の瞬間を思い出してください」と静かに監督は言います。中には、その感情について監督が質問を投げかけながら、4回もトライすることも。そうやっていくと、理屈が飛んで、言語の違いに関係なく誰もがわかる普遍的な感情が開放されていくのかもしれません。

ヤン・イクチュン クラスは、他の日本の監督と比べると教えを請う機会も少ないので、受講を希望しながらもかなわなかった人もたくさんいました。第1期深作健太クラス『胸が痛い』で主演した川上史津子さんは、スタッフクラスに応募して、スタッフをやりながらヤン監督のメソッドを学ぶことにしました。その根性はあっぱれです。
ただ、今回はあくまでスタッフクラスなので、エチュードを見てもらうことはできませんでした。「今回はあくまでスタッフクラスだから」と制作の吉川正文さんは大変フェアな方なのです。

ヤン監督は、受講生と語り合いコミュニケーションした後、準備日に、都内の公園に一日いて、台本を書き上げました。そこには、現代の日本——東京とそこに生きる人たちを、異邦人のヤン監督が見て感じたことが詰まっています。「日本人は韓国人とは社会的な雰囲気が違う」と言ってました。感情の表現も明らかに違うことを、エチュードで感じたようです(日本は外に大きく出さない)。そして、その作品は、なんとメインの出演者は3人! 橋口クラス以上に狭き門になってしまいました。撮影はほぼロケ。街の中をゲリラで撮ることが多いので、なかなか見学ができない状態でした。唯一、見学可能なビルの屋上での撮影は、土砂降り。主役に選ばれた長尾卓磨さんは、自己紹介で「サイパンで暮らしていた」と話していた人。選ばれたのは「嬉しいけど、真っ白。不安だらけ」と撮影の合間に語ってくれました。ヒロインの柴田千紘さんときょうだい役に選ばれた新垣昌人さんは、沖縄出身。柴田さんとビーチサンダルをそろえて用意したそうです。「韓国で仕事がしたくて、ヤン監督のクラスを受けた。監督と話したら、韓国のギャラは今安いのでずっと韓国を拠点にしている俳優はいないと聞きました」とのこと。柴田さんは、自己紹介の時、「柴田のシバって韓国では汚い言葉なんですよね」(『息もできない』で出て来たシバラマ〈人を口汚く罵る言葉〉から)と苦笑していた人。「最近、酒に逃げてるのですが真剣に演技のほうはがんばります」なんてことも自己紹介で言っていて、なんだか不思議な感じの面白い女性でした。

ずぶ濡れの撮影

午後、雨足はどんどん激しくなって、百戦錬磨のシネマ☆インパクトスタッフ陣も「こっちの撮影を朝からやればよかった……」と反省していました。スチールカメラが雨でダメになってしまうという悲しい出来事も……。屋上では、柴田さんと長尾さんがひとつの傘をさして、眼下を見下ろしながら、蟻の話をするシーンの撮影です。カメラマンは、初めてヤン監督と組むことになった志田貴之さん。志田さんは『鉄男 THE BULLET MAN』『かぞくX』などの撮影を手がけています。ヤン監督は、傘を柴田さんのほうにあるべく傾けるように指示。男性が女性に優しく接するようにチェックしていたことも印象的。ヤン監督は紳士的で、かつ、タオルで俳優の背中をふくなんてことも率先してやる、細やかな方でした。地上では、見学に来た俳優たちがエキストラ出演していました。橋口クラスで紙巻き煙草を使っていた三浦英さんは、映画に出ることができない上に見学も満足にできないことが悔しくて「この撮影中に残された者たちで1本作品作りたいくらいだ」と待機場で他の受講生たちに話していました。でも、こうやって来たことで少しだけ参加できたのです。見に来て途中で帰ってしまった人もいましたから。こういうガッツも創作活動には大事ですね。

こうしてできた、19分の短編映画『しば田とながお』は、アシアナ国際短編映画祭で最優秀国内作品賞受賞、さらに2013年ロッテルダム国際映画祭にも選出されました。ヤン監督は授業の初日、「『息もできない』で自分のすべてを出し切ってしまったので、今の自分はNEXTを探している」と語っていましたが、この映画にもNEXTの萌芽が見られるかもしれません。

その後、山下敦弘監督の現場も取材したかったのですが、撮影の日、吉川さんに電話すると「夜の撮影場所(ライブハウスを予定)がまだ決まっていない」とのこと。そんなことがあるのか!?とたまげました。そんなこんなで結局、取材に行くことは遠慮しましたが(絶対大変で取材のアテンドなんかやってられないだろうと思いまして)、撮影はちゃんと決行され(凄いぞ、シネマ☆インパクト制作班!)、朝方は新宿でゲリラ撮影も行われたそうです。

山下監督クラスは、衣裳合わせのもようだけ見学できました。こちらにも以前俳優クラスを受講していた女性が制作スタッフとしてキビキビ活動してました。山下監督は、俳優達がもってきた衣裳や小道具を見て、そこからさらに発想を広げます。その様子がとても楽しそうでした。ディテールへの目配りがものすごく細やか。『ありふれたライブテープにFocus』で、ひとりひとりのキャラクターがどんなふうに画面から立ちのぼってくるか、楽しみです!
その他、以前インタビューをした松江哲明監督クラスと、出演できなかった方を一手に引き受けることになってるため今期はかなりの受け入れ人数になってしまってあろう山本政志監督クラスも、刺激的な作品になっていることでしょう。

シネマ☆インパクトVOL.2、5作、ひとつも見逃せません!
橋口監督の「ここに私がいる。伝えたかったことを言ってくれた」という言葉のように、5本の映画にはたくさんの「私たち」が息づいています。

▼シネマ☆インパクトVOL.2作品・公開情報
サンライズ・サンセット

2012/44分
原作・脚本・監督 橋口亮輔






しば田とながお
2012/18分
脚本・監督 ヤン・イクチュン








タコスな夜
2012/28分
脚本・監督 山本政志
ダメ人間たちが繰り広げる新宿の一夜







ありふれたライブテープにFocus
2012/44分
監督 山下敦弘
フィリピンから来た女性の母親を探しを撮影する学生たちのフェイクドキュメンタリー。構成は向井康介




SAWADA
2012/35分
監督 松江哲明
6台のカメラが7人の女とひとりの男を撮るドキュメンタリー。
8ミリ撮影を真利子哲也監督が担当している。






シネマ☆インパクトVOL.2公式サイト

1月26日〜 オーディトリアム渋谷にて2週間ロードショー
※上映スケジュール、期間中のイベント等に関する詳細は、公式サイトをご参照ください。

文・編集・撮影:木俣冬

  • 2013年01月26日更新

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