『DX(ディスレクシア)な日々 美んちゃんの場合』谷光章監督・砂長宏子さんインタビュー障害だけではなく、個性としてのディスレクシア

  • 2012年02月12日更新

読み書きの流暢さと正確さに困難のある学習障害「ディスレクシア」。海外では、米俳優のトム・クルーズさん、ヴァージン・グループのリチャードブランソン会長が公表しているこの障害を取り上げたドキュメンタリー映画『DXな日々-美んちゃんの場合』がポレポレ東中野で公開されている。学習障害を隠しながら職につくため、長続きすることがなく10年で転職12回を繰り返した砂長宏子さんこと美んちゃんが学習障害を公表し、代々木「ユーロデリ」を起業するまでを追う。「ディスレクシアである(ことを)公表し、生き方が変わった」と語る美んちゃんは、明るくユーモアを持って、ディスレクシアに向き合う行動派。谷光章監督と美んちゃんに「ディスレクシア」と作品についてお話をうかがってきました。



書類提出は遅いですけれど基本的に行動は早いんです。(美ん)
-お二人の出会いをお聞かせ下さい
谷光監督(以下谷光):私はディスレクシアを支援する特定非営利活動法人EDGEと付き合いだして10年近くになります。大人のディスレクシアの人達で作られたDX会と言うのがあるのですがそこで会の内容を映像で残しています。最初に美んちゃと会った時、一般の人が考えることではない発想が出来る、他の方からは飛び出たような存在だと感じました。その美んちゃんが「就職試験をやらされるけれどそこでは本音を出せない。本音を出したら自分の障害がばれて就職ができない」と言っているのを聞き、ディスレクシアの人達の困難さを、分かってもらいたいと、美んちゃんに「映画でも撮ってみないか」と声をかけたのです。その夜に美んちゃんから「映画やりましょう」と返事をもらいました。

砂長宏子(以下美ん):書類提出は遅いですけれど基本的に行動は早いんです。

谷光:決めたら早かったですね。決まったことに対してはこちらがどんどんお尻を叩
かれるというか「谷光さん、早くやってよ」って常に言われていました。


イギリスでは一般の人と普通に戦えるような場所がある。クラスのディスレクシアの女の子は成績が一番でした。クリエイティブな部分が突き抜けていて、万華鏡みたいな世界を自分で作り出していました。(美ん)
-イギリス留学中にディレクシアではないかと指摘されたそうですが、イギリスのディスレクシアに対する対応はどのようなものだったのでしょうか
美ん:イギリスで、ディスレクシアの方は試験の時間が他の人よりも2倍の時間が与えられています。また論文の量は半分以下。例えば他の人が5000字だったら私は2000字です。学校のテストは二倍時間があるので、一般の人と普通に戦えるような場所があるという事です。ディスレクシアは芸術に特化した人に多いので、(私が入学したロンドン芸術大学の)クラスには普通に2,3人いました。同じクラスのディスレクシアの女の子はいつも成績が一番でした。クリエイティブな部分が突き抜けていて、三次元、四次元じゃないですけれど、万華鏡みたいな世界を自分で作り出していました。イギリスでは、大学で支援があり、ディスレクシアという言葉を知らない人はいないんですね。ですから(ディスレクシアであることを言うと)「そうなんだ、大変だね。」という会話が成立していました。ディスレクシアの認知度が高いので8歳くらいから親が診断できるようにもなっています。そこから直すようなトレーニングもされているようです。

谷光:欧米の場合はディスレクシアの割合が非常に高く、10%以上いるのではないかと言われていますので、各国とも早くからディスレクシアに対する対応とか教育の支援などは早くから行われていました。日本の場合は漢字があるので文字から意味を読み取れるため、ディスレクシアが判明する時期が欧米に比べて遅いのです。小学校の4~6年生から漢字が書けないということが分かってきて、診断されるのが遅かったりします。発達障害自体は2002年の調査で6.3%いるということが分かっており、ディスレクシアを含むLD(学習障害)は4%と言われていますが、8%位の人が学習障害を抱えているという先生もいらっしゃいます。


母は古いタイプの人間。「信じられないよ、お前が障害者なんて」と言っていてなかなか受け入れることが出来なかったようです。(美ん)
-作品の中では美んさんとお母様との会話の中にディスレクシアと向き合う事の難しさが表れています。
谷光:カメラを構えていたらなかなか言えない本音の話を言っていますね

美ん:いつもあんな風にケンカなんです。母は古いタイプの人間なので、型にはめようとして、普通の教育をどんどんさせてきていたんです。出来ない所を伸ばさなければならないんだという母親の頑固な考えがありましたね。「信じられないよ、お前が障害者なんて」と言っていてなかなか受け入れることが出来なかったようです。やっと最近柔らかくなってきました。今では狭くて小さなお店だけれど、熱い時も寒い時も営業しているのを見て、支援を申し出てくれています。


「自分はここが弱いところで、ここが強いところ」と言える数少ない人間になれたと思います。自分を知ることができるラッキーな人間だなと思えています。(美ん)
自分の人生を悩む人が多い中で自分を知れるという事は貴重な事ですよね。(谷光監督)
-今後の活動についてお聞かせ下さい。
美ん:アメリカやイギリスと同じくらいにディスレクシアの方の認知が高まって「私達(EDGE)の役目がなくなること」ところまで持っていきたいと思っています。私達が日本での先駆者というのは間違いないので。

谷光:この映画に美んちゃんが出てくれたことによって、ディスレクシアの言葉そのものが一般の人達にも覚えて関心を持ってもらい理解を深めていただければと思っています。それから『DXな日々-美んちゃんの場合』は障害があるなしに関わらず、一人の女性が困難に当たりながらも自立していくっていう話に捉えていただければ、これからどうやって生きていこうかという悩みを持っている人達にとってはそのヒントになるかもしれません。

美ん:私はEDGEに入ってからディスレクシアであることを隠すのをやめました。嘘をつく生き方からオープンにすることによって前向きに生きられるようになりました。ディスレクシアであることを言う事で周囲が暖かく話を聞いてもらえる状況になり、ストレスがなくなりました。ディスレクシアを表明したことで「自分はここが弱いところで、ここが強いところ」と言える数少ない人間になれたと思います。そう、自分を知ることができるラッキーな人間だなと思えています。

谷光:自分の人生を悩む人が多い中で自分を知れるという事は貴重な事ですよね。




『DX(ディスレクシア)な日々 美んちゃんの場合』作品・上映情報
2011年 HDカラー 81分
企画・演出・撮影・編集:谷光 章
撮影:三橋 好博
撮影助手:稲盛 陽介/竹俣 一/蕪木 靖久
出演:砂長宏子・渡辺 ゆり子・保村 真

『DX(ディスレクシア)な日々 美んちゃんの場合』公式サイト

1/28(土)よりポレポレ東中野にて公開中

文・編集・撮影:白玉

 

 

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