『フラメンコ・フラメンコ』-本国スペインで“最高の芸術作品”と賞されるフラメンコ映画の決定版! 超一流アーティスト達がセッションする魅惑と官能のステージ。

  • 2012年02月12日更新

 フラメンコといえば、妖艶で蠱惑的な女性ダンサー、赤と黒の裾のたっぷりとしたドレスを身に纏い、床を靴で打ち鳴らし激しく情熱的に踊る ― 大方そんな印象だろうか。もちろん、それは間違いなく、フラメンコによく見られる特徴のひとつ。しかし、ほんの一部でしかない。本作『フラメンコ・フラメンコ』は私達がまだ見ぬフラメンコの魅力、その奥深さ、幅広さを存分に堪能できる作品である。スペイン映画界の巨匠カルロス・サウラ監督と、世界屈指の撮影監督 “光の魔術師”ことヴィットリオ・ストラーロが創りあげる舞台のテーマは、「生命の旅と光」。誕生から終焉、そして再生を、多彩なフラメンコ音楽、ダンスによって美しく表現する。

幻想的な空間と甘美な歌から始まる生命の旅。

 全21幕で綴られる生命の旅は、第1幕からハッとさせられる。いくつものスペイン絵画が並ぶ幻想的な舞台。ゆっくりとリズムを刻みながら表れるのは美しい女性のシルエット。ダンスや歌が始まる前に、まずその美しさに目が眩んでしまった。 朗々とした男性のカンテ(歌)の後、バイレ(踊り)の女性が高めの音域でバラードのように優しく歌い上げる。フラメンコといえば女性でも低音を響かせる歌い手が多い。迫力あるハスキーヴォイスを想像していた人は、まず1幕で心地よく裏切られ、このロマンティックさに驚かされることだろう。フラメンコにはこんな世界もあるのかと。

歌、踊り、演奏、様々な魅力が伝わる演出の幅広さ。

 例えば4幕のフラメンコ・ピアノ。服装や肌の色が対象的なピアニスト二人が、同じく対象的な曲調で伝統的なフラメンコの楽曲を鳴り響かせる。ジャズのような軽やかさと民族音楽の重厚感がせめぎ合う感覚はとても新鮮で、フラメンコという音楽ジャンルそのものの面白みを感じてワクワクする。そんな私達の知らない「新しいフラメンコ」を見せたかと思えば、世界的ダンサーのサラ・バラス、「ギターの神様」パコ・デ・ルシア、カンタオールの巨匠ホセ・メルセーなどの押しも押されぬ有名人が、伝統と実力に裏打ちされた、圧倒的な表現力と情熱の波で私たちを飲み込んでしまう。 これだけの豪華なキャストが織り成すバラエティに富んだステージを一挙に拝めてしまうのだから、かなり贅沢な101分と言っていい。

フラメンコの根源的な魅力に気づかされる。

 作中には、机を叩く音とカンタオールの声だけというシーンや、静寂の中、たった一人の踊りのみというシーンなど、フラメンコが持つそれぞれの要素をとことん深く掘り下げたパフォーマンスも多く見られる。手を叩いてリズムをとり、足で大地を踏み鳴らすバイレ、傍には、魂を震わすかのごとく身体ごと鳴り響かせるカンテ。一見、華やかな印象を持つフラメンコは、実は原始的な表現技術を突き詰めたものなのだということに気づかされる。それはきっと、「音楽やバイレの美しさ以上の何かを、カメラの前に持ち込むことは、ただフラメンコの純粋さに対する背徳行為しにか思えてならない」と語るサウラ監督の思いが形になっているからだろう。

 老若男女、様々なアーティスト達が魅せる幅広く・奥深いフラメンコの世界。その美しさ、とくとご堪能いただきたい。

▼『フラメンコ・フラメンコ』作品・公開情報
2010年/スペイン/110分
原題:FLAMENCO, FLAMENCO
監督・脚本:カルロス・サウラ
撮影監督:ヴィットリオ・ストラーロ
音楽:イシドロ・ムニョス
出演: サラ・バラス、パコ・デ・ルシア、マロノ・サンルーカル、ホセ・メルセー、ミゲル・ポベダ、エストレージャ・モレンテ、イスラエル・ガルバン、エバ・ジェルバブエナ、ファルキート、ニーニャ・パストーリ 他
配給:ショウゲート
宣伝:ザジフィルムズ
『フラメンコ・フラメンコ』公式サイト
※2月11日 Bunkamuraル・シネマにてロードショー

文:しのぶ


  • 2012年02月12日更新

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