『見えないほどの遠くの空を』―中毒者続出の青春映画が、荻窪にて一夜限りのゲリラ上映。

  • 2012年02月22日更新

2012年2月24日(金)、DVD化の予定がない稀有な青春映画が、荻窪にて一夜限りの上映。

 2011年の初夏 ― 榎本憲男氏の初監督作である『見えないほどの遠くの空を』が劇場公開された。ミニシアター系での公開だったが、インターネットを中心に「『見え空』中毒者」が瞬く間に急増。本作の虜になった人々が興奮している様子を、ウェブ上で目にした映画ファンは多かったことだろう。

 映画館の支配人・プロデューサー・脚本家としてキャリアを積んできた榎本氏が、満を持して監督デビューした本作は、2012年2月現在、DVD化の予定がない。全国で順次公開しているが、東京での劇場公開は終了した。しかし、2月24日(金)、荻窪ベルベットサンの「プチぐら★ vol,3 映画『見えないほどの遠くの空を』ゲリラ上映の巻」にて、一夜限りの上映が決定したのだ。当日は、榎本監督と木村立哉氏(映画プロデューサー・エッセイスト)のトーク・ショーもおこなわれる。

映画研究会の学生たちがぶつかる問題と葛藤が、瑞々しく描かれている。

 大学の映画研究会 ― 卒業を控えている高橋賢(森岡龍)は、学生生活最後の作品となる『ここにいるだけ』を監督として撮影中。この映画研究会では、撮る作品をミーティングで決めるため、「監督志望者」の学生全員が、自作を撮れるわけではない。賢がヒロインにキャスティングした杉崎莉沙(岡本奈月)も、実際には「撮りたい・作りたい」と考えている人間で、映画制作に対して一家言を持っている。莉沙は賢の解釈に異を唱え、彼がシナリオには書いていない台詞を勝手に口走った。自分の意志を莉沙に伝える必要があると感じた賢は、彼女に手紙を書いたが……。

 映画作りに傾倒している大学生たちが繰り広げる、若々しい恋の甘みと苦みが鮮烈な青春映画である。主人公の賢とヒロインの莉沙を軸に、映画研究会のメンバーたちによる、「学生だからこそ、社会をこれから知っていく若者だからこそ」ぶつかる問題や葛藤が、瑞々しく描かれている。対立することもあれば、仲間に対して全力で思いやりを示すこともあるメンバーたち ― 彼らを見ていると、自分もこの映画研究会の一員、もしくは主人公そのものになっているかのような錯覚をいだく。

 登場人物の誰に感情移入するかによって、賢と莉沙に対する認識も変わってくる。ただ、誰とシンクロしても共通して考えることになるのは、人間関係でなにが起ころうと、将来が見えなかろうと、生きている限り、人は未来を意識して希望を持とうとする生き物なのかもしれない、という点だ。登場人物たちが若者であるから、せつなさと不安は赤裸々に見えるけれど、これらはどんなに歳を重ねても誰もがいだき続ける爆弾である。映画研究会の面々を通して、自分自身の生きかたと在りかたを顧みることになる。

見えないほどの遠くの空を ― 美しく深遠なこのタイトルがどれだけ的確か、本編を味わい尽くさない限り、決してわからない。

 本作の魅力は、登場人物たちの人間模様だけではない。特筆すべき吸引力は、具体的な伏線が処々に敷かれていることである。だが、それらが「具体的だ」とわかるのは、エンド・ロールを迎えてしばらく経ってからかもしれない。丁寧なストーリーと美しい映像で綴られる作品であるため、伏線の数々に気づけなくても物語は味わえる。しかし、『見えないほどの遠くの空を』という意味深長なタイトルがどれだけ的確であるかは、緻密に敷かれた伏線とその結果を発見して初めて得心できるだろう。観ているあいだはもちろん、観終えて余韻に浸っているときも、「あれは、もしや……?」という疑問が次々と湧きいでてくる。いだいた疑問の答えをひとつひとつ見つけるたびに、高揚感を抑えられなくなる。本作を堪能すればするほど、「繰り返し、観たい」という衝動にかられる。観た回数だけ発見があり、この映画を大切にしたいという気持ちが、必ずや、強まり続ける ― そのとき、「自分もすっかり『見え空』中毒者だ」と気づく。

▼『見えないほどの遠くの空を』作品・上映イベント情報
日本/2011年/99分/ステレオ/HD
脚本・監督:榎本憲男
企画:狩野善則、榎本憲男
製作:岩井博紀、関浩太郎、高森厚太郎、下田淳行、田中久美、木村立哉
プロデューサー:狩野善則、内藤諭、四宮隆史、崎本志穂
撮影監督:古屋幸一
照明:福長弘章
録音:那須信也
整音:臼井勝
編集:石川真吾
衣装:高橋靖子、坪井文美、木下しづ子
ヘアメイク:渡邉茜
音楽:安田芙充央
制作プロダクション:ドゥールー、クジラノイズ
配給:ドゥールー、コミュニティアド
製作:「見えないほどの遠くの空を」製作委員会
コピーライト:(C)2010「見えないほどの遠くの空を」製作委員会
出演:森岡龍 岡本奈月 渡辺大知 橋本一郎 佐藤貴広 前野朋哉 中村無何有 桝木亜子 他
『見えないほどの遠くの空を』公式サイト
※2011年6月、劇場公開。2012年2月24日(金)、荻窪ベルベットサン「プチぐら★ vol,3 映画『見えないほどの遠くの空を』ゲリラ上映の巻」にて上映。詳細は作品及び会場の公式サイトをご参照ください。

文:香ん乃


  • 2012年02月22日更新

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