『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』

  • 2010年08月23日更新

Rijksmuseum

レンブラントやフェルメールなど、数々の大家を生み出した芸術大国オランダ ― そのオランダでも随一の美術館と言われる「アムステルダム国立美術館」で、2004年、大規模な改修工事が始まった。ところが、華々しく計画が立ち上げられたものの、蓋を開けてみるとトラブルの連続。自転車愛好家の「サイクリスト協会」を中心とする地元市民の猛反発に始まり、館長、建築家、官僚など、様々な人々の思惑が交錯した結果、計画は二転三転。国の重要な観光資源がなんと2010年の現在もまだ工事中のままという、日本では考えられない事態に。一体、この権威ある美術館に何が起こったのか? 『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』は、その一部始終を克明に伝えるドキュメンタリーである。

ヨーロッパでも有数の歴史ある国立美術館。だが、その華やかさとは裏腹に、改修計画はこじれにこじれゆくばかり。 改修が立案されて以降、6年も頓挫中という状況から 、その内情は想像に難くないだろう。

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多くの職業人が身に覚えのある、政治力や複雑な人間関係によって計画が混迷を極めていく様は、見ているこちらが頭を抱えたくなる。 しかし、そんな努力の報われない悲壮感が全体を覆いながらも、どこか滑稽さや微笑ましさを感じてしまうユーモアやアイロニーも、この作品には漂っている。

この117分に及ぶインタビュー形式の長編ドキュメンタリーから目を離せない理由は、登場人物の魅力にある。 館長から一市民に至るまで、どの人物も特徴的なのだ。 「役者じゃないの?」と疑いたくなるくらい、個性的な面々ばかりである。 皮肉を言う老人、嘆く建築家、黙々と名画に向かう修復家、仏像に見惚れる学芸員 ― 職業的立場から発せられる主張の中に、各々が美術館に抱く夢や理想、プライドなどが滲み出る。

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徹底した取材と卓越した編集が素晴らしい本作を観ていると、オランダの美術館を舞台に悩み続ける人々の姿に、遠い日本にいる筆者も、時に吹き出しつつ、ぐいぐいと引き込まれていった。

個性的な人物たちが繰り広げる騒動に加えて、学芸員のミーティングや名画が並ぶ収蔵庫の様子といった美術館の舞台裏、議論と自転車が好きなオランダ人の国民性など、カメラが捉えた見所は多岐に及ぶ。なにより、「市民のための美術館とは何なのか?」という全編を通しての問いかけは、アムステルダム市民でなくとも、思想を巡らせざるをえないだろう。

表情豊かなオランダ人が織り成す人間模様を楽しみながら、「これが日本だったら?」、「自分の住む都市なら?」と是非、考えてもらいたい。

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▼『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』作品・公開情報
オランダ/2008年/117分
原題:”HET NIEUWE RIJKSMUSEUM”
英題:”THE NEW RIJKSMUSEUM”
監督:ウケ・ホーケンダイク
出演:アムステルダム国立美術館の館長・学芸員他
配給:ユーロスペース
コピーライト:(C)PvHFilm 2008
『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』公式サイト(注:音が出ます)
※2010年8月21日(土)より、渋谷・ユーロスペース(東京)にてロードショー他、全国順次公開。

文:しのぶ
改行

  • 2010年08月23日更新

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