『へんげ』 大畑創監督 インタビュー

  • 2012年03月01日更新

 2012年3月10日(土)より、シアターN渋谷ほかにて全国順次公開の『へんげ』。昨年と今年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭でも大変な注目を集めた本作は、『大拳銃』の大畑創監督の新作である。

「ある日、突然、最愛の人が見知らぬ存在に変わってしまう」 ― 不条理な恐怖に襲われた、ひと組の夫婦の物語。「恋愛・ホラー・特撮・SF」と、あらゆる娯楽の要素が贅沢につまった本作の見どころから、現代日本の映画館事情に関するご意見まで、大畑監督にたっぷりとお話を伺った。

― 『へんげ』を着想されたきっかけは?

「JR中央線から新宿新都心を見たとき、ラストシーンの画が浮かびました」

大畑創監督(以下、大畑) フランツ・カフカの小説『変身』やデヴィッド・クローネンバーグ監督の映画『ザ・フライ』(1986)等、人が異形に変身する物語・特殊メイクを使って作られた映画は、これまでもいろいろと作られてきましたが、自分もそういう作品を作ってみたいと思いました。「『身近な誰かが化け物になって、家族が大変な目に遭う』という話を作ろうかな」と考えていた頃に、たまたまJR中央線に乗って窓外を眺めていたら、新宿新都心が見えたんです。そのとき、ラストシーンの画が浮かび、「これはいける」と思ったのが『へんげ』を着想したきっかけです。そのときは、自分でも感動して涙ぐんでました。

― 主人公の門田恵子役には、はじめから森田亜紀さんを想定なさっていたそうですね。

大畑  当て書き*しました。自主映画なので、キャスティング等はずいぶんと自由が利いたんです。
* 「当て書き」とは、あらかじめ役者を決めて、その役者をイメージしながらシナリオを書くこと。

― 森田亜紀さん・相澤一成さん・信國輝彦さんにメイン・キャストを演じていただくにあたって、大畑監督が出演者に特に求めた点は?

「出演者のお三方がご自分で用意してくださった役作りが充分に素晴らしかった」

大畑  僕からは特になにも言ってないです。脚本を読んだお三方がご自分で用意してくださった役作りが充分に素晴らしかったので、「それでいきましょう」という感じで現場は進みました。

― 上映時間54分の中に、「恋愛・ホラー・特撮・SF」と、娯楽映画のあらゆる要素がバランスよく盛りこまれています。ひとつの物語の中に複数の要素を入れると、ともすれば散漫になる危険性もあるかと思いますが、敢えてジャンルを絞らずにさまざまな要素を入れて作った理由は?

「映画は、いろいろなジャンルをごった煮状態にできる入れ物のようなもの」

大畑 映画は、いろいろなジャンルをごった煮状態にできる入れ物のようなものだと思うんです。たとえば、森崎東監督の作品のように、社会的でシリアスな題材の中におかしいギャグが盛りこまれている等、(1本の中にあらゆる要素を入れた映画は)これまでにもたくさん作られてきました。ジャンルをひとつに絞るのではなく、1本の映画の中にいろいろな要素を入れたほうが贅沢だと感じるので、僕自身もそういう作品を作りたいと思いました。

― あらゆる要素が盛りこまれた作品ですが、大畑監督が本作で最も表現したかったことや、観客のみなさまに最も観ていただきたい点は?

「(人の)欲望がやましいものであればあるほど、それを結実させる人々を描いた映画は、おもしろい作品になるのではないか」

大畑 人間は誰でも欲望を抱えていて、人それぞれにやりたいことがあるわけですが、人が欲望に忠実になる瞬間を見ると、気持ちよくなると思うんですね。その欲望がやましいものであればあるほど、それを結実させる人々を描いた映画は、とてもおもしろい作品になるのではないか、と思っています。そこを観ていただきたい、というのがひとつあります。
  また、僕は「普通の」娯楽映画を作りたい、と考えているので、「純粋な娯楽映画」として観ていただきたい、とも思っています。

― あらゆる要素を敢えて54分の中に収めたのか、結果的に54分になったのか、どちらだったのでしょうか?

大畑 結果的に、という感覚のほうが大きいですね。自主映画で予算が限られていたため、予算から逆算した形で尺が決まってくる、という部分もありました。でも、尺のことはあまり考えませんでしたね。

― はらはらするストーリー展開であるにもかかわらず、拝見しながら、つい笑ってしまったシーンも多かったんですが……。

大畑 笑っていただいて、まったく構いません。むしろ、笑っていただいたほうが嬉しいです(笑)。

― ロケが多かった作品かと思いますが、外で撮影していて困った点は?

大畑 気温ですね(笑)。寒い真冬に西新宿のビル街で撮影したので、キャストもクルーもビル風で足がすごく冷えて、とても大変でした。

― 限られた予算の中で、「ここだけは妥協できなかった・特に力を入れた」という点は?

大畑 特殊メイクです。宇田川祐さんをリーダーに、東京ビジュアルアーツという専門学校で特殊メイクを学んでいる学生さんたちが集まってくれました。

― 特殊メイクを施されていたのは、「変化=へんげ」する門田吉明役の相澤さんでしたね。

「新宿でロケをしたときは、特殊メイクを施された格好の相澤さんを、半日以上、連れまわしてしまいました(笑)」

大畑 相澤さんのメイクが完了するまでに2時間くらいかかりました。新宿でロケをしたときは、半日以上、相澤さんをその格好のままで連れまわしてしまいました(笑)。相澤さんは本当に大変だったと思います。

― 劇場公開の前に、2011年と2012年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭、カナザワ映画祭 フィルマゲドンII、ちば映画祭VOL.4と、各地の映画祭で既に上映されました。本作をご覧になったお客さまのご感想を会場で直接お聴きになったこともあったかと思いますが、印象的だった出来事はありますか?

「カナザワ映画祭で、椅子が足りなくなるほどお客さまがご来場くださったことは、なにより嬉しかったです」

大畑 なによりも嬉しかったのは、カナザワ映画祭で椅子が足りなくなるほどお客さまがご来場くださったことです。本作の上映が終了した途端に大きな拍手をいただけて、本当に嬉しかったです。

― 本作のお話からは離れますが、昨今、ミニシアターをはじめ、映画館の閉館・休館が相次いでいます。大畑監督が観客として、これからの映画館に求めていることはありますか?

「映画を観に行くときは、家では体験できないゴージャス感を期待すると思うんです」

大畑 僕が東京で一番好きな映画館は、(大スクリーンの)新宿ミラノ座です。映画を観に行くときは、家では絶対に体験できないゴージャス感を期待すると思うんですよね。ですから、(新宿ミラノ座のような)大きな映画館の存続を願ってます。

― もっと多くのかたに映画館へ足を運んでいただくために、映画の作り手の視点から、ご提案はありますか?

「『人々を家から引きずり出す』くらいの勢いで、映画の上映そのものをおもしろいものにできればいいな、とは思います」

大畑 作り手である僕らは、おもしろい映画を作るしかないのですが……。たとえば、(音楽ライヴ用の音響セッティングで映画を上映する)爆音映画祭のように、映画館でしか体験できない試みをして、「人々を家から引きずり出す」くらいの勢いで、映画の上映そのものをおもしろいものにできればいいな、とは思いますね。

― 映画の作り手として、日本の映画界に望むことはなんでしょうか?  次世代を担う若い映画監督のかたがたにお会いすると、往々にして「限られた予算」のお話になることが多いのですが……。

「新人監督にも、現場で優しくしてほしいですね(笑)」

大畑 そうなっちゃいますよね。最近は、「少ない予算で若手の監督に映画を撮らせる」といった企画もよくありますが、誰も幸せにならないですからね(苦笑)。
 それ以外のことでは……、新人監督にも、現場で優しくしてほしいですね(笑)。

▼『へんげ』作品・公開情報
2011/日本/54分/カラー
出演:森田亜紀 相澤一成 信國輝彦
監督・脚本・編集:大畑創
音楽:長嶌寛幸  
特技監督:田口清隆  
撮影:四宮秀俊  
照明:玉川直人・星野洋行  
録音:高田伸也・新垣一平・根本飛鳥  
特殊メイク:宇田川祐  
美術:伊藤淳・間野隼人・福井早野香  
衣装:加藤麻矢  
助監督:川口陽一  
制作:名倉愛・藤岡晋介・加藤綾佳
配給:キングレコード
宣伝:ブラウニー
コピーライト:(c)2012 OMNI PRODUCTION
『へんげ』公式サイト
※2012年3月10日よりシアターN渋谷ほか全国順次公開!

取材・編集・文:香ん乃 編集協力:吉永くま

▼過去の関連記事
ちば映画祭 VOL.4―『ロストパラダイス・イン・トーキョー』に『へんげ』、『おばけのマリコローズ』……、日本の映画界を担う監督の作品を堪能しよう。


  • 2012年03月01日更新

トラックバックURL:http://mini-theater.com/2012/03/01/21993/trackback/