『ピープルVSジョージ・ルーカス』— 『スター・ウォーズ』旧3部作ファンの熱狂と、ジョージ・ルーカスへの愛憎を追った異色のドキュメンタリームービー。

  • 2012年03月08日更新

「拝啓、ジョージ・ルーカス様。“遥か彼方の銀河系”は誰のものですか? その創造者?
それとも、それを心から愛するファンのもの?」

 第1作の公開から30年以上が経過した現在も高い人気を誇り、映画史上最も熱烈なファンを擁する作品『スター・ウォーズ』(以下、SWと表記)。特に旧3部作がファンに与えた影響は大きく、その独自の世界観に大人も子供も魅了され世界中でムーブメントを巻き起こした。

 しかし、97年に発表された旧3部作の化粧直しである「特別篇」や新3部作の話題になると彼らの反応は一変する—。

 2012年3月10日(土)より公開の『ピープルVSジョージ・ルーカス』は、SWシリーズに熱狂する人々のディープ過ぎる作品愛と、生みの親であるジョージ・ルーカスへの複雑な感情に迫った異色のドキュメンタリー。ファンの中では完璧だった旧3部作の世界観を、ルーカスはその特権を利用し勝手に壊してしまったのか? そもそも世に出た作品とはいったい誰のものなのか? あるゆる作品に共通する普遍的なファン心理や、過剰なキャラクタービジネスへの疑問などを浮き彫りにする映画として、SWやルーカスのファンでなくても充分に楽しめる作品だ。

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 本作の監督であるアレクサンドレ・オー・フィリップもまたSWシリーズの熱狂的ファンにしてコレクターである。映画業界に革命をもたらし、文化的論争を巻き起こしたこの偉大なる作品について仲間と数え切れないほど議論を重ね、マスメディア史上最も権威と影響力を持つ映画制作者ジョージ・ルーカスとファンとの特殊な関係性を肌で感じてきたひとりなのだ。本作の企画を立ち上げた際、そんな監督のネットでの呼びかけに世界中から届けられたメールは数千通(殺害予告3通を含む!?)、素材映像は634時間分にものぼった。それらすべてに目を通し、数ヵ月にも及ぶ編集作業の末に『ピープルVSジョージ・ルーカス』は完成する。ユーチューブ世代に捧げられたファン参加型の作品なのである。

 本作では多くのSWファンが登場し、その熱い思いをカメラに向かってぶちまけている。撮影班は世界中を周り126回ものインタビューを行った。その中には、ダース・ベイダー役のデヴィッド・プラウズや、著名人・文化人を含むさまざまな人が登場する。彼らの熱狂ぶりに驚きながらも、時折差し込まれるファンのキッチュな手作り映像には感心すると同時に笑ってしまう。子供の落書きからコスプレ映像、パペットを使ったショートムービー、クレイアニメ、ウェブカメラ越しの口ゲンカ、ファンの解釈で本編が再編集された作品、実写パロディーなどなど観ていてとても楽しいものばかり。さながら“SW祭り”とも呼べる一大イベントに自分も参加したような気分だ。

憎しみもまた愛の形? ジョージ・ルーカスへの辛辣でポップなラブレター。

 本作にルーカス自身は直接登場しない。コメントも求めていないし、ファンと対決するシーンもない。なんだかんだと言いながらも、根底にはしっかりとルーカス本人と作品へのリスペクトが込められているように感じる。「愛の反対は憎しみではなく無関心」とはマザー・テレサの名言だったか。よく言ったもので、憎しみも一回りすれば愛に過ぎないのだと不思議に温かい気持ちになる映画なのだ。ポップなオタクムービーの良作としてオススメの1本である。

▼『ピープルVS ジョージ・ルーカス』作品・公開情報
2010年/アメリカ・イギリス/92分
原題:The People vs. George Lucas
監督:アレクサンドレ・オー・フィリップ
出演:ゲイリー・カーツ、ニール・ゲイマン、デイヴ・プラウズ、アンソニー・ウェイ、デール・ポロック、世界中の熱烈な『スター・ウォーズ』ファン ほか
配給:ファインフィルムズ
宣伝:ビーズインターナショナル
コピーライト:(C)2010, Exhibit A Pictures, LLC, All Rights Reserved
『ピープルVS ジョージ・ルーカス』公式サイト
※3月10日より、渋谷シネクイントにてレイトショーほか全国順次公開

文:min


  • 2012年03月08日更新

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