秋葉原と被災地。二つの街を捉える必然-『RIVER』廣木隆一監督×宮台真司氏トークショー

  • 2012年03月29日更新

秋葉原殺傷事件をモチーフに、大切な人を亡くし心を閉ざした女性が再び前を向いて歩きだすまでを描きだす廣木隆一監督作品『RIVER』。3月24日(土)、廣木隆一監督と社会学者で映画批評家の宮台真司氏によるトークショーが行われた。衝撃的な秋葉原事件を通して、街の持つエネルギーを探し出そうとした本作は、撮影準備中に震災が発生。秋葉原と共に作品中には震災直後の被災地が映し出される。ネオンにあふれた秋葉原と全てがなくなった被災地。この二つの街になにがあるのか?廣木監督と宮台氏による熱い議論が展開された。トークショーの模様をダイジェスト版でレポートします。


生き物としての街。その歴史を思い出させてしまうという意味でドキュメンタリー(宮台)
宮台:秋葉原は90年代後半からオタクの街になるわけです。しかしそれも続かず2003、4年からメイド喫茶、メイドカフェのブームになってからは観光地化しオタクは寄り付かなくなって、その辺りから秋葉原は物語を欠いた街になっていきます。電気屋さんはあるけれどオタクはネットに生息して秋葉原には来なくなる。主人公が秋葉原を歩いてなにも見つからない、残骸しか見つからないという部分はドキュメンタリーなんだと思って拝見しました。
廣木:残骸という考えは面白いですね。僕の目線もそういう風に見ていたのかもしれません。
宮台:映画にとって街はとても大事で生き物。廣木さんも僕も大好きな寺山修二にとっての街、唐十郎にとっての街、若松孝二にとっての街、これは新宿ですが、全部生き物。僕が女子中高生のフィールドワークをしていた頃の16,7年前の渋谷も生き物でした。同じころ、少しずれますけれど、秋葉原も生き物でしたが、生き物としての固有の歴史と表情をもった街というのは(今は)一つもありません。その辺の歴史を思い出させてしまうという意味でドキュメンタリーなんだろうなと。
廣木:もともとドラマをドキュメンタリーみたいに撮れないかというのは思っていました。



街で(通り魔事件が)起きたことは街の持っているエネルギーとかがあるのかなと思って始めたのです。(廣木)
宮台:この映画の特徴は後半、秋葉原に並んで今度は被災地が登場するということですよね。これは、街(秋葉原)になにかを探しに来た女性と、地方(被災地)から街に出てきている男性の対照的な作りになっています。色々な解釈を伝えているような気がするのですが。この秋葉原の映画に被災地が入っているのはどのように理解すれば良いのでしょうか?そもそもこの二つの街をどうして連結したのでしょうか?
廣木:僕らが映画の準備をしていた時、震災が起きました。秋葉原でなにか撮ろうとした時にもっと重要な事が起こっているのではないかというのが気になり、とりあえず行ってどう感じるかっていうことをみてみたいと思って撮りました。宮台さんがおっしゃったように、答えってそれぞれだと思うんです。そこは客にゆだねてしまおうとちょっとずるい事なんだと思うんですけど。
宮台:秋葉原の事件、あるいは震災のように現実に起こった出来事を取り込むというのは、危険なチャレンジですよね。秋葉原の事件を起こした人の動機についての我々の大方の予想は間違っていたことが後に明らかになり、震災についても津波で亡くなった方や放射線に怯えてなにも壊れていない家を後にしてきた人では思いが違うことであるとか、扱いが難しい。そこに敢えて取り組む、秋葉原事件に取り組まれた理由を教えていただけますか?
廣木:基本的には、通り魔事件が目についていて。秋葉原で起こったのは、街と事件との関連性はあるのだろうかということが最初でしたね。加害者がどんなことであれ、街で(通り魔事件が)起きたことは街の持っているエネルギーとかがあるのかなと思って始めたのです。
宮台:でも意外に(エネルギーは)なかったでしょ?
廣木:本当にない。主人公がメイド喫茶に行くのも、日常を超えてメイド喫茶に行っているかと言うとそうではなくて、すごく平坦、フラットなんですね。トモロヲさん演じるところのメイド喫茶のスカウトマンもすごいフラット。誰かと出会うということがフラット(日常的)な感じで、自分の中では引っかかってきませんでした。でもそれが今の秋葉原の現状なんですね。



街と故郷。映画の前半と後半の対比が必然的な展開(宮台)
宮台:後半に被災地に関わる男の子が出てくるというのは必然だったという気がするんですね。昔は街という空間が生き物だったから、人はそこにやってきて、フラットではない非日常(ハレ)を経験して、また日常(ケ)に戻っていくということがあったと思う。しかし、盛り場(街)はホットスポットではもうないんですよね。詳しい話はしませんが96年頃に日本ではホットスポットはほぼ完全に消えて、フラットになってしまいました。しかし故郷は場所ではあるけれど、この映画に描かれているように、なにもなくても故郷なんですよ。場所と言うよりも時間に意味がある。家族を忘れようとして、忘れられない。時間が意味を与える場所としてあるわけですよね。街と故郷。映画の前半と後半の対比が必然的な展開だなと思い、腑に落ちました。
廣木:その部分が腑に落ちてくれるかなという部分が一番心配していました。そこは対比としておさまってしまったという気はしています。
宮台:この映画は面白い映画で、チャレンジングなモチーフにとりくるんでおられるんですけれど、なにか監督のほうがあらかじめ持っていた枠組みにしたがって全体をパッケージしようとしていませんよね。そこがいいところ。これはどういう映画なんだろうと思うのです。期待したメッセージが得られないという事もあるでしょうし、期待したメッセージが得られないということが重大なメッセージになっているとは思うです。映画慣れをしていない若い世代には不可解な映画かもしれないですね。



『RIVER』作品・上映情報
日本 / 2011/ 89分
監督:廣木隆一
キャスト:蓮佛美沙子、中村麻美、根岸季衣、尾高杏奈、菜葉菜、柄本時生、Quinka,with a Yawn、田口トモロヲ、小林ユウキチ、小林優斗
『RIVER』公式サイト
※ユーロスペース他全国公開

ストーリー

恋人を秋葉原の殺傷事件で失ったひかり(蓮佛美沙子)は、事件から数年経ってもなお気持ちの整理がつかず秋葉原を彷徨っていた。そして偶然この街の地下で暮らしているという青年・佑二(小林ユウキチ)と出会う。佑二は両親と喧嘩して実家を出てきたが、3.11東日本大震災で被災した故郷の姿をテレビで見て……。
3.11以降の秋葉原と東北、ふたつの象徴的な土地に立つ若者の姿をドキュメンタリータッチで映し出す。

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文、撮影:白玉

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