師匠キム・ギドク監督との共通点そして、異なる点は?― 『ビー・デビル』チャン・チョルス監督インタビュー

  • 2011年03月29日更新

住民9人の孤島、そこに生きるキム・ボンナムという女性が引き起こす悲劇を描く『ビー・デビル』。カンヌ映画祭出品他、多数の映画祭で受賞した本作品は、本国、韓国で30館の公開スタートだったにも関わらず、口コミにより100館にまで拡大。異例の大ヒットを記録した。主人公、ボンナムの心の闇を素手でつかみ出すのはチャン・チョルス監督。衝撃的なストーリーを描く監督は穏やかで、質問に対しても言葉を選びながら真心をこめて答える点が印象的。師匠キム・ギドク監督の遺伝子を感じさせる本作、キム監督との関係についてもうかがってきました。

 

 

常識を混乱させる、時間をとめてしまうような事件を描きたかった

―衝撃的なストーリーです。脚本はどのように制作されたのでしょうか
シナリオはこれまで起きたおぞましい事件、一つではなくていくつかが重なって脚本にまとめていきました。多くの事件の中には時間をとめてしまうような事件と言うのがありますよね。今まで自分が思ってきた人間の姿と言うのはこうだとか、社会の姿はこうだとか思い込んでいたものがあったとしたら、その常識を混乱させるような、揺さぶるような事件が中にはあると思います。今回、映画の中に取り入れた事件も韓国社会を揺るがした事件。それをいくつかまとめていきました。

―自分の構想をまとめる時に、ニュースに対する一般的な意見に耳を傾けたりしますか?
映画というのは個人の作品として作るのは難しいんですね。多くの人が関わっていますし多くの予算もかけなければならないので、小説とは違って一人では作れないものだととらえています。この作品を撮るときにも(自分が考えた意見に)同意してくれる場合もありますけれども、一部では同意してくれない人もいるわけです。その時には自分が考えていた世界を信じるようにしていました。自分が経験したこととか、見てきた世界を他の人にも見せるんだという考えを持って。見たくない姿かも知れないけれど、見せる価値があると思ったところに関しては押し通しました。(C)2010 Boston Investments Co., Ltd. and Filma Pictures. All Rights Reserved.

 

ソ・ヨンヒさんから引き出すものは演技ではなくて、彼女の心の痛み、彼女の心の傷

―キム・ボンナム役のソ・ヨンヒさんにはどのようなコミュニケーションをとられましたか。
俳優という仕事は本当にさびしくて孤独でつらいものだと思います。多くの人が取り囲んでみている中で誰にも助けてもらえずに一人で演技をしなければならない。そういう俳優にとって現場で唯一助けてあげられるのは監督です。お互いできるだけ話をして、俳優さんが難しいと思っていることは何なのかということを聞くようにしていました。ソ・ヨンヒさんから引き出すものは演技ではなくて、彼女の心の痛み、彼女の心の傷。彼女にはできるだけ本心に近い演技をしてもらおうと考え、本心の表現とはなにかということを話し合って作っていきました。

―一方的ではなく、キャッチボールでやり取りをされたんですね
私の、演技スタイルはまず俳優さんに演技をしてもらい、俳優さんがシナリオを読んで、シナリオ通りに演技してもらい、観客の立場にたって、ここはもう少し抑えたほうがいいんじゃないかとか、そこはもうちょっと強調したほうがいいんじゃないかという所を見ながら調節していくスタイルです。ソ・ヨンヒさんの場合、最初はなかなかうまくいかなかったのですが、後になってから息もあってきてこちらがあまり言わなくても自ら考えて演技をしてくれ思った以上の演技をしてくれました。(C)2010 Boston Investments Co., Ltd. and Filma Pictures. All Rights Reserved.

 

キム・ギドク監督との共通点は追い詰められた状態で生き残ろうとするところ(笑)、異なる部分は・・・

―キム・ギドク監督の助監督をされていたということで、今回の作品もキム・ギドク監督の世界観に通じるものがあります。ご自身でキム監督に共通する点はどういう所ですか。
似ているところは切迫した状態・・・追い詰められた状態で生き残ろうとするところ。生き残ろうとする人を描いているところですね。キム・ギドク監督も私も豊かな環境で育ったわけではないので、この世界の中で生き残らなければならないですから(笑)。

―反対にキム監督と異なる部分というのはどういう所ですか。
違う点があるとすると、キム・ギドク監督のほうが日向の中の影・・・日蔭の部分に焦点を当てて見せようとします。私の場合は日蔭の中から日向に注目をしています。自分自身は日蔭にいるんだけれども日向を見つめている。キム・ギドク監督は日向への憧れ、私の場合にはそこに行きつくための努力をするということですね。
もうひとつ違いを挙げるとすれば、キム・ギドク監督は自分が愛されずに育ったと思ってらっしゃる。なんとか自分が救われたい、どんな手段でもいいから救われたいと思っている。私の場合には愛情を注いでもらって育ったので、自分に愛情を掛けてくれた人が救われて欲しいと考えるんです。



恒例の靴チェック
靴は韓国で買っています。二つ買って一つはお父さんに一つは自分で履いているんです。
お父さん思いの監督でした。






監督:チャン・チョルス
2008年、韓国映画シナリオマーケット最優秀作品賞を受賞したチェ・クァンヨンの脚本を基に本作を完成させ、第63回カンヌ映画祭のダークホースとして急浮上し、国内外のマスコミと観客から大きな注目を集める。弘益大学視角デザイン科出身。2000年初め、日本での語学研修中にキム・ギドク監督の『魚と寝る女』(00)を観て直ちに帰国。ひたすらキム・ギドク監督のもとを訪ねて『コースト・ガード』(01)の演出部として映画界でのキャリアをスタートさせた。以後、『春夏秋冬そして春』(03)、『サマリア』(04)の助監督を経て、『恋する神父』(04)では商業映画的な感覚も身に付けた。そののち、初監督作となった本作で、カンヌ映画祭を熱狂の渦に巻き込んだ。

▼関連記事
『ビー・デビル』-救いを求める手を黙殺する人々。物語はそこから始まる

取材・編集・文・スチール撮影:白玉


  • 2011年03月29日更新

トラックバックURL:http://mini-theater.com/2011/03/29/14624/trackback/